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墓王!  作者: 菊次郎
帰宅
46/129

友 -セフィリアの独白-

ご覧いただきありがとうございます。


これから3話はセフィリア語りです。

 ワシは幼いころから親元を離れ、魔法使いのクソジジイに弟子入りしておったんじゃ。このクソジジイが山奥に住む、また偏屈な師匠でな…と、まあこれは余談か。このクソジジイの元で修行を終えたワシは、アークという街で冒険者家業を始めたんじゃ。当時からワシは膨大な最大魔力と放出量を有しておったからな、早々に冒険者ギルドで名前が売れておったんじゃ。


 じゃが、その時のワシは単に魔獣を倒すことだけなら得意じゃったんじゃが、魔獣から何かを採取できるように倒すのが苦手でな…こればかりは魔法使いの宿命とも言える欠点じゃった。


 そこで困っておったワシはどこかに良いパーティーが無いかと探したんじゃが…これがまた碌でもないところばかりでの。ワシの魔法だけ頼りにして、ろくすっぽ働かなかったり、ひどい時には野営してる時に襲いかかってくる馬鹿までおったわ。ワシをコマせば言うことを聞かせられるとでも思ったのかの…まあそんな輩には人間たいまつを味わってもらったが。中々によく燃えてくれたわ。


 さすがにギルド側も見かねたのか、似たような悩みを持つ冒険者を紹介してくれたのじゃ。それが我が友となる、アリスじゃった。



 ワシはギルドから紹介されたアリスとかいう女に会うため、指定された酒場に行ったんじゃ。待ち合わせ場所の酒場に入ってウェイトレスに声をかけると、事情を承知していたのか奥の個室に通され、部屋に入ると一人の女の人が座っておったな。

 その女は軽くウェーブの掛かった明るい赤の髪を肩まで垂らし、何が楽しいのか笑顔を浮かべておったわ。薄くソバカスはあるが、その表情と相成って田舎の純朴な少女という雰囲気じゃった。そして髪の間から覗く一対の耳、ピコピコと動く猫耳が乗っかっておった。彼女は猫人族の少女じゃった。可愛いというより愛くるしいというのがピッタリの女子おなごじゃったな。

 彼女の周囲を見るとじゃ、ワシと同じ冒険者のはずが武器らしい物が見当たらなくてな。同業の魔法使いなのか、違う何かなのかは分からんかったわ。


「待たせてすまなんだな。ワシがセフィリアじゃ」


「こんにちは!私はアリスよ!私と組んでくれてありがとう、セフィちゃん!」


「…いきなりテンション高いのぅ。で、まだ組むと決まったわけではないぞ」


「ええ…」


 萎びたひまわりのようにうなだれる姿を見ると、ワシが悪いことをしたような気分じゃったわ。


「…組まないとも言ったわけではないぞ」


「やったぁ!ありがとう、セフィちゃん!」


 ONかOFFしかないのか、この娘は。


「じゃから人の話を聞け。あとセフィちゃんとは一体なんじゃ?」


「セフィリアだからセフィちゃん」


「…」


 猫人族は警戒心が強いと聞いたことがあるのじゃが…何なのじゃ、この子は?


「…まあよい。では早速で悪いが、何故パーティーを組みたいのか聞いても良いか?」


「私ね、当拳術で戦ってるの」


「ふむ、それは珍しいの」


 当拳術とはその名の通り拳一つで戦う者のことを言んじゃが…女で当拳術を主にしているのは聞いたことが無い。身体強化で補助しているのじゃろうが、それは元になる筋肉の多い方が効果も大きくなるからの、普通は男が使っておる。更に言うと拳より武器を使ったほうが色々と便利じゃからのう…当拳術は武器が使えない時の補助程度にしか使われておらん。華奢な彼女が使い手と言われてもピンとこんわ。


「それでね、当拳術で戦ってるって言うとね、パーティー組んでくれる人があんまり居ないんだよね。あとは決定力がちょっと足りない時があるから、そこら辺かなぁ」


「ふむ…なるほどの。実際どこまで戦えるんじゃ?」


「レッドグリズリーくらいなら余裕だよ!」


「レッドグリズリーじゃと…?あれは立ち上がると身長3mもあるじゃろうが。どうやって戦うというんじゃ?」


 そもそもレッドグリズリーは刃も通り難く魔法も効きづらいという難儀な敵。高火力で押し切るか打撃を加えるくらいしか対処方法は無いはずじゃ。素手で戦うというアリスが対処できるとは思えんの。


