定常依頼
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前話のあらすじ:筋肉ってすげえ
ヒロインが出てくるといったな、あれは嘘だ(本当に申し訳ありません)
翌朝、5時くらいに起きていつもの鍛錬を行い、6時に鳴る鐘の音を聞いて朝食を食べに食堂へ向かった。
「おはようございます、女将さん」
「あらおはよう。朝早くから頑張ってるわね!」
「女将さんこそ朝早いですね」
「私は仕事だもの!」
そういってカラカラと笑い、俺に朝食を出してくれた。朝食はパンとハムとサラダだった。
そのまま昨晩頼んでおいた昼食を包んでもらい宿を立った。
街の人々は日の出とともに活動を開始するのが基本なので、この時間ともなると非常に活気が溢れている。朝食用のパンを買って小走りになっている子供から焼き立てのパンの香りが漂っていて、野菜を載せた荷車や相乗り馬車が道を行き交い、馬の嘶きが途絶えることは無い。朝の時間は金の一粒と言うのは世界が変われど普遍的な真理なのだろう、昨夜より人々の足は早く、俺はその流れに乗ったままギルドへ向かった。
ギルドに到着して中に入ると、外と同じくちょうど一番混んでいる時間帯のようで建物の中はかなり混雑していた。
一番人だかりができている場所はFランク掲示板の前だが、これには理由がある。
Fランクの依頼はFランク“以上”の冒険者なら受注可能になるため、正規の冒険者は全員引き受けることが出来る。そのため上位の依頼に手頃な案件が無いとそのままランクが低い方に下がってくるため、最終的にFランクに集まるという流れができている。
また依頼する側もFランクなら手頃な値段で依頼出来る事から依頼数は非常に多い。その分依頼の種類は雑多で引っ越し、薪割り、田畑の開墾、家屋の解体、ドブ掃除、大掃除等と技術は要らないが力を必要とされている雑用依頼が殆どで、討伐の依頼は2種類、護衛と採取の依頼はまったく見当たらない。
と、俺は人に揉まれながらも依頼を探していた。しかし…
「うわー…どうしよう、出来そうな依頼が少ない…」
「おはようございます、ソーイチローさん。どうされましたか?」
と、声を掛けてくれたのは副マスターのシルクさん。
「あ、おはようございます。さっそくFランクの依頼を受けようと思って来たんですが、力が必要な依頼ばかりでちょっと困ってました」
「そうですね。依頼主の方も力がある冒険者を期待して依頼を出していますので…どうしても偏ってしまいますね。それに私達ギルドもFランク冒険者には市民からの雑用依頼をなるべく受けてもらいたいと考えでいます」
「そうなんですか?」
「はい。フィールの街にいる冒険者の6割が街外から来た人になります。そのためどうしても市民と冒険者の繋がりが弱くなってしまうので、低ランクのうちに市民と知り合いを持ってもらいたいと考えています」
依頼をこなすにしても顔が見える相手と見えない相手では、任務達成の質が違ってくるということだろう。さらに言うと冒険者は街の防衛戦力としての役割があり、そのため税制上優遇されている。いざ街の防衛をするときに知り合いがいるのといないのではやる気も雲泥の差になるから、そんな狙いもあるのだろう。
「さすがに不得意な依頼を受けて欲しいとはいえませんね。となると…定常討伐依頼のこの2種類はどうですか?」
「ゴブリンと…モグラ?モグラってあのモグラですか?」
ゴブリンは言わずもがな、嫌悪を誘う見た目とメスなら人間でも動物でも何でもいいという繁殖力が強い低級魔獣として有名だ。見かけたら必ず殺せとも言われる。
一方、モグラというとこちらの世界では体長1mほどの大きさの魔獣である。しかし珍しいことに積極的に人間を襲う魔獣ではないため脅威は少ないと魔獣大百科に書いてあった。
「他にどんなモグラがあるか分かりませんが地中に潜るモグラです」
「へ~、農家から依頼が出てるんですか?」
「いえ、これは街からの依頼です。モグラは放っておくと街道や平原を穴だらけにしてしまって人の往来にとても害があります。道に突然1mほどの落とし穴が出来るようなものなので…」
「それは…落ちたらかなり腹が立ちますね」
「ええ、以前マスターも落ちたことがあるらしく、ものすごく嫌っています。最初はご自身でモグラを退治しようとしていたようですが、地中にいるモグラを見つけることが非常に困難で数匹倒した段階で諦めたようです。そこで街に掛けあってモグラ退治を定常依頼にしたようです」
マスターの逆恨みじゃないですか…
「定常依頼になった理由は見かけたら取り敢えず倒せっていう事だからですか?」
「その通りです。普段は地中にいるので狙って倒せないため、チャンスがあったらということになります」
「なるほど。あと定常依頼ってギルドへの貢献値はどうなるんですか?」
「モグラは1匹1ポイント、ゴブリンは10匹1ポイントで、FランクからEランクに上がるためには10ポイント貯めれば昇格申請が出来ます。…まさかモグラを狙うつもりですか?」
「ちょっと試したいことがあるので狙ってみようかと」
「…そうですか。定常依頼ですので手続きは不要です。また討伐証明は尻尾になりますので忘れないよう持ってきてください」
「分かりました。では行って来ます」
別れを告げてギルドを出た。そういえば臨時の入門証を返却するときに冒険者ギルドの印章を見せるとお金が返却されることを思い出した。門に近づくと、初めて来たときに対応してくれた門兵と同じ人がいた。名前は確か…コワードだったかな。
「こんにちはコワードさん」
「む、お前は…何時ぞやの冒険者志望の」
「よく覚えてますね」
「まあな、そんだけ華奢なのに冒険者になりたいって言う奴も珍しいからな。んで今日はなんだ?」
「ええ、外へ狩りしにいくのと、入門証の返却をしにきました。冒険者ギルドに加盟したら返金されるんですよね?」
「そうだが…仮組じゃ返金されんぞ?入門証は出るときに必ず返却してもらうことになるから、仮組の人たちは滅多に外へ出ないぞ」
「俺は正規の冒険者になりましたよ。ちょっと伝手があったので無事になれました。ほらこれ」
と言ってコワードに左手の甲にある冒険者ギルドの印章を浮かび上がらせて、確認させた。
「ほう!本物だな。よし今返金するぞ」
臨時の入門証とお金を交換した。
「有望だとは思ったがすぐに冒険者になれるとは思わんかったな」
「色々と幸運も重なりましたけどね」
「運も実力のうちだ」
認められていたのはやはり嬉しい。そろそろ外に出ようかと思ったときに、以前来たときには無かった看板があった。看板には「スリ多発中!」と書かれていた。
「あれ?以前にはこの看板はありませんでしたよね?
「ああ、昨日から置いてる。この街は比較的治安が良いからスリの被害は無かったんだが、ここ数日報告の件数が増えていてな。お前は…スリからしたら格好の的だな」
「ええ?そうなんですか…」
一体何が判断基準なんだろう…
「見かけは華奢で持ってるカバンは上質、オマケにこの街に慣れてないのは一目瞭然。いい的だろ?」
このカバンはセフィリアからもらった物で何かの魔獣の革で出来てるらしく、簡単な防刃効果もあると言っていた。
「…注意しておきます。ではそろそろ」
「何にせよ注意しておけ。じゃあ怪我のないようにな」
と挨拶をし、門から外に出て狩りに向かった。
色々フラグしか立てられませんでした。
実際にモグラが繁殖していたら、異世界もものすごく困ることになりそうだと
考え最初の(自発的な)依頼はモグラ叩きになりました。