ハトバチ討伐の報奨
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ハトバチの討伐を終えた俺はその足で冒険者ギルドに向かった。腰にぶら下げている袋の中で蜂の子がもぞもぞ動いているのがちょっと気になりつつギルドの扉を開くと、まだ少し早い時間のためか人も疎らで午後の気怠い空気が漂っていた。
「こんにちはー、依頼が終わったので確認してもらっていいですか?」
と、声を掛けた受付嬢は朝方に俺の依頼を受け付けてくれた人だった。
「あら、早いですね。ではこのトレーの中に針を出してくれます?」
ガラガラと袋から蜂の針を出しながら、蜂の巣を除去したことも伝える。
「ところでハトバチの巣も除去したんですけど、どうすればいいです?因みにこれが討伐証明の羽です」
「仕事が早いですね…えーと、はい、確かに女王蜂の羽を確認しました」
後ろでは違う職員が蜂の針の状態を確認しつつ、受付嬢はハトバチの巣の除去の依頼書を書いている。書き終わった依頼書にそのまま完了印を押し、書類手続きは終わったようだった。
「ではハトバチの巣の除去の依頼とハトバチの駆除の依頼の2つが完了したので、ギルド印に書き込みます。印章を出してもらえますか?」
そう言われ俺は左手の甲に魔力を流し、ギルド印を浮かび上がらせた。その手を受付嬢に差し出すと、彼女は朝と同じように両手で包み込むよう左手を握り、依頼完了を印章に書き込んでいた。
「はい、これで完了です。報奨金の計算をしていますのでもう少々お待ちください。あと蜂の針と女王蜂の羽はどうしますか?こちらで買い取りますか?」
「蜂の針はギルド側で買い取ってください。羽は…これを加工できる工房とかってギルドから紹介できますか?」
俺の言葉を聞いた受付嬢は小さく「チッ」と呟きながらも返事をくれた。舌打ち聞こえてるぞ…
「…はい、出来ます。ギルドと懇意にしている工房は、ギルドを出て左に行き、その先のパン屋の角を曲がった先にある工房《呑んだくれ》ですね」
「そうですか、ありがとうございます。あと蜂の子があるんですけど…」
「美味しそうね…それはギルドで買い取りはしないから自分で食べるか露天に売るといいかも。蜂の子の素揚げって美味しいのよね…」
受付嬢の視線は蜂の子に釘付けになっている。こういう時の御裾分けは人間関係の潤滑油だから出し惜しみしないほうがいいな。
「良かったらさし上げましょうか?ギルドの皆さんで分けて頂ければいいですけど」
「ほんと!ありがとう!みんなー!蜂の子の御裾分けよー!」
「お、まじで?」
「どれどれ」
「蜂の子なんて久しぶりだわ」
「買うと結構高いのよねぇ」
「今日のツマミは決定だな」
「これで蜂の子プレイが出来る…」
と、どこからかわらわらと職員が集まってきた。全員分あるのか…?というか最後は誰だいったい。
「自分の知り合いの御裾分け分で40匹分程度あればいいので、残りはギルド職員の方で分けちゃってください」
「「「「「「ゴチになります!」」」」」」
どこで知ったんだ、そのセリフ。ギルド職員達は均等に蜂の子を貰い、笑顔で職場に戻っていった。
「ソーイチローさん、ご馳走様でした。それで報奨金ですが、まずハトバチの討伐500z、10匹以上の余分に討伐された分が85匹で4250z、蜂の針が買い取り不可の分を除くと83匹分で24900z、蜂の巣の討伐で3000z、合計32650zになります。お間違いありませんか?」
ざっと計算した限りでは間違い無さそうだが、情報料って無かったっけ?
