モグラ退治
ご覧頂きありがとうございます。
前話のあらすじ:モグラ退治を引き受けた
肝心のモグラ退治だが、モグラがいるエリアは一目瞭然なのだ。モグラ塚と呼ばれるトンネルを掘るときにでた土が積まれている場所があり、それで活動範囲が判る。それでもなお退治が難しいのはモグラのトンネルが広範囲に巡らされているうえ、普段は50cmほど地下にいるため攻撃が非常に難しい。土を掻きだしに地上に出た時を叩くか、群れから追い出されてトンネルに住めなくなった個体くらいしか倒せ無いのだ。
俺はそんな知識を思い出しながら、一つ考え付いたことがあってモグラ塚を探している。地上で魔獣を探すときは『篠突く雨の輪』で無数の魔力波を打ち出し、その反射波を観測し相手の位置等の情報を得ている。ではそれを地下に向けて打ったら?と考えた。
「お、あったあった。街道から見えるくらい近くにあるんだ。最初来た時は気づかなかったな。よしさっそく『篠突く雨の輪』」
そうして結果は…
「うん、さっぱり判らん。魔力が全然地下に浸透してないや。でもよくよく考えれば当たり前の話だな。『篠突く雨の輪』は表面しか探査しないように作ったんだから地面の中までは浸透しないよな。してたら俺の頭がパンクするか」
ならば地中を伝播する魔力波を出して、その反射波を計測すればいけるか?と考えてやってみたが石やら何やらが反射しまくってさっぱり判らん。
「だあーーーー!全ッ然上手くいかねぇ!魔力波を出す処と計測する場所が近すぎて俺の計算処理速度も間に合ってないし大きな石も反応しちゃうしエリアも狭いし!どうしたもんかなぁ…」
モグラ塚だらけの平原ではあるが、若草が生い茂り草原を渡る風も気持ちいい。日を見ると天頂に達していることから一休みして昼食を取ることにした。
「考え過ぎても良い事無いしね。昼飯は何かなーっと」
女将さんから渡された包を開くと、フランスパンのようなパンを真ん中で割り、中にハムや野菜を挟んであるサンドイッチだった。俺はこれをみてサブウェイを思い出し、モグラの地中対策をしてる今となんとなく因縁があるようなないような微妙な気持ちになった。
「手が土まみれだな。『掌水』っと…」
『掌水』を使い水を出し、手を洗いつつ喉の渇きを潤した。
余談だが水を出す魔法は実は2種類ある。水を“作る”か“集める”だ。水を作る方の描画魔法は『出水』といい、そのまま魔力で水を作るだけというシンプルな魔法だ。最大魔力を精密に測るのにも『出水』で何リットルの水を作る事ができるかで計測される。但し、この水は魔力で作ってあるため時間が立てば元の魔素に戻ってしまう。そのためこれを飲んでも水分を補給したことにならないのだ。飲んでも飲んでも喉が渇くという地獄のサイクルに陥る。そんなことから魔法使いは最初に「魔力で作ったものを飲むな食うな」と教わる。
一方、『掌水』は周囲にある水分を集める描画魔法のため飲んでも一向に問題ない。セフィリアも今では俺の出す『小水』…じゃなくて『掌水』を平気で飲むが、最初はかなり嫌がっていた。ただこの『掌水』は純水に近いため味も素っ気もないのが難点でもある。贅沢は言えないが。
肝心なサンドイッチは外での作業を意識して作ってくれたのか、比較的塩味を濃くしてくれ今の俺に最適な昼飯となっていた。
「ごちそうさまでした」
と、食事を終えお腹が落ち着くまでゆっくりしようと草原に寝転がる。
「はぁ…風が気持ち良い…サワサワと草連れの音と草原を渡ってくる風がなんとも贅沢な感じだ。日本じゃこんなの無かったからなぁ…」
ゆったりとした気分に浸っていたが、
「音…渡る…?魔力波を出す部分だけ離せば計測しやすくなるな。そして俺が移動しながら計測すれば大体の形は判るようになる。生物か否かは変質する反射波で判るから…いける、いけるよ!」
頭の中で長波のMVPの声が再生されたが、そんなことを気にせず作業に取り掛かった。
魔力波を離した場所に設置するには、即席の魔法具を作ることで対応ができる。魔法具とは魔石の中に魔法陣を刻み魔力を流すことでその効果を発揮する。ただ魔石の大きさが余り大きいものは無いため、大規模な魔法陣を魔石に刻むことは出来ず魔石内にある魔力が無くなれば中に刻んだ魔法陣も消えてしまうという欠点もある。
今回は一時的に使えればいいだけだし、単に魔力波を出すシンプルな魔法具なので問題無く作れた。ちょうど森の中で倒した魔獣の魔石を幾つか持っていたのも幸いした。
「魔力波出力っと…よし、魔石に魔法陣が描かれてるな。魔力波も…出てるっと。さて実践実践」
魔力波を出す魔石を地中に埋め、歩きながら反射波を計測し始めた。
「お、判る…かな?これは大きな石、これは空洞…この空洞はモグラかな?直径50cmくらいだし。とりあえず空洞沿いに歩いてみるか」
しばらく地中の空洞沿いに歩いていると体長1mほどの生物の気配が地中にあった。
「これがモグラっぽいな。ではさっそく『パイルバンカー』!」
『パイルバンカー』とは、元々は硬い魔獣の装甲を貫通するために開発した描画魔法だった。だが、『パイルバンカー』単体で使おうとすると魔獣に接近戦を挑まなくてはいけないのと『ショットガン』で対応できる魔獣ばかりであったためこれまで日の目を見ることがなかった。
手元に鉄杭が現れ始め、モグラがいると予想される地点に軽く突き刺した。1mほどの長さで鉄杭が作り終わり、その鉄杭の上に推進剤まで作られることで『バンカーバスター』が全ての姿を表した。全てが完了したのを見届け20mほど離れ、「点火!」と指示を出す。それと同時に鉄杭に付けられた推進剤が燃焼しはじめ、爆音と共に自身を地中深くに食い込ませた。
「ケホッ、すごい音だったな。というかこのままの接近戦で使ってたら、俺まで吹っ飛んでたわ。それで効果は…やべ、鉄杭が深く入りすぎて尻が見えねぇ。地面がえぐれてるのは掘るのに楽だからいいけど。っと土に血がついてるな、これがモグラかな?胴体が爆発してて見る影も無いや。討伐証明の尻尾があるのは幸いだけど」
『バンカーバスター』の威力が高すぎたせいか、モグラがいた痕跡しか残っていなかった。尻尾を回収し、もうちょっと威力を調整しつつ、同じことを繰り返してモグラを10匹倒した。
「よし目標数達成!この地中探査魔法もなんとか使えるようになってきたな。名前はどうしようか…モグラを叩く魔法だから…よし『ワニワニパニック』にしよう」
ゲーセンにあるモグラ叩き機…ではなく、その隣によく置いてあるゲーム機を思い出した。ちなみに今はワニワニパニック3まで出ているらしい。
その後、魔力波を出す魔石を掘り出しカバンにしまい、フィールへの帰途についた。
体調不良だったため投稿が遅れ申し訳ありません。
嫌がるセフィリアに無理やり『お掌水』を飲まそうとする…ゴクリ。深い意味はありません。
ヒロインが…次こそ出てきます…