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墓王!  作者: 菊次郎
彼女達の決断
42/129

ミスト一家の決断、ティアラ

ご覧頂きありがとうございます。


ミストさん視点になり、話も若干巻き戻り『タレット』の試射を

終えて主人公と別れてからのスタートです。


また、次話にてコロネのイメージが崩れる話があります。気になるかたは

読み飛ばして頂いても大勢に影響は(それほど)ありません。

「ティアラ、コロネ。今日のソーイチローさんはどうでしたか?」


 朝方の話ではソーイチローさんは『タレット』とかいう魔法の実験をするために郊外に行ったはずです。

 我が娘達にソーイチローさんの様子を確認したのは、愛する人の様子を聞きたいから…ではありません。当初の約束通り、今はソーイチローさんとお互いが信頼に足る存在かどうかを見極める期間です。そのため毎日ソーイチローさんの様子をこの2人から聞いています。


「今日はソーイチロー様の魔法の実験でした。比較的上手くできたようでしたが…途中、ゴブリン達に襲われました」


 ゴブリンという言葉を聞いて私は目を細めます。あれは女性の天敵です。子供達には見たところ怪我も無いようだし無事に切り抜けることができたんでしょう。


「あなた方が無事で何よりです。その点をもう少し詳しく教えてくれる?」


「はい。昼食後のひと時、まずコロネが森の違和感に気づいたみたいですね」


「うん。なんかね森の中がすっごい嫌な感じがしたの」


「それを聞いたソーイチロー様は魔法を使って森の中を調べ、ゴブリンらしき魔獣が21匹いると分かったようです」


 コロネの言葉を無碍にせず、ちゃんと調べてくれたんですね。子供だから、とか相手の立場を見て話を聞くんじゃなくて、言葉の中身を吟味して聞き入れてくれたみたいです。

 上に立つ者としてこれは当たり前なこと…なんですが、意外と出来る人は少ないです。ついつい相手の立場を見て判断してしまいがちですから。

 ですが、このような人達はまず大成することはありません。絶大な力を持つ人ほど、言葉の中身やその裏にあることを感じ取る能力に長けています。というか、あって当たり前の能力です。しかし若くして力があると下の者からの意見に耳を傾けない事も多々あります。その点ソーイチローさんは…さぞかし仕え甲斐があるでしょうね。


「それで?逃げながら戦ったのですか?ソーイチローさんなら退きながら魔法で倒すとかできそうですね」


 考え浮かぶのは、逃げながら時間を稼ぎつつ遠距離攻撃で倒すか、この2人を囮に使って横からゴブリンを襲撃するとか。前者は弓使いや魔法使いがやるような戦法で後者は男女混合の駆け出しパーティーが取る戦法と聞いたことがあります。ただどちらにしても敵の数が多すぎます。などと考えていたらティアラは、


「実験していた丘の上でそのまま戦いました」

 

「…戦ったのはソーイチローさん一人よね?」


「はい、悔しいですが…」


 この子も仕えている方に一方的に守られているというのは非常に歯がゆいのでしょう。ではなく、


「確か森と平原の境辺りで実験すると言っていましたよね?そうなると…」


「森の境から凡そ100mほど離れた丘の上に陣取りました。ソーイチロー様は「防衛のし易さから」丘の上に残って戦うと仰っていましたが…きっと私が走り続けられない事を心配されたのでしょう。あとは街に被害を出さないためとも仰っていました」


「そんなところで2人を守って戦ったの?!」


 いくら魔法使いとはいえ、囲まれたら普通はまともに戦えず袋叩きにあいます。逃げられる時は逃げ、戦う時は必勝を期すのが冒険者のはずです。現場を見ていないのでなんとも言えませんが結構危ない橋だったのでは?ティアラの話を聞いて背中に氷を入れられた気がします。と私は思っていたのに、この子は…


