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墓王!  作者: 菊次郎
帰宅
47/129

約束 -セフィリアの独白-

ご覧頂きありがとうございます。


前回に続きセフィリア語りです。

 ワシとアリスはいつもの様にギルドで依頼を受け、森で狩りを始めたんじゃ。確か…その時のターゲットはアークオオヒラタじゃったな。地上を歩くでっかいクワガタみたいな魔獣でな、弱点は腹じゃからアリスがアークオオヒラタを蹴り上げ腹を見せたところを殴り倒すという作戦じゃった。


「あ、オオヒラタがいた!じゃあセフィちゃん、打ち合わせ通りで」


「うむ、周辺の警戒とバックアップは任せろ」


「いっくよー!」


 アリスは勢い良く駆け出し、彼女の存在に気づいたアークオオヒラタはギチギチと警戒音を発し始めたんじゃが、そんなことは気にせずアリスは突っ込みよる。アークオオヒラタは大顎でアリスの足を噛み切る…と見えた瞬間アリスは一歩下がり、大顎の噛み切りを空振りさせたんじゃ。その閉じた大顎をすくうように蹴り上げ、無防備な腹にアリスが連打して終わり、そう思ったんじゃ。じゃがアリスは大顎を蹴り上げられず、自身も驚いたのかそのままの姿勢で固まってしまい、アークオオヒラタはその隙を逃さずもう一度大顎を開いて…


「『ガルアの炎槍』!」


 ワシは短詠唱で魔法を唱え、大顎を開いたアークオオヒラタの口の中に炎槍をブチ込むことに辛うじて成功し、口の中に炎槍を押し込まれたアークオオヒラタの体を爆散させることが出来たんじゃ。まあその余波でアリスもちょっとすっ飛んでしまったが、怪我も無さそうじゃしご愛嬌じゃ。

 アリスはまだ呆然としておるが、ワシも短詠唱で魔法を使ったせいで、若干息切れを起こしていてな、すぐには声を掛けられないんじゃ。

 短詠唱だと魔力の変換効率がかなり悪くてな、急に大魔力を注ぎ込んだのでな中々にワシも辛かったわ。

 少しの後、息を整え、


「アリス、無事か?」


「あ、う、うん。ありがとう、ごめんね?なんか体調悪くて…」


「そういう時は早めに言うもんじゃぞ。さすがのお主も体調が悪くなるとかあるんじゃな…」


「もう!私をなんだと思ってるの!」


「…」


「ちょっと黙らないでよセフィちゃん、私が馬鹿っぽく見えるじゃない」


「さあ、とっとと討伐証明を探すぞ。どこまで飛んでいったのやら」


「セフィちゃぁ~ん」


 そんなふうに冗談っぽくすることで、暗くなりがちな雰囲気を無くすことができたんじゃ。

 じゃが、これはほんの始まりでしかなかったんじゃ…


 それ以降、時を追うごとにアリスのミスが目立つようになってな。最初は痛打を与える時だけミスを出していたんじゃが、終いにはアリスの真骨頂とも言える足捌きにも影響が出てな。段々と狩りに行かず部屋に引き篭もるようになってしまったんじゃ。

 部屋に篭もるアリスに何度も訪ねて、一体何があったのか、ワシに出来ることはないかと声を掛けたんじゃが…いつも辛そうな笑顔を浮かべるだけで終ぞ返事を聞くことは無かったわ。

 じゃがある日、ワシが買い物で部屋から出ると通りまでアリスが追いかけてきてな、こう言い寄ったわ。


「セフィちゃん!結婚しよ!」


「…いきなり何を言いよる。女同士で結婚なぞできるわけがなかろう」


 いつも突拍子もないことをしでかすアリスじゃが、さすがにこれは無いぞ。


「できないの?」


「たぶんな」


 ワシも法に詳しいわけではないからな、本当かどうかは分からん。


「でも頑張ればできるよね!」


「どうしてそうなる…そもそもお主は結婚というものを分かっておるのか?」


「ずっと一緒にいることでしょ?」


「まあ…大体合ってるかの」


 子を成す為という考えもあるが、子が出来ない夫婦は離婚しなくてはいけなくなるし、アリスの返事のほうが合ってる気がするんじゃ。どのみち結婚したことがないワシが語れることなど殆ど無いがな。


「でしょ?だから結婚しよ!」


「じゃから…ワシは女同士は趣味ではないぞ」


「むー、どうしてもダメ?」


「うむ」


「じゃあ、決闘しよ!勝ったほうが相手を好きにできるの!」


「じゃから、どうしてそうなる」


「お願い、セフィちゃん」


 いつものアリスと違って真剣に頼み込んできた。しかも…それだけではなく、どことなく追い込まれているようにも感じたんじゃ。これを断ったらアリスがどうかなってしまうような気がしてな。


「分かった。じゃが結婚どうこうは抜きじゃぞ?あと決闘と言ってもいつもの模擬戦でいいじゃろ」


「うん!とりあえず私のお願いを聞いてくれればいいから!」


 久しぶりにアリスの笑顔を見れてワシも嬉しかった。それに…なんのかんのでアリスとの戦いは胸躍るものがあるし、久しぶりの模擬戦でワクワクしていたわ。


「じゃがお主の体調は大丈夫なのか?最近臥せっていたじゃろ?」


「しばらく休んだから大丈夫だよ!」


「そうか、では模擬戦は草原でいいか?」


 森の中でアリスと模擬戦したこともあるが全敗じゃった。少しでも遮蔽物があると、アリスに対抗することが全然出来ないんじゃ。遮蔽物のない草原なら大体が引き分けになるから、アリスのお願いも有耶無耶になるかもしれん。