「足蹴って頭下がったらバーンって叩けば倒せるよ」


 言いたいことは何となく分かるが、それが本当にそんなことができるのか疑わしいんじゃが…


「むー、疑ってるね?」


 雰囲気を察したアリスは若干不満気な表情を浮かべリスのように頬を膨らませていたな。


「聞いたことが無いからのぅ…」


「分かったよ!じゃあちょっと外にいこ!」


「どこに行くというのかね?」


「いいから!」


 手を引かれ酒場の外に連れて行かれたんじゃ。掃除をしていたウェイトレスにすぐ戻る(たぶん)と伝え、どこに向かうのかとアリスを見ると何かを探しているようにキョロキョロとしておった。探しているものが見つかったのか小さな公園のような場所に引っ張られたが…見かけと違ってとても力強かった覚えがある。


「ちょっと今からやるの見ててね!」


アリスはそう言って一本の若木の前で立ってな、


「ゥニャッ」


 小さく息を吐いたアリスは若木の根本に一歩の踏み込みと同時に一打の蹴りを加えると、若木は打撃を加えられたところからメキメキと折れ、短い寿命を終えることとなりおった。若木といえど幹の太さは15cmほどもあるからの…かなりの打撃力であることだけは確かじゃが。一瞬だけの身体強化、打撃を加える瞬間の身体硬化だろうかの、ほんの僅かな魔力だけで最大の効果を得ているように見えたな。


「見事な技じゃの…」


「でしょ!」


 得意満面な表情を浮かべ、むふーと息を吐くアリスだが、まだ見せたいものがあるのか続けて言葉を紡いだ。


「まだあるよ!セフィちゃんって魔法使いでしょ?ちょっと私に魔法撃ってみて」


「…何を言っておるのだ?」


「こう私に向かって魔法の矢でも玉でもどーんと」


「当たったらタダ事では済まんのだぞ?まあお主なら避けるか…」


 どうにもアリスが何をしたいのかが分からんが、当たらないように打てば良いだろう。


「穿て『火の矢』」


 ワシの目の前に一本の炎の矢が浮かびアリスに向かう。込めた魔力が最低限なこともあり、若干ヘロヘロと頼りない動きで飛んでいった。それをアリスはどうするのかと見ていると…飛んできた矢のシャフト部分に手を当てたかと思うと、そのまま矢を後ろに放り投げおった。


「…はあ?」


 地面に投げた卵が割れずに跳ね返ってきたような、あり得ん光景を目にした気分じゃった。恐らくは手に障壁なりを張って放り投げたんじゃろうが、炎の矢は衝撃が加われば容易に破裂し周囲に炎をまき散らすはずじゃが…


「もう!そんな適当なんじゃなくて、どーんと戦う気持ちで打ってよ!」


「う、うむ」


 今度は実践でも使っているような魔法にしてみようかの。


「穿ち散らせ『炎の矢衾』」


 目の前に30本以上の矢が現れ、威力は低くしてあるが実際の矢の勢いのままアリスに殺到する。アリスの逃げる場まで全て矢で埋め尽くされ回避することは叶わず唯耐えることのみ…と思いきや、一番弾幕が薄いところに飛び込み手で足で矢を捌き見事生存空間を作り上げおった。その動きは流水に乗る木の葉が岩を避けるように滑らかであり、追撃の手を忘れるほど美しい所業じゃった。


「どう?この”柳風”は」


 むふん、と胸を張って自慢気にしておるアリス。手や足で魔法を捌く技を”柳風”と呼んでいるようじゃった。


「見事じゃな。しかし、それだけの腕前があればパーティーでも引っ張りだこではないのか?」


「それがねぇ…ほら当拳術って貧乏人のやることってイメージあるでしょ?」


「それはそうじゃろうな」


 ワシも武器が買えない者がそれを誤魔化すために当拳術をなろうておると思っておったしな。


「だから中々入れなくて、でもやっと入ったら荷物持ちしかやらせてもらえなくて分前を減らされたり…ちゃんと戦った時でも分前を減らされたの。武器必要無いんだから少なくていいだろうって…」