「はい。必ず守ると仰ってくれました…」


 ティアラは若干俯いて頬を赤くしてます。言われた時のことを思い出してるのかな?我が娘ながらなんて可愛い。この子もすっかり女の顔になってきたわね…。まあ危険が迫ってる時に「必ず守る」なんて言われて、そのまま守り切ったんならコロッといっても可笑しくはないかな。私でもドキッてなるだろうし。


「勿論ソーイチロー様は逃げてもいいと仰っていました」


「でもあなた達は逃げなかったのよね?」


「はい」

「うん!」


 何故逃げなかったの!という思いと、逃げなくて良かったという両方の思いが浮かびました。

 従者として足手まといになるなら、すぐに逃げるか切り捨てられるべきです。そしてこの子達には戦う術はありませんから、逃げるほうが正解だったようにも思えます。しかしソーイチローさんは守ると仰ってくれた。

 逃げたほうがひょっとしたら助かる確率は高かったかもしれない。だけど…もしここで逃げていたら、ソーイチローさんのことは信用していないと言っているにも等しいし、それを表明するのはあまりにも悪手です。最悪はソーイチローさんが私達の元を去っていた可能性もあります。

 私達に取れる未来は殆どありません。選択肢はあっても生き残る道はソーイチローさんに頼るという手段しか無く、この子達は見事にそれを掴んだということでしょう。メイドの師としては褒めてあげたいし、母親としては危ないことするなと叱りもしたい。

 でも母親としてはやはり、


「あまり危ないことをしてはいけませんよ。でも、命の掛かった場面でよく信用することができましたね、偉いです」


 と言うしかありません。はい、と返事をするのかとこの子達を見ると、若干戸惑っているようでした。


「その…実は殆ど危ない場面はありませんでした」


「ゴブリン21匹に囲まれたのよね?これが危なくない訳ないでしょ?」


「ゴブリン達に囲まれる前にソーイチロー様は相手を全滅させてしまいました。一番近くまできたゴブリンで…ゴブリンリーダーが50mほどでしょうか」


「だよねー!なんか遠くでゴブリンがポンポン爆ぜてて怖いなんて思うこと無かったよ!」


 とはコロネの弁。本当にゴブリンで怖い目は見なかったようですね。


「50mって結構遠いわよ?そんな遠い場所に向かって何か強力な火弾とか放ったの?」


「いえ、ソーイチロー様曰く「石礫を飛ばしてるだけだ」と」


「石礫を飛ばす魔法なんて初歩も初歩な魔法じゃない。当ってもタンコブができるくらいの魔法じゃ…」


「おかあさん、多分ソーイチロー様の魔法は見ないと解りません。だけど見ても理解できません。ただ体感することだけはできました」


 何を言ってるのかさっぱり分かりません。たしかに私達の家で魔法をいじっていたソーイチローさんを見れば普通じゃないことだけは判ります。それを…この子達は体感できたのでしょう。

 体調が余りよろしくないティアラを連れて行ってもらった価値はあったみたいですね。コロネも付けることができたのは怪我の功名でしたけど。


「その後は?」


「その…ソーイチロー様の魔法が思いのほか強力で、ゴブリン達はバラバラになってしまい、それを私達は呆然と見ていました。そんな私達を見たソーイチロー様は「これが魔法使いとしての力だ」と仰り、ゴブリンの耳を集めに向かいました」


「それは一体?」


 今一ソーイチローさんが何を言いたいのか分かりません。


「直接ソーイチロー様の考えを述べられた訳では無いので推測になりますがいいですか?」


「ええ」


「ソーイチロー様がお持ちになる魔法はとても強力です、それこそ人を一瞬でバラバラにできるくらいに。そんな力を見た私達がソーイチロー様に対して恐怖心を抱いたかも、と考えられたかと」


「なるほど…」


 つまり、ティアラ達がソーイチローさんに対して恐怖心を持ったかも、とソーイチローさんは考えてしまった。そしてソーイチローさんはそんな恐怖心に彩られたティアラ達を見たくなくて一端その場を離れたと…。

