妾志望
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「メイド兼…なんだって?」
傾けた耳が不具合を起こしたらしい。
「メイド兼妾です」
ティアラとコロネを見ると納得した表情でこちらを見ている。ということはすでにミストさん一家では話が付いているのだろう。
「…どうしてそんな話になったか聞かせてもらってもいいですか?」
「私達はご存知の通り魔力欠損症に掛かっています。そのために魔法も使えず、戸籍登録証も取得できず、まともな生活を送ることができません。事実、日々の食事にすら事欠く有り様で、もしソーイチローさんから食事を頂けなければ…どうなっていたか判りません」
確かに台所事情(食べ物のほう)はかなりひどかった。調味料すらロクに無い有り様だったしな。
「置き引きをしたコロネを官憲に突き出さなかったどころか、私達に命の糧まで与えてくれたソーイチローさんにご恩返しをしたいと考えました。ですが…何も無い私達ではこの体を使って恩返しするしか思い浮かびません」
「俺も男だからその提案は嬉しいが、別に体目当てで支援したんじゃないぞ?…じゃなくて、俺の飯を作れという罰の余り物をあげてるだけだぞ」
確か元の名目はコロネが置き引きした罰で俺の飯を用意させるって話だったが、すっかり忘れてた。
「あと、その理屈だと一夜の交わりだけでも恩返しってことになるんじゃないのか?」
「ええ、ですのでこれからがお願いになります。ソーイチローさんのメイド兼妾として連れて行って欲しいのです。単に連れて行くだけでは単なる足手まといでしかありませんが、この子達には私が従者の技術を仕込んであります。戦う事に関しては素人ですが日常生活のお世話くらいはやり遂げるでしょう」
「まあそれは今までのティアラの行動を見れば判るが…それならメイドであるのは判るが妾である必要は無いんじゃないか?」
「下世話な話かもしれませんが、男の方は一度抱いた女を誰にも渡したくないものです。末永く使ってもらえれば…」
つまり抱くことで情を沸かせるって言ってるのか。なんとなくどこかで体験した話だな…
ティアラの方を見るといつものメイド服を着ている。そのメイド服はゆったりと体を包んでいるため体のラインは分かりにくくなっているが、それでも年齢の割には豊かな双丘がメイド服をしっかりと盛り上げ、柔らかさを強調していた。思わず喉がゴクっと鳴ってしまったが許して欲しい所だ。
コロネは…うん、青い果実だな。母親と姉を見ると今後はすごい勢いで成長しそうだ。
と、そんな邪念は振り払い話を続ける。
「俺は冒険者家業ですよ?それも駆け出しの。そんな人がメイドや妾を持つことなんてあるんですか?」
「実力のある冒険者は女性を連れて移動したり、もしくは町ごとに女性を囲ったりしていると聞きます」
だから問題ありません、だった。
「…何故、俺なんですか?」
これが一番聞きたいことだった。俺だって女の人を抱きたいし、一度抱いてしまえば情も湧く。だが、条件面だけで押されるとイザという時に乗り換えられるなんてこともある。
「一番の理由は、この子達がソーイチローさんを好いているということです」
そう言われてティアラとコロネに顔を向けると、小さく頷いているのが見て取れた。
「あとはソーイチローさんが冒険者であるというのも娘を託す方としてもありがたいんです」
「何故ですか?」
普通は冒険者のような根無し草は敬遠されそうなものだが。
「魔力欠損症の患者というのは場合によっては迫害され住んでいる場所を追い出されることもあります。現に、私達は貴族のお屋敷から追い出されていますし。なので貴族や商家に妾としてはまず入れないのです。土地に着いた人はどうしても他者の評判を気にしてしまうのは致し方無いこと。ですが…冒険者の方なら街から街に移り住むこともできます。いざという時にこの子達と共に居られる方、それがソーイチローさんだと私は思っています」
つまりは…彼女達には情と理の両方があるってことか。まさか根無し草なのが利点になるとは考えなかったな。
では、俺の方はどうだろうか。ティアラには本当にお世話になっている。普段の細かい雑事はティアラに任せっぱなしだし、熟年夫婦のように何も言わなくても先取りして手伝いをしてくれている。コロネはその天真爛漫さで戦闘等で疲れた心を癒してくれる。
彼女達と今後も一緒に居たいかと言われれば、迷わずYESと答えるだろう。最初は魔力欠損症の患者として治験に付き合ってもらえないかという打算の為だったが、今では一緒に居るのが当たり前になってきている。俺はそんな関係を切れるだろうか。
あと現実的に俺が彼女達を養えるか?という問題はあるが、一度の依頼で一家を一ヶ月養えるほどの額を稼ぎ出せている。早々ひもじい思いをさせることもないだろう。
…正直になろう、抱きたくないか?と聞かれたら、「抱きたい!」と。
