トルコ
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「部屋に入って最初にやったことが掃除とか、ここに来た時を思い出すねぇ…」
ほんの少しの感傷に浸りながら掃除をする。ベッドのシーツカバーを外に出し、部屋の高い所に積もっていた埃から順に落としていく。落とした埃をまとめて箒で掻きだし外に捨てた。床に落ちている本や機材はセフィリアが場所を把握しているためなるべく元の位置から動かさないように注意する。
「うーん…掃除機が欲しい…。ここに居た時は描画魔法の基本システムを作った後は直ぐにOナホ作成に入ったからな。じゃなくてOナホのために基本システム作ったんだったな。これはこれで素晴らしい描画魔法を作ったとは思うが家電製品まで手が回らなかったんだよな。…家電じゃなくて魔力製品?まあどっちでもいいや。暇見つけて色々と作るか…」
そうこうしているうちに適当に掃除を終え周囲を見渡すが、あまり綺麗になった気がしない。物の整理をしていないため、当たり前といえば当たり前ではある。
「まあ足の踏み場があって、踏む場所は綺麗だからこれでいっか。身体がホコリまみれだな…風呂に入りたい…」
この世界では湯船に浸かる習慣は無く、桶に張ったお湯で身体を拭くのが一般的だ。
俺は最初、魔法で水が出せるなら風呂なんて簡単に入れるだろうと考えていた。しかし、風呂桶いっぱいにお湯を張れるほど魔力を持つ者はそれほど多くなく、また断熱性の低い湯船しか無いため結構高温のお湯を出さないといけないのもネックだった。そのため自宅に湯船など有るわけもなく、宿では桶に張ったお湯で身を清めていた。
そこでふと気づいたのが、
「………なんで今まで描画魔法で風呂を作るって考え浮かばなかったんだろう?箱作ってお湯入れるだけだよな。後片付けも放っておけば消えるから楽だし。ああ、一時的な排水だけは考えないと駄目か。よし早速…」
クフフフとニヤつきながら統合支援描画魔法『TENGA』を起動する。風呂桶の設計のため、まず最初は立方体を作って形を変えていく。高さ60cm、長さ2m、幅1m…にしていたが2mに広げる。背もたれの部分のテーパと排水口の穴を付けて角を丸めて湯船を作成、簡易的な脱衣設備や身体を洗うエリアを作る。形状が簡単なため殆ど時間は掛からなかった。
「よし早速…っと、排水場所を考えると部屋の中は無理だな、外でやるか。初めての風呂が露天風呂とか乙だねぇ」
少し浮かれた気分で着替え等を持って庵から外へ出る。そろそろ逢魔時であるが、ここは森の中であるためすでに周囲は薄暗い。庵の周囲にはセフィリアが育てている畑があるが、それを避けて風呂を出しても問題無い場所が無いかと探すと、単なる空き地があったためそこで風呂を呼び出すことに決めた。
「よしここでいいな…入浴描画魔法『トルコ』!なんとなく昭和臭いな…」
そうして描画魔法を起動すると浴槽や洗い場が一体となったユニットバスが召喚される。周囲に人は居ないため壁等は一切無しになっている。取り敢えず中に入ってみて不具合が無いか見て回るが、特に問題は無さそうだった。
「次はお湯だな。最初くらいちゃんとした水がいいな。『温掌水』」
魔法で出す水には2種類ある。魔法で水を“作る”『出水』と魔法で水を“集める”『掌水』だ。風呂のように身体を温めたり洗ったりするだけなら、集水速度が早い『出水』で出した仮初の水でも問題は無いため、一般家庭等で使われているのはこちらのほうだ。
一方、『掌水』は実在する水を集めるため集水速度は遅いが飲む事ができる。
最初くらいは実際のお湯が良いという拘りの為に『温掌水』を選んだが、チョロチョロとしか出てこない間が暇でしょうがない。浴槽一杯にお湯が貯まるまで凡そ30分以上待ってる間に周囲はどっぷりと暮れ、遥か彼方に見える黒に近い紫色の空だけが太陽の残滓を表していた。沈んだ太陽と反対方向からは月が頭を出している。
「やれやれ…随分と時間が掛かったな。お湯の温度は…ちょっと熱いな。まあ入ってるうちに冷めるだろ。では早速…」
服を脱いで洗い場に入り、手桶でお湯を汲み身体に流すがやはり少し熱い。この世界には石鹸が無い代わりに落汚草があり、それで代用している。落汚草の煮汁を水が無くなるまで蒸発させて、残った白い粉が石鹸のような役割をするそうだ。どちらかというと粉石鹸になるだろう。その粉石鹸で身体を洗って流し、湯船に浸かる。
