加入
ご覧いただきありがとうございます。
予約投稿を入れ忘れていました。申し訳ございません。
「シャアアアアアアアアアラッアアアアアアアアアプ!!!」
声が大きすぎて今度こそ建物が揺れた。
「…耳が」
「マスター煩いです」
と、マスターが入ってきた扉と同じ場所から、また違う女の人が入ってきた。背中までストレートの髪を伸ばしているクールビューティだ。年齢はイマイチ判らないが。
「む、副マスか」
「副マスではなくシルクとお呼びください」
「分かった分かった、もううるさくしないから下がっていろ」
「私もこの場にいます。冒険者登録の責任者ですから」
「勝手にしろ。おい坊主、俺がギルドマスターのギザルムだ。さっきの話は誰にもしてないよな?してたら記憶飛ばしてやる」
セフィリアが知っている人物と同一だったようで、伝えたもらった話が無駄にならずにほっとしたが、セフィリアは確かスカートの似合う人物とか言ってたなかったっけ…
「してませんよ。そもそもが素直に受け取らなかったら言ってみろって話だったんで」
「これだから年寄りの昔話は質が悪い!そんで坊主、おまえセフィリアの弟子なんだってな?」
「ええ、色々とお世話になりました」
「あのババアが弟子を取るとはなぁ、弟子を取ったとか初めて聞いたな」
「そうなんです?そういえばあんまり過去の話を聞いたことなかったな」
「まあいい、あのばあさんの推薦なら文句はねぇ。おいシルク、こいつを登録してやってくれ」
「構わないのですか?先ほど受付から聞いたところ、赤級で魔法使いとしての登録は基準を満たしていなかったようですが」
「あのばあさんの弟子がただの弟子な訳ないだろ?オマケにばあさん自身がS級の冒険者だし、魔法使いとして登録しなきゃいい話だ」
「了解致しました」
「ということで坊主は正規の冒険者として登録する」
「ありがたいことですが、仮組みとかすっとばしてもいいんですか?」
「仮組みが出来た理由は実力不足な奴らが増えすぎてな。この場合の実力ってのは腕力のことじゃねえ、それは判るか?」
「自分の経験でよければ…例えば魔獣を倒したい場合、まず魔獣を見つけること。次に魔獣を倒せるだけの火力を持つこと。森や魔獣の知識ももちろん必要でしたが、それらはあくまで探査と火力の為でしたし」
「だろ、中にはそこらへんにいるゴブリンすら見つけられん奴もおるぜ。あとはその入場証だな」
「この入場証って赤と青がありませんか?」
「お、気づいたな、そのとおりだ。門兵が問題を起こしそうな奴らには赤い入場証を渡しているんだ。それをみて市民は気をつけるようにしてるって仕組みだ。だからお前は門兵からは問題無しって思われてるし、それも判断基準だな」
と、そこで扉がノックされて、マスターが短く「入れ」と言うと、いつの間にかいなくなってた副マスターのシルクさんが入室してきた。
「ソーイチローさんの登録の用意が終わりましたので、話が終わり次第カウンターまでお越しください」
「俺のほうの話はいいから受け取ってこい」
「では失礼します」
そのままシルクさんに連れられてカウンターまでいくと、受付嬢の人が待っていた。
「ではソーイチローさん、左手の甲を上にしてこちらに出してください」
言われたままに甲を差し出す。すると受付嬢が5cmほどの判子を取り出し、俺の手の甲に押し付け魔力を流し込んだ。少しピリっとした感じがした後、甲を見ると剣と杖がクロスした刺青みたいなものが手の甲に描かれていた。
「書き込まれましたね。その印章に魔力を流し込んでください。そして一端切ったあと、もう一度流し込んでみてください」
魔力を流し込むと印章が見えなくなった。言われたように一端魔力を切り、もう一度流しこむと再び印章が浮かび上がってきた。
「問題ありませんね。普段の印章は隠れていますので目立ちません。そして印章が必要なときは今のように魔力を流せば浮かび上がります。その印章に受注業務を書き込んだりしますので、ソーイチローさんのほうで勝手に書き換えたりしないでください。ギルドとの情報に差があると、最悪資格停止処分までありますので」
「分かりました」
「業務を受注する場合は背後にある掲示板を御覧ください。今はソーイチローさんはFランクですので、そのランクと同じか下の業務だけ請け負えます。なお低ランクの業務を請け負ってもギルドの貢献値には寄与しませんので注意してください」
「貢献値が貯まるとギルドランクが上がりますか?」
「その通りです。現在のギルドランクと同じ依頼を10回連続で成功できた場合、ランクアップの申請が出来ます。申請されたときには昇格試験が課せられるときもありますのでご了承ください。他になにか不明な点はありますか?」
「わからないことが出てきたらお願いします」
「では以上です、今後の活躍に期待しています」
「ありがとうございます。後ですね…音の鎖亭という宿はご存知ですか?」