 ということは、ソーイチローさんはティアラ達の事を憎からずは思ってくれているということ。ソーイチローさんがもしこの子達を“従えたい”と考えているなら大きな力を見せつけるべきです。だけどそうではなく“仲間”かそれに近しい感情を持ってくれているということです。


「よし!!」


 と、思わず握りこぶしを作って喜んでしまいました。娘たちからは変な目で見られています。


「コホン…それでティアラ達はどうしたんですか?」


「ソーイチロー様を直ぐに追ってゴブリンの魔石探しを手伝いました。その時、コロネが」


「コロネはね、おにいちゃんのこと大好きだよって言ったんだよ!」


 ティアラの言葉を引き継ぎ、コロネはニコニコしながら報告してくれました。


「その時のソーイチローさんの様子は?」


「ホッとされているようでした」


「そう…」


 やはり先程の考えはそれほど間違い無さそうです。単純な雇用関係だけならソーイチローさんが“従えたい”と考えて頂いても問題はありません。ですが…できればソーイチローさんには末永く2人の面倒を見て貰いたい。

 ティアラやコロネより優れた従者は沢山います。というか魔力欠損症に掛かった従者とかとんでも無いハンデを背負っています。単なる雇用関係では優れた従者が現れた場合、2人とも切られる可能性があります。しかしもし仲間と思ってくれていたら…そう簡単に切られる可能性は低くなるはずです。今のところは理想的な関係と言えるでしょう。

 まあ目指すところは単なる仲間では無いんですけどね。


「その後は?」


「コロネが石を投げて、ソーイチローさんの魔法が当たるかどうか試したのですが上手く行かなかったようです。それを直すのに時間が掛かるようで街に戻りました」


「なるほど。確か街に入った後は別れたのよね」


「はい。これで今日のソーイチロー様は終わりになります。」


「わかったわ、ありがとう」


 さて、ここまでで最低限な情報は揃ったでしょうか。ソーイチローさんからは私達が信頼できると判断できたら声を掛けるように言われれています。ソーイチローさん側が私達をどこまで信じて頂けるかは分かりませんが、私達家族の中で話し合っておく必要があるでしょう。


「最初にソーイチローさんと話をした時に、お互いが信頼出来そうなら話をしましょうという事がありましたが覚えていますか?」


「「はい」」


 私が真剣に話をするの察したのだろう、コロネも神妙な顔をしている。


「ソーイチローさんからこの話を切り出される前に、私達の中で一度相談しておく必要があります。正直、ソーイチローさんからどのような話が出てくるか想像も出来ません。ですがソーイチローさんがあそこまで信用や信頼という言葉に重きを置いているなら、それ相応の秘密なのでしょう。そして、それを聞いた後「やはり無理です」などと断れるとも思えません。と、言うか断れないと言ったほうがいいでしょう。ここまではいいですか?」


 と訊ねると二人共納得しているようでした。


「ソーイチローさんは多分害は無いと仰っていましたが、私達の観点からしたら充分に害に成り得ることもあるでしょう」


 その人の立場にならないと判らないことは多々あるものです。


「ですので…まあ命までは取られないでしょうが、それ以外のことは全て受け入れることが必要になるでしょう。その上で聞きます。あなた方はどうしますか?」


 まず答えたのは長女であるティアラだった。


「私は…ソーイチロー様の提案を受け入れたいと思います。そして出来る事ならソーイチロー様にお仕えしたいと思います」


「そう。それは…メイドとして?それとも私と同じようにメイド兼妾として?」


「おかあさんと同じメイド兼妾として、です」


「妾は結構大変よ?ソーイチローさんから求められたら、何時でも、どんな場所でも、どんな行為でも受け入れなくちゃいけないわ。前も後ろも口も胸もそれこそ使えるとこ全部使ってソーイチローさんを気持ちよくさせなくちゃいけないし、場合によっては自ら進んでソーイチローさんの精を抜きに掛からなくちゃいけない。ただベッドに寝て股開いて天井のシミを数えるだけの馬鹿な女は直ぐに捨てられるわ」


