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墓王!  作者: 菊次郎
フェーズイン
31/129

改良

ご覧いただき有り難うございます。

 今日も昨日と同じように、ティアラとコロネを伴い朝市で買い物を済ませ、彼女らの家に向かった。


「おはようございます、ミストさん」


「おはようございます、ソーイチローさん。昨日は申し訳ありません」


 とミストさんは早々に謝罪してきた。なんの謝罪か判らない。


「何がです?」


「ティアラの事です。介抱までしていただいたようで…ありがとうございます」


 とのことだった。礼を言われるほどのことでもないと返事をし、朝食が出された。今日の朝食は燕麦を牛乳で軽く煮た粥にサラダであった。麦粥は仄かな甘味と癖のない味付けでするすると胃の中に入っていく。オートミールと言われる食材なのだろうが、食物繊維やミネラルが豊富でとても健康にいい物だったと記憶している。はむはむと朝食を食べているとミストさんが予定を尋ねてきた。


「ソーイチローさん、ご予定はいかがされますか?」


「今日から三日間ほどは『タレット』の改良ですね」


「その後はまた郊外に実験をしに?」


「そうですね。また同じような実験を行うかと」


「なるほど、ありがとうございます」


 ミストさんはティアラに目配せをして何かを合図していたが何か用事があったのだろうか?


 そうして三日間、音の鎖亭とミストさんの家で開発をするという日常を繰り返し、『タレット』の改良版を郊外で実験する予定の日になった。朝食中、珍しくティアラから声を掛けてきた。


「ソーイチロー様、本日は郊外で実験されるご予定ですよね?私もお供させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


 とお願いされた。綺麗な女の子にこう言われたら思わず喜んで!なんて言いたくなるが、そうはいかない。彼女の体調のこともあるし、俺の実験も早く進めたい。


「このあいだ倒れてたけど、体調は大丈夫か?天気は今日も良いし同じことになったらどうする?」


「はい、今日はコロネにも一緒に来てもらうつもりです。昼食のお世話は私が、荷物運びと的の確認はコロネが、とするつもりです」


 コロネは「うんうん」と嬉しそうに頷いている。すぐにそう返事がきたので、俺からの反論は予想していたのだろう。ミストさんも母親として娘の体調を気にしているのではないかと思って振りかえると、俺が何を言いたいかわかっているようだった。あと確か、コロネは勉強で留守番だったはずだが…


「娘がやりたいと言い、いざという時のことも考えているのです。無理して押し留めることはしません。あとコロネの勉強は帰宅してから行いますから大丈夫ですよ。朝方にもティアラがコロネに勉強を教えていたようですし」


 とのことだった。ティアラも以前の失敗を鑑みて対応を決めたらしい。自分だけでどうにもならないなら、人を使うのも解の一つだ。この間の対策はしたようだし、簡単に諦めるという選択肢を選ばなかったことも少し嬉しい。他に問題点も思い浮かばなかったため、許可を出すことにした。


「分かった、その代わり無理はするなよ?じゃあ今日もよろしくな、ふたりとも」


「よろしくお願いします」

「はーい!」


 そして2人を連れて郊外に向かった。荷物はコロネが持ち、ティアラはゆっくりとついてきている。門につくといつもいる門兵のコワードに会った。


「おはようございます、コワードさん」


「おはようさん、今日も外に出るのか?精がでるねぇ」


「一応俺も魔法使いですからね、鍛錬の為には外で頑張らないと」


「魔法使いも色々と大変だねぇ、この間の嬢ちゃん…ともう一人か、2人同時に相手するとはやるねぇ」


 と言って、ニヤっと笑った。言い返そうとしたが、表情を切り替えてコワードは続けて言葉を発した。


「おっとそうだ、最近街道沿いでゴブリンどもが頻繁に姿を見せてるそうだ。森に近づくなら十分に気をつけておけよ。まあ大鷲を倒せるお前なら問題無いだろうけどな」


「まったく…情報ありがとうございます。こちらも気をつけておきます」


「おう、そうしろ。じゃあな!」


「はい、行って来ます」


 そして街の外に出て、この間と同じ場所に向かった。進言にもあったから少し探査魔法の効果範囲を広げ、探査頻度を上げるよう『篠突く雨の輪』の設定を変更した。俺の手の動きを見ていたコロネが不思議がるように、


「ねえおにいちゃん、今も魔法いじってるの?」


「ん?ああそうだよ。いつも使ってる探査魔法の設定をちょっと変更したんだ」


「は~、よくわかんないけどすごいんだね!」


 と言われれば、俺は苦笑いを返すしかなかった。


「コロネ、荷物は重くないか?」


「うん、大丈夫だよ!ほら!」


 と言ってコロネはいきなり走り始めた。その走る姿は靭やか(しなやか)に、そして軽やかに動いている。それでいて昼食が入っているカゴは殆ど動いてないという離れ業もやってのける。中々街の外に出る機会が無かったのか、はしゃぎっぷりはリードを外された犬のように走り回っている。それにしても…コロネも魔力欠損症のはずなのに、あの運動神経は一体何なんだろう。純粋に体を動かすだけなら、俺ですら負けそうだ。


「なあティアラ、たしかコロネも魔力欠損症だよな?それなのにあの運動神経ってなんなんだ?」


「あの子の運動神経は…何なんでしょうね?私ほど体が弱いわけではありませんし…違いがあるとすれば、生まれつきの魔力欠損症か後から魔力欠損症に掛かったくらいでしょうか?申し訳ありません、そこは推測でしか…」


「いや、十分だ、ありがとう」


 コロネは生まれつき魔力が無いため、体は魔力が無いことを前提に作られていて、その為魔力欠損症に罹患していても問題が無い可能性もある。そこら辺はセフィリアに確認したほうがいい話だなと、心のメモ帳に書いておいた。