「ギルドを出て左に曲がり2つ目の角をもう一度左に曲がると、左手に見えてきます。ここから100mほどですからギルドからも近くていいところですよ」
「そうなんですか、助かりました。ではこれで…」
と、そうは問屋が卸さなかった。
「おいおいおいおい、見ろよさっきの魔法使いが冒険者になってるぜ!どうなってるんだよここの審査は!」
「げ、まじかよ。なんで赤級の魔法使いが冒険者になれて俺らがなれないんだよ!差別してるんじゃねえよ!」
「だな!なんでそんな細っこいやつが冒険者になれるんだよ。俺らのほうがよっぽどふさわしいよな!」
受付でごねてた3人組がまだいた。俺が冒険者登録していたのを見られたらしい。相手するのも馬鹿らしいので、無視して通りすぎようとする、が…
「おいテメエ、無視してるんじゃねえよ」
と、腕を捕まれ通り過ぎることが出来なかった。
「離してもらえませんか?俺は正規の手順を踏んで冒険者になった、ただそれだけですよ。あなた方もやればいいでしょう?」
「うるせえな!テメエが不正したに決まってんだよ!俺様が直々に暴いてやらあ!」
男A(命名)がこちらに殴りかかってきたので逃げようとするが、腕を掴まれているため逃げられない。
そこで掴まれている腕を離させるために、電気を発する魔法陣『なのです』を起動する。本来なら結構な高圧電流を身に纏う魔法陣であるが、今回は静電気ほどにして掴んできてる腕に流した。パチッと軽い音がすると同時に、男Aは驚いたように腕を離した。
「くそっ、何だ今のは?!」
「服が擦れたんじゃないですかね、ではこれで」
だが素直に通してくれるわけでもなく、残りの男B、Cが出口を塞ぐように立ちはだかった。
「てめぇ…怪しげなことを」
魔法使いから怪しげなことを無くしたら何も残らない気がする。なんてのんきなことを考えていたら、3人とも険呑な雰囲気を深めこちらに殴りかかるような態度をとってきた。
逃げ場所も無いため『なのです』の稲妻を展開しよう…と考えたがこの魔方陣は電気を纏うだけで射出する機能が無かった。さて、どんなふうな魔法陣なら効率的か…などと考えてるうちに、背後からギルドマスターの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ギルドで何やってやがる!!」
いきなり怒鳴られたこととギルドマスターの体格が特に大きいせいか男Aは少し腰が引けながら
「ケッ、こいつがずるして冒険者になったから俺らがとっちめてやろうかと思ったんだよ」
「ずる?」
なんのことかさっぱり思い浮かばないギルドマスターは頭にハテナマークを浮かべている顔をしていた。しかし、顔を少しだけ傾けてセリフだけは可愛らしく言うのがものすごくキモい。ホモがシナを作ってるのを見ているようで…
「赤級程度で冒険者になれるってんなら俺らだって問題無いだろ?そんな弱っちい奴よりぜってえ俺らのほうがいいって!」
「つまりはこいつが弱そうだから納得いかねえって言ってるのか?」
と、ギルドマスターは俺を指さしている。確かに貧弱な体してるけどね…
ギルドマスターは「ふむ」と考えて俺のほうをチラリ見ている。
「おいソーイチロー、非致死性の魔法って使えるか?」
「そりゃありますけど…」
ショットガンのシェルを変えればいいだけだし。実践では使ったこと無いけど。
「よし、ソーイチローとお前ら、裏のホールで模擬戦やってみろ。良い結果でたら考えてやる」
ギルドマスターはニヤニヤしながらこちらを見ている。なんとなくだが、セフィリアの弟子の戦いを見てみたいからこんなことを言っているように見えた。
「よっしゃ!これで俺らも冒険者になれるぜ!」
「仮組みなんざやってられっかってんだよな」
「どんどん稼ぐぜ!」
3人組はすでに勝ったような物言いをしているが…ギルドマスターは一言も冒険者にしてやるとは言っていない。あと俺の意思は…
「え、いやですよ。早いとこ宿の予約取りたいし、魔法の改善もやりたいし」
素直に言うことを聞く謂れも無いし、俺にとって良い事がひとっつも無い。
「冒険者にしてやったんだからそれくらいいいだろ!?」
「シルクさん、俺って特例で正規の冒険者になれたんですか?」
また気がつくとギルドマスターの後ろに副マスターのシルクさんが佇んでいる。この人がいつ近くにきたのかさっぱり気づけない。俺が声掛けたおかげで3人組もシルクさんがいたことに気づいたようで驚きの表情を浮かべていた。
「いえ、紹介状をお持ちでしたので規則に沿った登録となります」
「俺が戦わなくちゃいけない理由ってあります?」
「合法的に叩きのめして禍根を断つという考えもありますが、直接的に利点は無いと考えます」
「おいシルク!おめえどっちの味方だよ!」
「冒険者ギルドの味方です」
一瞬の間もなくシルクは断言した。
「ぐぬ…くそ、じゃあ指名依頼を出すってことでどうだ!」
指名依頼とはそのままの通り、特定の冒険者を指名し依頼を実行してもらうことだが、初めての依頼が指名依頼っていいんだろうか?