 お茶を一口含んで喉を潤します。そして続けて、


「あなたは私の授業でちょっと男女の話しをしただけで顔を真っ赤にするくらい初な子なのに、こんなことできるの?身の振り方を間違えればすぐに破滅よ?」


 少しティアラに脅すように強めに言います。一度抱かれてハイ終わり、なんてことはありません。嫌がろうが痛がろうがずっと続いていくのです。

 妾という立場は妻と違いとても不安定な生き方です。妻は世間体や妻の一族との繋がりもあり余程のことが無ければ捨てられることはありませんが、妾はその身一つで渡り歩いて行く必要があるのです。まあ言っちゃえば、たった一人の為の娼婦に成ることができるか?と問うています。


「私は…ソーイチロー様に全てを捧げたいと思います。あの方以外は…嫌です」


 そう言ってティアラは俯いてしまった。この子はまた…危ない考えを。もしソーイチローさんに断られたら、彼以外のところに行かなくちゃいけないのに。魔力欠損症ってバレたら追い出される可能性が高いけど。


「なんでそこまでソーイチローさんのことを好きになったの?」


「ソーイチロー様だけでした、魔力欠損症と知っても態度が変わらなかったのは…」


「そう言えばそうだったわね…」


「魔力欠損症と知った殆どの人達は…私達のことをまるでドブネズミを見るような目で見て、野良犬を追い払うかのような態度で接してきました。残りの僅かな人達は、性処理の道具程度しか思っていないような男達でした。でも…ソーイチロー様だけは違った。知った時は驚きはしていたようですが、その後も変わらず接してくれたのがとっても…嬉しかったんです。それどころかコロネの罪を償わせるという名目で、ひもじかった私達に食べる物をくれました」


 本当に男ときたら…襲っても良さそうな女を見たらすぐに襲ってきたし。まあ襲ってきた男たちの物を全部ちょん切って事前に防いだけど、そのせいでティアラは若干男嫌いになっちゃったんだけどね。


「それだけではありません。あまり体調の優れない私に気を使って頂き、歩く早さを合わせてくれました。単なる従者に、ですよ?無理を言ってついて行ったのに倒れて足を引っ張ってしまった私に、ソーイチロー様は諭してくれました。情けなくて、でも嬉しくて…その時に私はこの方のために出来る事を全部して差し上げたいって思いました」


 すっかり乙女の顔をしちゃってまあ…。というか、ソーイチローさんの魔法使いとしての才能はどうでもいいのかい。


「一応言っておくけど、妾を持つにはソーイチローさんは社会的地位も財力も無いわよ?それでもいいの?」


「はい。確かに冒険者としては駆け出しですし、権力も無いでしょう。ですが、あの方は大成しそうな将来性があります。おかあさんが言っていたように異質とも言える魔法使いとしての能力。そしてその能力はまだまだ進化しています。その将来性に私を賭けても良いと思ってます」


 あ、そういう所はちゃんと冷静なのね。


「それとおかあさん…私達家族には後が無い、ですよね?」


 ティアラの言葉に私は苦い笑みを返すことしかできません。もしソーイチローさんを逃せば、私達の春を売り歩く生活になるでしょう。魔力欠損症に掛かっている私達は正規の娼館に入ることはできず、良くて非合法の娼館でボロクズのような扱いを受けるか、街の外で魔獣どもの餌になるか…野盗共の慰み物になるか、者ではなく物に成り下がるでしょう。

 私だけならまだしも、この子達までそんな目に合わせる訳にも行きません。


筆者の実力不足、誠に申し訳ありません。

主人公視点のみで何故2人が妾になるかを書き切ったほうが良いとは

思うのですが自分には不可能でした。

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