縄
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その後、丘の上に戻り今度は動目標に対する実験を始める。丘の上で『タレット』を再度呼び出し、それとなくティアラとコロネの様子を窺ったが、本当にいつもと変わらない様子だった。
「じゃあコロネ、ちょっとこの石をあそこの離れた位置から的があった方向に弓なりに投げてくれるか?」
拳より少し小さいくらいの石をコロネに渡す。本来なら俺が投げるべきなんだろうが、なんとなくコロネのほうが上手に投げそうな気がし、取り敢えずやらせてみようと思っていた。
先ほどのゴブリンから取れた魔石に、当たって砕ける時に光るような魔法陣でも刻もうかと思ったが…さすがに小指の先ほどの魔石に当たるとは思えず、普通の石を投げることにした。
「うん!あっちだよね?うーーーーん…えい!!」
コロネは微妙に力が抜けるような掛け声と共に石を投げると見事弓なりに飛んでいく。それを追うように『タレット』が射撃を開始する…が、全然当たる気配がない。命中弾までは期待していなかったが、半呼吸くらいずれて石の航跡を追うように射撃している。ようはタイミングが全然あっていないのだ。
原因は幾つか考えつくがこの場で直ぐに対応できるものではないため、どうしたもんかと唸っているとコロネが戻ってきた。
「おにいちゃん、どうだった?」
「コロネ、ありがとう。どうやら動きが早いと『タレット』が追いつかないみたいだ。時間が掛かりそうな感じだな…」
「そうなんだ…でもゴブリン退治の時には頼もしかったよね!」
「だな。ゴブリンくらいの早さだと問題ないけど、大鷹のような動きをする相手だともうちょっと方策を考えなくちゃいけないってことがわかっただけでも、今日は収穫だな」
「今日は戻られますか?」
「うん、ちょっと早いけど帰ろうか」
予定していた実験内容を全て終えた訳ではないが、これ以上ここで実験することも無いのでフィールの街に向かい始めた。コロネは行きと同じく元気よく周りを走り回り、その様子をティアラとのんびり眺めている。日は若干傾いてきて日差しは柔らかくなってきているが、西日に当たり風が凪いでいるため少し蒸し暑い。ティアラの様子に注意を払いながら彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩みを進める。
まるで先ほどの戦いが嘘のように弛緩した空気が周りを包んでいるが、こんな雰囲気も嫌いではなかった。
フィールの街を囲う塀に辿り着き、いつも通っている門に向かう。今日は入場する人が少ないのか直ぐに入場手続きに移れた。そして門兵のコワードが俺たちの姿を見て安堵してるように見受けられた。
「あ、お前たち無事だったか!」
「どうしたんです?」
「いやな、商人達がゴブリンの集団に襲われたらしくてな。死んだ奴はいなかったが、結構けが人を出して撃退したって言ってたぞ。オマケにどこからかすごい音がしたとか言ってたな。お前らはゴブリン共に合わなかったか?」
「襲ってきましたよ。撃退しましたけど。多分そのすごい音っていうのが俺たちが戦ってた音じゃないのかな?」
「そうか…それで何匹くらいいたんだ?商人達のほうは14匹って言ってたぞ」
「21匹でしたね。一匹大きい奴がいましたけど」
「…おまえ一人で倒したのか?」
「はい」
「いやはや、さすが魔法使いだな!普通の冒険者ならそれだけ数がいたら逃げるぞ?」
「そりゃ俺も逃げることも考えましたけど、さすがに21匹の数を引き連れて街に向かったらこっちに被害が出るでしょ?地の利もあったし、倒しちゃおうと」
「はぁ~、お前は戦力だけなら駆け出し冒険者じゃねえな…あと大きいゴブリンは恐らくゴブリンリーダーだな。小さな群れをまとめる役目がある。っと後ろが詰まってきたな、できれば今の話をギルドでもしてやってくれ。とにかくお前達が無事でよかったよ。次の人!」
と、夕方手前の時間は相変わらず忙しいのかコワードはすぐに次の入場者の対応を始めた。問題なく街の中に入った俺たちは、ティアラとコロネは自宅に俺は冒険者ギルドと今日はここで別れた。