「くぁぁ~…これだよこれ、はぁ…気持ちいいねぇ…」
背後で土を踏みしめる音が聞こえてきた。そろそろ来る頃だと思ってたよ。好奇心旺盛な彼女がこれを見逃すはずが無い。
「何やら面白いことやっておるの。そんなに気持ちいいいのか?」
「気持ちいいぞ、これは。魂の洗濯だな」
頭の上に乗っている手ぬぐいで顔を拭きながらそう答えた。
「ワシも入ってよいか?」
「勿論だ。一応マナーとして先に身体を洗うかお湯を掛けて、ざっと身体についてる汚れを落としてくれ」
「相分かった。この手桶でいいのか?」
「うん、それ使ってくれ。少し熱いかもしれないから、駄目そうなら言ってくれ」
「分かった」
そう言ってさっさと用意を終えたセフィリアは、一応注意は促したておいたが、平気な顔でお湯を掛けていたため、この熱さでも平気そうだった。白いうなじにお湯が流れていくのを見ると、思わず俺が洗ってやる!と言いたくなるが、色々とこらえられなくなりそうだからやめておいた。
セフィリアが身体を洗い終わり、同じ湯船に入ってくる。空を見上げているとセフィリアが水面を揺らさないように隣に座った。僅かに残っていた太陽の残滓は全て無くなり、月と星が支配する世界に変わっていた。
「ふぅ…これはまた良い物じゃのう…」
ほぉっとセフィリアが息を抜きながら感想を言っていた。
「だろ」
「じゃが、まあなんだ、外で裸になる機会があるとは思わなんだわ」
「そりゃ中々無いだろ」
頻繁にあったら単なる痴女だ。
二人共、はしゃぐ質ではないため静かに湯船に浸かっていると、湯船の波が段々落ち着いてきて湯面に月が映り始める。空と湯船に二つの月が浮かび、セフィリアも気づいたのか月を壊さないように息を潜めながら眺めている。ちなみに俺は空と水面の月と、水に浮かぶセフィリアの胸という二つと一組の月を視界にいれ、至福の時を迎えている。
「…ほんにソーイチローと居ると飽きが来ないのう」
「俺が楽しみたいだけだけどな」
「それでいいのじゃろう」
「そうか」
また暫くの沈黙の時が流れ、夜風の囁きと虫の歌声、二人の息遣いだけが音に聞こえていた。
「さて、そろそろ上がろうか。あまり長湯すると茹だるからな」
「む、そうか。ではワシも上がるとしよう。ところでソーイチロー、随分と猛っておるがしなくてもいいのか?」
何を?とは聞かない。
「そりゃしたいさ。だけどここでやると腰が抜けるまでやっちゃいそうでな」
久しぶりだから猿になる自信がある。
「ふふ…確かにそうじゃの。二人共ここで腰砕けはさすがにな。では…またな」
久しぶりの風呂を堪能した俺とセフィリアはそのまま着替え、庵に戻っていった。
今日の夕食はいつもと変わらない干し肉と何かの葉っぱだけの味気ない食事だったが、とても懐かしく感じられた。
風呂での約束の通り一戦の後、気怠い雰囲気の中、俺の腕に頭を載せていたセフィリアは何を思い出したのか、フフ…と思い出し笑いをしているようだった。
「どうしたんだ?」
「いやなに、まさかワシが人並みの女の幸せを味わえるとは思わなんでな」
そう言ってセフィリアは下腹部に手を当て、ゆっくりと擦っていた。
「セフィリアなら充分にモテただろ?でも処女だったよな。約束がどうとか言ってたような…」
「うむ。そこらへんをちゃんと話したことは無かったの。どれ、ひとつ女の寝物語でも聞かせるとしようかの」
男の寝物語は信用するなって話は聞いたことあったけど、女の場合はどうなんだろうな?娼婦の身の上話はお伽話ってのは聞いたことあるけど。
そうしてセフィリアは自身の身持ちの堅さと魔力欠損症との関わりについて話始めた。
該当箇所を削除2/5
どこまで表現が許されるんでしょうね…未だに手探りです。
次話からセフィリア語りの過去話になります。また他者視点になりますので、
苦手な方は読み飛ばしてください。
また、セフィリア語りの文章(というか構成)の出来があまり良くありません。
良いものを掲載しろ!と仰られるのはごもっともですが、もう1ヶ月ほど
修正に次ぐ修正をしても現時点でこれ以上の改善の見込がありません。
もう少し文章力が上がったり、頂いた感想を見たあと改定するかもしれません。
あまりに時間を掛け過ぎると忘れ去られそうなので、中途半端な状態で
申し訳ありませんが掲載することとしました。
追記:名前にトルコと入っていますが、特に差別的な意味合いはありませんのでここで釈明させて頂きます。