が、ここでホイホイと頷く訳にもいかない。なにせ俺にはセフィリアがいる。彼女からは他に女を作っていいとは言われていたが、かと言って黙って作るわけにもいかない。
「…言いたいことは分かった。素直に2人の気持ちは嬉しいと思う。だが俺には他に情を通わせた女の人がいる。それでも構わないのか?」
この言葉はミストさんではなく、ティアラとコロネに向けて放った。
「何となくですが分かっていました。私とコロネを受け入れて頂けるなら何も問題ありません」
「私も!」
「…そうか、分かった。だが通すべき筋がある。すまないがここでの返答は待って欲しい」
と、頭を下げて彼女達に願った。そして頭を上げ彼女達の顔を見渡すと、一様にホッとした表情をしていた。
「もちろん構いません。ところで、ソーイチローさんのお願いというのは…」
さて、ここからが本題だ。
「俺の魔法使いの師匠ともいうべき人がいるんだが、この人は…魔力欠損症を治す研究をしている。それに付き合ってくれないか?」
俺がそう言った後も3人は言葉が飲み込めてないのか、鳩が豆鉄砲を食ったようなき表情をしていた。そして俺が何を言っているのか咀嚼できたのか、信じられないという表情を浮かべている。まあそれはそうだろうな…
「これが…治るんですか?」
「さあ?」
「さあって…」
「治った患者がいないんだから治るなんて言えないよ。あと完治じゃなくて対症療法になると思う。で、治療の目処は立ったが肝心の患者がいないということで行き詰まってたんだ」
「その…この子達を何か実験に使いたいということでしょうか?」
「まあ悪く言えばそうかもな。だけど実際にやることは、妾の役割から逸脱はしないだろう」
ぶっちゃけ、俺のアレを飲むか中で受け入れるかくらいだろうし。
「それでどうして魔力欠損症が治ると言うのでしょうか?」
「あー…申し訳ない、これ以上先はセフィリア…俺の師匠と相談してからになる。その手法に大きな秘密があるから彼女の了解も無しに言えないんだ」
信用しているなら教えても…なんて考え方もあるが、俺は違うと思う。知らなくてもいい秘密を知るというのは余計な重しにしかならず、場合によってはその重しによって潰れてしまう。自分で潰れるか、他人に潰されるかという違いはあるが。やはり何事にも知るタイミングはあると思う。
「そうですか…いえ、こちらこそ失礼しました。私達はソーイチローさんに従うと決めたのです。ソーイチローさんの願いを叶えるのが私達の役目、ただ目指すのみです」
ミストさんはそう言って俺に頭を下げてきた。従者としての矜持だろうか?
「ありがとう。では明日からちょっと師匠のところに行ってくるから、暫く街を離れる。予定では師匠をここに連れてくるから心得ていてくれ。あと…これは少ないが俺が居ない間の食費にしてくれ」
魔力欠損症の治り具合をちゃんと調べるならセフィリアの庵のほうが都合はいいが、そこまで行くのに魔獣が闊歩する森の中を通らなくてはいけない。コロネはともかくミストさんとティアラが耐えられるとは思えないから、今回はセフィリアに出張ってきてもらおう。
俺は財布から1万zほど出しテーブルの上に置いた。するとミストさんは慌てたようにそれを返却しようとしたが、押しとどめて渡した。1万zは節約すれば一家が一ヶ月ほど生活できくらいの金額だ。
「一応、正式に2人を引き受けた訳ではないが、俺はそのつもりでいる。俺が居ない間に何かあったら困るからな。もし余ったら返してくれればいい」
そこまで言ってやっと納得してくれたようだった。
「ところで、ティアラとコロネのことは話したけど、ミストさんはどうする?」
「魔力欠損症を治すために私でまず実験して頂きたいと思いますが…いかがですか?」
「多分問題無いと思いますよ」
「ありがとうございます、ではよろしくお願いします」
「こちらこそ。では今日はちょっと用事があるのでもう戻ります。多分次は一週間もしないうちに戻ると思います」
「はい」
「お帰りお待ちしております、御主人様」
「まったね~、おにいちゃん!」
ん?何か聞きなれない言葉が聞こえた気が…まあいいか。そのままの足で装飾品屋《呑んだくれ》に向かった。
ティアラとコロネの妾宣言が出ましたが、やはりどうしても
主人公視点では妾になる裏付けが弱いままです。
筆者の実力不足ではありますが、次々話でミスト視点での話を
挿入させて頂きます。
あと、色々と期待されていた方、本当に申し訳ありません。
妾になりたい→いったっだきまーす にはどうしてもできませんでした。
本文にも書きましたが、通すべき筋はあると思います。
妾(希望)と主人公の意思を確認
↓
現妻(?)達の了承
↓
妾(採用)
と、こんな感じでしょうか。
本来のハーレムでは妻たちの了承は不要なのかもしれません。
しかし、力の同権(同じ力なら同じ権利)の世界でやると…
どうなるんでしょうね?もげる?