森の中で ロンコ視点
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ロンコ視点となっていますが、森の中で人にあったらどうなるのかな、と夢想してみました
- side ロンコ -
「ソーイチロー行っちゃったねー。これで子供が早く良くなるといいなぁ」
と、シルバーはのんきに話しているが、私の足は痛い。ちょっとそののほほんとした顔を(八つ当たりだが)殴り飛ばしたいのをぐっとこらえて、言葉を紡いだ。
「ええそうね、子供が早く良くなるといいわね」
表面上はシルバーに同意したが、今回のこの邂逅は簡単な話では無い。ソーイチローという男はシルバーの声を聞いてここに来たと言っていたが、街道から少し離れた広大な森の中で迷人が偶然出会うというのはどれだけの確率だろう?
その時点で怪しさ満点なのに、極めつけは彼が見せた魔法。強烈な閃光を放つ白い石で狼を無力化し、黒い筒で石礫を飛ばして止めを刺す魔法。
これでも私は将来ギルド職員になりたいと思っているから、一般的に知られている魔法や薬草、武器防具は調べて知識として蓄えてある。だけどあんな魔法や魔法具は一切記憶に無かった。
あんな連射が出来る魔法具は見たことがないし、万が一魔法であっても詠唱をしている様子は無かった。無詠唱で魔法が使えるとなると、人の皮を被った幻想種と言われるほうがまだ納得出来るレベルだ。
つまりソーイチローとは、こんな広い所で偶然出会った未知の魔法を使う人物、となる。怪しいとしか言い様がない人物だった。
「それにしてもソーイチローの魔法って凄かったね!ピカッて光って全部狼倒しちゃうんだもん」
その倒された中にあなたも含まれていたのだけれど、すっかり忘れることが出来る頭が羨ましい。
「ええそうね」
「薬草もソーイチローなら早く届けてくれそうだよね!」
「ええそうね」
シルバーが何でも無いように話しているが、本来なら私を置いてシルバーが薬草を届けに行くのが、依頼を受けた冒険者の正しい在り方。当たり前だけど初めて会った人に依頼の品を託すのは論外。
だけどシルバーは私の不安を感じ取ったのか、ソーイチローが薬草を持ち逃げするというリスクが有りながらも私のそばにいることを選んでくれた。多分深く考えての行動では無いのだろうけど、私のそばにいることを選んでくれて本当に嬉しかった。
ソーイチローに渡したあの薬草は実はちょっと森の奥にいけば沢山自生してるもので、珍しい物でも無いため普段は一束20zほどの安い金額で買い取られる。ギルドの掲示板に常設依頼として薬草取りが掲げてあり、他の狩りのついでに取ってきてもらう程度の物でしかない。
しかし今回はフィールの街で少々風邪が流行っていて、いつもより薬の消費が多かったらしい。おまけにこの刈り取った薬草はその効能が長持ちしないため、薬を頻繁に入れ替える必要があり、今回のように風邪が流行ると品切れになるという事態がちょくちょく起こっている。
そこで今回は特別依頼という形でいつもより買い取り価格が高くした依頼が発生し、私達のような低ランク冒険者にはお金とランク稼ぎ的に美味しい仕事だったため、喜び勇んで受注したんだけど…このザマだった。
正直、今の冒険者という立場はギルド職員になるための腰掛でしか無いのだけれど、それでも今回のような簡単且つ重要な依頼を失敗するような冒険者をギルド職員として雇ってくれるとは考えにくい。
ギルド員になるために全部の依頼を成功させなくちゃいけない訳でもないけど、失敗をどうやってリカバリー出来たかというのも立派な評価項目になるため、幸運にもソーイチローが引き受けてくれたのはとてもありがたいことだった。まあギルド員に「なんでシルバーが届けなかったか?」と聞かれるかもしれないけど、「ソーイチローさんのほうが足が速いから」とでも言っておけば誤魔化せるでしょう。
「はい、ロンコ、どうぞ」
自分の中で考えに没頭していたら、シルバーがこちらに背を向けて屈んでいた。
「なに?背中を蹴っ飛ばせばいいの?」
「足を怪我してるんだから大人しくしていようよ!そうじゃなくて、歩くの辛いでしょ?おぶっていくよ」
「…」
「ほら、早く」
「私、重いわよ」
「知ってるよ」
怪我を無視し無言でケリを加えた。
「イタッ、僕にとったら大切な人で大事なんだから当たり前でしょ!」
「…」
たまにシルバーは衒いも無く言ってのける。私が出来ないことを。返事するのも悔しいので、黙ってシルバーの背中に乗る。
「よいしょっと。ロンコは怪我しちゃったけど、最後にはなんとかなりそうで良かったよかった。帰ったらソーイチローにも改めてお礼言っておこうね」
「…」
シルバーはソーイチローと再び会えることに疑問を持っていない。私は疑ってばかりいるのに。きっとこんなシルバーだからソーイチローに依頼を託すことができたんだろう。
「そうね、とりあえずは…宿泊してる間の食事はおかず一品増やそうかしら」
「あ、それいいね!親っさんのご飯ならきっと気に入ってくれるよ!」
「そのためには…あと20km、頑張って私をおぶってね?」
「…も、もちろんだよ!」
頑張ってくれるようなので、私は抱きつく力を強くした。まあおぶさるのは、森を出るまでで許してあげよう。
もし女の人で冒険者やってる人がいるとしても、生涯冒険者やるって人は
少ない気がします。命の危険と身の危険があるし。
危険の少ない職へのステップアップか寿退社(?)狙いになるんじゃないかなぁ