「うん、それでいいよ。じゃあ早くいこ!」


 そういってアリスはワシの手を引いて街の外にある草原まで向かったんじゃ。

 周りに被害が及ばない場所に辿り着きアリスと相対して、


「ではアリス、いつものようにな」


 いつものように、とはワシの魔法はアリスには当たらんからの、模擬戦ではワシの魔力かアリスの魔力か先に尽きたほうが負けとしていたんじゃ。アリスの手や足で魔法を捌く技の”柳風”は結構魔力を使うらしいので、いかにワシが多くの魔法を当てるかで勝負が決まるんじゃ。


「セフィちゃん」


「なんじゃ?」


「全力を出してよ」


 また先ほど見せたような真剣な表情をワシに見せてくれたんじゃ。それが何を意味するか判らずに…


「ワシはいつでも全力じゃ」


「よかった!」


 そんな破顔一笑したアリスと距離を離して相対し、


「ではアリス、いくぞ!被せ射り逃さず『焔の矢衾』」


 これが合図となり戦いが始まったんじゃ。ワシの前に50本ほどの焔の矢が現れアリスに向かって飛んで行く。いつものようにアリスは矢の薄いところに飛び込み”柳風”で焔の矢を捌きながら、こちらに突進してきおる。ワシも後ろに飛び退りながら次の魔法の詠唱を始めたんじゃ。


「裂け砕き暴れよ『焔の弾』」


 アリスとワシの中間地点に炎弾が着弾し、爆風をまき散らしたんじゃがこれはアリスの足を止めるための牽制。次が本命じゃ。土煙が収まる前に、


「燕となり飛び向かえ、ガッ、…『ガルアの焔槍』!」


 アリスが先の爆風で飛んできた石を受け止めていたのか、手にある石をワシに投げつけてきおった。額に当たって詠唱が途切れそうになったが、この程度で途切らせていてはアリスの相手などできん。なんとか詠唱を完成させると目の前に焔の槍が浮かび、すぐにアリスへと殺到したんじゃ。この焔の槍は空を飛ぶ燕のように空中で軌道を変えるからアリスでもそう簡単には回避できん。回避はできんがアリスの”柳風”でいなされるじゃろう。それを見越して次の詠唱に入ろうとアリスのほうを見るとな、”柳風”を発動しようと焔の槍に手を添えて…そのまま焔の槍をその身に喰らい貫かれている姿があったんじゃ。


「ア、アリス…?」


「あ、あはは…やっぱ駄目だったね…ケフッ」


 右の上半身は酷い火傷を負っており、右手はすでに見当たらない。


「アリス待っておれ、すぐに治癒術士を…!」


「セフィちゃん…待って、無駄だから」


 立とうとしたワシの袖を残った左手で弱々しくアリスは引き止めておった。


「何を言っておる!すぐに!」


「私ね…魔力欠損症だって…」


「だからどうした!とにかく治癒を…」


「…もうね、魔力が無いの…回復も…殆どしてないんだよ」


 ワシの手に負えん怪我じゃったから、兎に角治癒術士に見せることしか頭に思い浮かばなかったんじゃ。じゃが、アリスの言葉が頭のなかにゆっくりと…ゆっくりと染みていったんじゃ。

 治癒魔法は傷が治った状態を維持するのに、自身の魔力を必要とするんじゃ。つまり、被術者に魔力が無かったら治癒魔法の効き目は…無い。

 ハァハァと荒い息を吐くアリスに対して、ワシは打つ手立てが無く呆然と傍にいるだけじゃった。


「…セフィちゃん、ごめんね」


「謝るのはワシのほうじゃろうが!」


「ううん、こんな…ゴホッ、ことになって。もっとセフィちゃんと…一緒にいたかったなぁ」


「ひょっとしてお主のお願いとは…」


「……うん、ずっと一緒にいて欲しかったんだ。でも…私…もう魔力無くて…」


「そんなことで!」


「ううん、そう…じゃないと…セフィちゃんの…隣にたて…ないでしょ。だから一緒に…いるには結婚すればいいかなって」


「お主はアホか!」


「えへへ…セフィちゃんと一緒に…なる人はね、セフィちゃんより…強い人じゃなきゃ駄目なの。だから…最後に残った魔力で…セフィちゃんに勝てるかなって…思ったけど、やっぱり強かったなぁ…」


「ほんにすまん!ワシが全力を出したばかりに…」


「ちがうよ、セフィちゃん。ゴホッ…私の…決闘に全力で答えてくれた…そんな…セフィちゃんが私の自慢の友達」


「…」


「気にしないで…というのは無理かもしれないけど…どうか、今までのセフィちゃんの…ままでいてね?」


「約束する、約束するから、死ぬなアリスぅぅ…」


「…ごめんね?ふぅ…これでお父ちゃんに自慢…できるかな。私の…友達は…こんなに…」


「アリスぅぅ…」



 それから10分もしないうちにアリスの鼓動は止まり、二度と言葉を紡ぐことはなかったんじゃ。

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