 固定のパーティーなら課員の武器を経費で落とすところもあるが、基本的に個人持ちが常識じゃ。なので普通は均等割になるはずなのじゃが、なんともケチくさいパーティーに当たったものじゃの…


「あと他の前衛の人たちより活躍しちゃうと出しゃばるなって」


「まあ己の職分が無手に侵されてしまえばな…」


 気持ちは分からんでもないが、なんとも頭の固いことじゃ。


「それで…どうかな?私と組んでくれないかな?」


 アリスならワシの欠点を補完してくれるじゃろうし、アリスの欠点をワシがカバーできることじゃろう。


「うむ、ワシとしては願っても無いこと。こちらこそよろしく頼む」


「やった!ありがとう、セフィちゃん!」


 ワシの手を握って笑顔でぴょんぴょん跳ねるその姿は、非常に愛くるしいものじゃった。


「じゃあ最初に何やろうか?狩り?狩り行く?」


「まあまて、最初は…」


 お互いの実力をもう少し把握しよう、と言おうとしたんじゃが…


「こぅらぁあああ!誰だ公園で魔法を使ったやつは!!あ、木まで折れてるじゃないか!そこの二人か?!」


 と、官憲に捕まり長々と説教を受ける羽目になりおった。二人で最初にやったことが平身低頭に謝罪することとは何とも締まらない出だしじゃった…



 二人がパーティーを組んで以降、二つに割れた岩がピタリと嵌るように、お互いの弱点を補完し長所を伸ばしあい様々なことができるようになったんじゃ。


 柳のように受け流し痛撃を与えるアリス、炎を司り容赦なく燃やすワシという二人組は、いつしか”柳炎”と言われるパーティーになったんじゃ。そしてワシらは冒険者ギルドで依頼をこなしまくってるうちに、Aランクまで駆け上ったんじゃ。


 あと愉快なのは、アリスとの模擬戦じゃったな。


 そもそも魔法使い対当拳術使いなどという模擬戦が成り立つ訳がない、はずじゃった。魔法使いは遠距離からバカスカ撃っていれば近距離でしか攻撃手段が無い前衛など敵ではないんじゃ、まあ当たり前の話じゃがな。またワシら側も当たって傷が付かない魔法はあるが、そんなのでは実戦の能力など培われず、かと言って全力を出せば相手は只では済まん。謂わば手を縛られた状態で戦うようなものじゃな。


 じゃがアリスは違った。実戦級の魔法を使っても躱され受け流され懐に入り込まれて一撃を食らう。全周囲に爆炎をばらまいてもきっちり逃げる。喰らえば即死の魔法も恐れることもなく捌き切るその度胸も大したもんじゃった。


 正直なことを言うとじゃ、ワシは対人戦ごときで負けることは無いと自惚れておったんじゃが…見事に鼻を折られたわ。アリス相手じゃと、見通しの良いところでは勝率半々じゃったが、少しでも隠れる場所があると途端にワシの負けが込むんじゃ。

 全力を出してなお上回る相手がいるということはな、勿論悔しいことは悔しいのじゃが、次はああしよう、それが駄目ならこうしよう、と明日がものすごく楽しみになるんじゃ。


 まあワシも負けっぱなしではなく、接近戦を挑まれた時の対応やら虚を突く挙動などいろいろと学べることが多かったの。アリスはアリスで魔法使い相手の戦闘を色々と学べて楽しかったそうじゃ。


 ワシとアリスはギルドの依頼や模擬戦ばかりではなく、日常生活も殆ど二人一緒に過ごしていたな。

 まあそのアリスじゃが…飛んでる蝶が気になって叩き落としたら手がかぶれて涙目になったり、日向ぼっこをし過ぎて待ち合わせに遅刻したり、捕まえたネズミをワシに見せつけたり、胸が大きくなると言われて鶏肉ばかり食べて吐いたりと、本当にワシは退屈とは無縁な日々を過ごせておった。


 アリスとワシは、友であり師であり弟子でありライバルである…そんな関係がずっと続くものとばかり思っておったが…少しづつ変わり始めたんじゃ。

他者視点はあまり入れない方がいいと言いながら、3話も入れるという…

削って省いてそぎ落とした結果で3話ですがその前は6話でした。要所を抑えて

文章を作れる人が羨ましいです。

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