冒険者ギルドはこの時間、俺と同じように狩りや依頼を終えた人達が戻り混み始めるようにな。混む前にさっさとゴブリンを倒した報奨を受け取ろうと報奨課の前に並んだ。程無く俺の番になり、ゴブリンの耳を差し出す。
「お疲れ様でした。あら…あなたもゴブリンなのね」
「ええ、ちょっとゴブリン達に襲われて。あなたもってことは他にも?」
「ええ、結構な人数がゴブリンに襲われているようね。数が多くて怪我人も出ていますね。えーと…15匹分ですね、あら?一匹はちょっと大きいかしら」
「たぶんゴブリンリーダーです。俺の読んだ本だとゴブリンもゴブリンリーダーも区別はされていなかったんですけど、門兵のコワードさんの話だと恐らくリーダーではないかと」
「そうね…ゴブリンリーダーで間違い無さそうだわ。ゴブリンが14匹で140z、ゴブリンリーダーが1匹100zで合計240zね」
「結構ゴブリンリーダーって高いんですね」
「こいつって賢いのよ。形勢不利になったらすぐに逃げるし、普段は後ろにいて中々攻撃しづらいし、確実に勝てそうな相手しか襲わないのよ」
「…ってことは、俺は確実に勝てそうに見えたんだ」
それとも挑発したのが良かったのかもしれないが。
「フフ…あなたはとってもスレンダーだもの。武器も持ってないし、いいカモに見えたんじゃないかしら?あら?それだったらあなたはどうやってゴブリンを倒したの?他にパーティーのメンバーでもいるのかしら?」
「こう見えても俺は魔法使いですからね」
「ああ、あなたがあの男の魔法使いの。噂になってるわよ?それで…名前なんだったかしら?」
「ソーイチローですよ。これでも鍛えてるんだけどなぁ…」
力こぶを作る仕草をするが、あまりこぶが出来ない。そんな俺の姿を見た受付嬢は頑張る弟を見るような、妙に優しい目線で俺を見てくれた。嬉しいような嬉しくないような…
「まあ魔獣が活発になってるなんていう話もあるから、あなたも気をつけてね?」
「はい、ありがとうございました。では…」
受付嬢に挨拶をし、そのままどこにもよらず音の鎖亭に戻り夕食を頼んだ。今日の定食はステーキに蒸かしたじゃがいもの付け合せ、パンにサラダだった。ステーキは塩コショウにほのかに香るにんにくだけの味付けのみだったが押せば滴る肉汁に簡単に噛み切れるほど軟らかい肉質で食べても食べてもヨダレが出てきた。さすがにあまり高い肉ではないだろうが、その分美味しく食べるための工夫が凝らされているステーキであった。
食事が終わった頃、シルバーが俺のテーブルに来ていつものおしゃべりが始まる。
「やあソーイチロー。ご飯はどうだった?」
「いつもどおり旨いな。これなんの肉なんだ?」
「ファングボアだよ。僕とロンコで捕まえてきたんだ、こいつ!」
「おお、やるじゃないか。シルバーのくせに」
「でしょ!ってシルバーのくせにはひどいなぁ」
「嘘だよ、嘘。おかげで旨い飯が食えたんだ。ありがとうな、シルバー」
「でしょ~!ソーイチローは肉食べて大きくならなくちゃね!」
「ほっとけ。というか最近夕食が肉だらけな気がするのは力を付けろって言われてたのか…」
「おやっさんもあの体で冒険者やっていけるのかって心配してたからね」
「そうか、おやっさんにもお礼を言っておいてくれ」
「任せて!」
「じゃあ今から言いに行って来なさい」
「イテテテ!」
と、ロンコが現れて後ろからシルバの耳を引っ張って、そのまま厨房に連れて行かれた。あいつまたさぼってたのか…
夕食の礼をロンコにも伝え、部屋に戻って一息き、中々濃い一日が終わりを告げた。
ここで書き溜め分は終わりになります。
これで基礎的なことはおおよそ書けたかな?という感じです。
ゴブリンはこちらに向かってきていたため、『タレット』で当たりました。
しかし予測射撃ができなければ…ご覧の有様です。素早い横の動きをする
的に当たるわけがありません。至近弾も現状のままでは無理です。
あとエロい成分が少なくて申し訳ありません。多分次の書き溜めから
あれやこれやが入るはずです。ノクターン行けって言われないといいなぁ…