「俺って確かFランクですよね?おまけに初めての依頼が指名って問題無いんですか?」
「問題ありません。依頼となれば貢献値にも寄与しますし、依頼金も最低10000zからと非常に高額です」
10000zとは高額だ。宿で50日分ほど泊まることができる。
「それなら引き受けてもいいかな。殺し合いではなくて、戦い方が見たいってことでいいんですよね?」
「ああそれで構わねえ。セフィリアの弟子の戦い方を見てみたいだけだからな。おいシルク、依頼書の作成と達成金は予算から落としておいてくれ」
「依頼書の作成は終わりました。あと達成金はマスターの給料から引き落としておきます」
「いつのまにってか、なんで俺の給料から出すんだよ!」
「ギルドにこの依頼が必要ありません。あくまでマスターの私用ですので」
シルクさんは欠片も表情を動かすこともなく言ってのけた。この人が驚くことってあるのかな?
「ぐぬ…やっぱやめよっかなぁ…カカァに叱られるしなぁ…」
やめるんかい!ここは小遣い減らされても依頼する場面じゃないのかよ…せっかくの小金稼ぎのチャンスなので、ちょっとひと押ししてみよう。どうせ見せる魔法はロンコ達にも見られているのしか使わないし。ちなみに3人組はどこの娼館の女が一番か話している。
「俺の魔法ってセフィリア曰く、すごく変わった魔法みたいですよ。俺はセフィリア以外の魔法を知らないので何が普通か分かりませんが」
「くそ!セフィリアのお墨付きかよ」
「あと冒険者って自分の手札を晒すのって当たり前の行為なんですか?」
自分の戦い方を知られたら、その対策を考えられるのも道理。理由が無い限りは自分の戦闘方法を見世物にするのは論外だと思う。
「わあったわあった!払うから戦え!」
やはり冒険者の戦い方は秘匿されるのが普通のようで、最後のひと押しが効いたようだ。
「ありがとうございます。あとシルクさん、そのホールって大きな音とか出ても平気ですか?」
「問題ありません。演説や模擬戦に対応できるように作られているので中の音が漏れないように作られています」
「ではギルドマスターと副マスターのお二人に…もし俺が白い物体を投げたら眼と耳を塞いでください」
「なんだか分からんが分かった。おいそこの妄想3人組!了承がとれたからとっととこっちこい!」
お気に入りの娼婦について話していたようだが、お互いが自分のお気に入りを譲らず喧嘩になりかけていた。ギルドマスターに声を掛けられてやっと自分たちの状態を思い出したようだ。
「けっ、やっとかよ。殺さない程度で許してやるから安心しとけよ!」
またギャハハハハと大笑いをあげている。一体何が面白いのかさっぱり理解できない。
「では依頼の登録をしますので、カウンターにお越しください。それが終わりましたら裏手にあるホールまでお願いします。それではそこの3人組はこちらへ」
カウンターに向い、印章を出して依頼の登録を行った。印章のどこかに情報を書き込んだみたいだが、ぱっと見では判らないようになっている。
そしてギルドの裏側にあるホールに向かい、3人組と対峙することになった。
何度考えても、チンピラに絡まれる→逃げる しか選択肢が出てきません。
訳がわからない場所だと特にそのような選択になると思います。
でもやっとこれでテンプレ(の導入)を書けました…