「蜂の巣の情報料は含まれないんですか?」
「巣の討伐に含まれてしまいます」
「そうですか、了解です」
と言って報奨金を受け取った。一日の稼ぎとしては美味しすぎる金額だ。
因みに他の人達が同じことをやろうとすると一人ではなく2人から6人程度で組み、尚且つ装備や怪我をした時の用意等で経費が嵩み、それほど美味しい仕事というわけでは無いそうだ。
そのままギルドを出て、ギルドから紹介された装飾品の工房に向かった。この羽をどうするのかというと、セフィリアのおみやげに出来ないかと考えていたのだ。虹色に輝きながら薄く透き通るこの羽はとても美しいが、そのまま渡すより何らかの加工をしてもらったほうがいいだろうと思ったのだ。
程無く紹介された工房《呑んだくれ》の前に辿り着いた。店の間口は3m程度の小じんまりした店構えではあるが、軒にぶら下がっている《呑んだくれ》の看板には金属細工を精巧に施され、店主の腕を証明するような見事な逸品だった。但し、真ん中に書かれている文字は「呑んだくれ」のため少し締まらない。
「こんにちはー、どなたかいますかー」
間口は狭いが奥に長い形をしているこの店に入り、中を見渡すと誰もいない。少々不用心な気もするが、まずは店員さんに出てきてもらわないといけない。
「なんだ、ワシはここにおるぞ。失礼なやつだな…」
「うお!っとと、これは失礼しました」
カウンターに隠れるように一人のドワーフが椅子に座っていた。本人としては隠れていた訳ではないのだろうが、背が140cmほどしか無い上椅子に座っていたため、ちょうどカウンターの影に隠れてしまっていたのだ。
なんというか、イメージ通りのドワーフだった。酒樽のような体型、ひげを生やし、店の名前からも酒が好きなのだろう。ある意味判りやすい人物だった。
「もう慣れたわい…まったくどいつもこいつも…」
「あはは…あのギルドから紹介されたのですが少しお時間よろしいでしょうか?」
「なんじゃい」
「このハトバチの女王の羽の加工をお願いしたいと思って」
「どれ見せてみろ、少し鑑定に時間が掛かるから店の中でも見てろ」
取り出した女王の羽を店主に渡すと、店主は懐から虫眼鏡を取り出し具に鑑定を始めた。集中し始めた店主の邪魔をするのも悪いと思い、言われたとおりに店に並んでいる商品を見て回った。
置かれている商品は千差万別、多種多様であり一つとして同じものはなかった。ただ共通点もあり、どこかしら魔獣の物と思われる材料が使われているようだった。
魔獣の角に彫刻を施した剣立て、魔石を加工したペンダント、魔獣の蹄を凹ませたぐい呑のようなもの、革で作った財布、木目を活かした宝石箱、果はレースを編んだケープみたいなものまであった。
その何れも手に取るのが躊躇われるような逸品ばかり。あまり汚れを付けないように見ているうちに店主のドワーフから声を掛けられた。
「おい、鑑定が終わったぞ」
「どうでした?」
「丁寧に採取してあるから中々いい品だな。で、あれをどうしたいんだ?」
「女性に送る品を作ってもらいたくて」
「何か希望はあるか?」
「うーん…何かいいのあります?」
「自分で考えろってんだ、まったく…そうだな、この店の中でピンと来たものはあるか?」
「そうですね…この宝石箱は見事な加工してありますね。宝石を入れなくても小物いれとして使ってくれそうですから、こんな感じのがいいかも」
「フン!実用的なものってところか…じゃあそうだな…この羽を小箱の天板に使って中身が見えるようにするとかどうだ」
「その羽の強度とか平気です?上に物を置いて壊れたりしたら…」
「ハトバチの女王の羽は2日もすると固くなるからそこそこの強度は得られる。小物入れ程度なら問題ない」
「なるほど…じゃあそれでお願いします。予算はいくらほど掛かりますか?」
「そんなもん、ピンキリじゃわい。金無垢に彫金すればそれこそ天井しらずだ」
「さすがにそこまでは…その羽に似合うという条件だと?」
「坊主のくせにいっちょまえだな、そうだな、やはりこの羽を活かすなら他の部品は大人しめがいいから木材に彫刻を施したものがいいだろう」
「それでいくら位になります?」
「10000z程度もあれば足りるわい」
「じゃあそれで」
「…何の躊躇いもせずに納得したな」
「ここにある商品は店主が作ったんでしょ?その腕を持つ人にオーダーメイドで頼むんですから、それくらいしてもおかしくないでしょ?」
「ケッ、いっちょまえに…前金だがいいか?」
「これで」
と言って先ほどギルドで受け取ったお金のうち10000zを出す。日本円の感覚にすると1z=10円程度だから、小箱一つに10万円ということになる、しかも材料持ち込みで。
たかが小箱一つで10000zは高い、とは思わなかった。先ほど羽を渡したときに節くれだった手を見たが、この店主の技量が分かった気がしたのだ。羽を持った時には優しく丁寧に扱い、鑑定している時の眼差しは確かに鋭い。そしてここの商品たち。ここまで見せられれば、とても腕が悪いとは思えなかった。
「フンッ、確かに預かった。ちょっと待ってろ、預り証を書く」
店主は紙にサラサラと書き俺に預り証を渡してくれた。
「1週間したらまた来い。もし俺が居なければ代わりの店番にその預り証を見せれば判る。さあ行った行った、俺は仕事に戻る」
俺の相手をするのは仕事じゃないんかい、とも思ったが早速仕事に取り掛かってくれるようなので素直に帰ることにした。
「ではよろしくお願いします」
「…」
すでにこちらを見向きもしない店主だった。そのまま《呑んだくれ》を後にした俺は蜂の子の御裾分けにミストさんの家に寄り20匹ほど置いてきた。彼女達も蜂の子は好きなようで嬉しそうにお礼を言ってきてくれた。夕御飯にもお呼ばれしたが、宿にもご飯があるため今回は辞退し、玄関で挨拶だけしてミストさんの家を後にし、そのまま宿に向かった。
主人公の稼ぎ方と稼ぐ額がこれくらいですよ、という
お話です。ハーレムには大事なお話ですよね。