 コロネがはしゃぎ回っていた以外は特に問題もなく、少し体調が心配なティアラに歩調をわせつつも、この間と同じ見渡しが良い緩い丘の上にきた。コロネが木へ的を括りつけてもらい、同じ実験の用意を始めた。


「ふたりとも、俺より絶対に前に出るんじゃないぞ。あと…今日使う描画魔法の後ろにも立ってはダメだ。いいか?」


「「はい」」


 そして改良した能動的迎撃描画魔法『タレット』を呼び出す。幾つか改良案を作ってきたが、今回のは台座一式の剛性を増やし、弾薬の炸薬を減らして反動を抑えたものだ。普段の俺が使っているショットガンは身体強化をしていないと吹っ飛ぶくらいの強装弾にしたものなのだが、どうしても魔獣相手に一撃で仕留めようと試行錯誤した結果がこの選択だった。それと共通の弾薬を使って、一発当てて倒せればいいなんて当初の設計思想を忘れて考えていたが、その結果が前回のザマだった。

今回の『タレット』用の弾丸は連射に向いた小型弾頭且つ弱炸薬で描画魔法を作った。といってもあくまで今のショットガン用と比較してであるため極端に威力が落ちたわけでもないが、魔獣相手では威力に若干不安があるため、硬い敵用に貫通力を重視した硬芯を仕込んだAP弾と軟らかい敵用に衝撃で潰れて破壊力を高めたSP弾の2種類を設定した。


「探査魔法『篠突く雨の輪』…で、よしターゲット完了。能動的迎撃描画魔法『タレット、AP弾』」


 前回とは少し上部構造を変更した。下部は前回よりペタっと地面につきそうなくらい高さを低くし各パーツの肉厚を増した三脚、回転する台座とその上に水飲み鳥のような形の支柱と銃身、動力機構が出現した。ちゃんと召喚したが…


「うーん、召喚時間が長いなぁ。しかも『タレット』には移動する能力が無いから、ますます固定砲台と化していくなぁ…」


 他の冒険者や魔法使いは機動力を重視して軽装が多いのに、俺は『楔の盾』で攻撃を受け止めたり『タレット』で拠点防衛したりと世の中のトレンドと正反対を向いている。


「まあ緊急に『タレット』を使う時にはリミッタを外して召喚スピードをあげるようにしよう。召喚コストと維持コストは…予定内だな、問題無し。『篠突く雨の輪』とのリンクも…よし、試射するぞ。ふたりとも大きな音でるから注意しろよ」


 ふたりに視線を向けると耳を塞いでこちらを見ている。ちゃんと俺の後ろにいるのを確認できたので試射を一発だけ行う。ショットガンより若干軽い音を立てて弾丸が発射された。『タレット』本体はブレた様子もなく大地にしっかりと根を下ろしている様子だった。


「本体は問題無さそうだな…それでティアラとコロネ、的のほうはどうだ?」


「えっとねー、真ん中に当たったみたいだよ?」

「殆ど中心に当たったようです」


「そうか、ありがとう。ここまでは順調だな…んで次の連射実験が山だな。今度は的に何発くらい当たったか数えてくれ。正確な数字はいいから、大体何発くらい当たったか覚えていてくれればいい」


的に当たれば、の話だが…とは言わなかった。


「今回も100発打つからな。いくぞ…ってぇ!」


 どこぞの雷ちゃんほど可愛い声ではないが、合図と共に連射が始まった。前回と同じ秒間3発の連射速度で実験しているが、どっしりと『タレット』は銃弾を吐き出し続けている。無事30秒ほどの連射実験が終わり、『タレット』にも問題が無さそうなことを確認できた。


「こっちは問題無し。それでふたりとも、的の方はどうだった?」


「おにいちゃんすごい!全部当たってたよ!」

「ええ、全部当たっていたようでした」


「よし、これでこの間の雪辱を果たせたな。あとは過負荷試験と共振点の確認で静目標に対する実験は終わりだ」


 今は止まっている目標に対して射撃しているが、本来は動目標…動いている敵に相対するのが目的だ。と、そこまで考えてふと気づいた。


「あ、動目標の用意するの忘れてた」


「どうもくひょう?とは一体何になりますか?」


 とティアラが聞いてきた。ちなみにコロネは『タレット』を興味深そうに触っている。ロックかけてそんなに危険は無いから放置してるけど。


「ああ、今までは止まっている的だったろ?今度は動いている的を目的にしたいんだが、その動く的の用意を忘れてた」


「例えば石を空に向かって投げた物では駄目でしょうか?」


「あ、それだ。石じゃなくてクズ魔石辺りに当たったら光るような簡単な魔法陣を刻めばさらに判りやすいかも。よく考え付いたな、ティアラ、ありがとう」


 とお礼を言うとティアラは俯いてしまった。照れているのか恥ずかしいのか判らないが…悪い雰囲気ではなかった。そしてコロネはそんな姉の姿を嬉しそうに見ていた。


「じゃあ俺は実験を再開するよ」


「では私は昼食の用意を始めます。コロネはソーイチロー様についていてください」


「はーい!おねえちゃんも早くご飯用意してね、コロネお腹が空いたよ…」


「はいはい」


 と、各自やるべきことを始めた。


ひょっとしたら読者の方はなんでもできる優秀な女の子が好きかも

しれませんが、自分はどちらかというと諦めずがんばる女の子

(ストーカー除く)が好きです。


タレットは某有名ゲームのアレをモチーフにしましたが、考えれば考えるほど

あの形状では役に立たず(ごめんなさい)、姿は似ても似つかないように

なってしまってます。

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