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墓王!  作者: 菊次郎
オウルフォレスト学園
122/129

成就

ご覧頂きありがとうございます。

「あの、すみません」


 と、代表らしき人に声を掛けたのだが、周囲の惨状を見て警戒心を最高まで上げている警ら隊は一斉に剣を向けてきた。


「怪しい動きをすれば容赦なく切るぞ!」


「動かないんで話を聞いて下さい。あなた方は学園長かセフィリアから派遣された人たちでは無いんですか?」


「何を言っている?俺たちは警備部所属第六警ら隊だ。学園長など知らん。密輸品が真夜中に動かされるという情報を入手した。それで騒ぎが起こっているようだから急ぎ急襲したのだ」


 そう話しているうちに隊員が密輸品を見つけたらしく、さらに緊張が高まった。この警ら隊が俺たちを拘束しようとしないのが不思議なのだが、俺たちと同じく今の状況を見て困惑しているようだった。


 片やいかにも犯人なゴロツキ風味な男たち、片や拘束されていたルチルを助けていた女性陣、その上剣を向けられているとはいえ俺たちは大人しくしていたため動くに動けないようだった。そうこうしてるうちに、どうやら外に新たに一団体が到着したらしく、先に来ていた警ら隊と少しもめているようだった。しかし、その団体と一緒に来ていたセフィリアは、警ら隊との揉め事など気にせず倉庫の中にいる俺たちの元に辿り着いた。


「首尾よく救助できたようじゃな」


「うん。そこまではよかったんだけどさ、今のこの状況は一体どういうことかわかる?」


「うむ。ワシと一緒にきた団体は治安維持隊といってな、まあ他国でいう軍のようなものじゃ。それで先に来ておったのはまあ普通の官憲じゃな。それがどういうわけかここで鉢合わせたようでな」


「話を総合すると、密輸品を追っていた警ら隊と誘拐事件の解決に動いた治安維持隊がたまたま鉢合わせたということか…たまたま?」


 さすがにこんなことが偶然重なるとは考えにくいのだが、それでも証拠も何もないためもやもやとしたものが残った。

 治安維持隊の隊長と警ら隊の隊長はどちらの管轄だと喧々諤々と揉めていたが、セフィリアの証言もあって俺たちは後日証言をするという条件で放免となった。 




 そうして一週間後、俺とセフィリアは今回の事件について学園長から呼び出しがあり彼の元に訪れた。喚ばれた会議室には学園長と彼の秘書という女性、治安維持隊と警ら隊の大隊長達が揃っていた。


「すまんの、お主達は巻き込まれただけじゃが少し錯綜しておってな」


「これくらいお安いご用です」


「それで現在の状況じゃが…さきほどヌマッキの死亡が確認された」


「…はい?」


 確かコロネが放った前宙回転踵落としはヌマッキの顔面を抉ったが、せいぜい固形物が食べられないくらいで死ぬほどではなかったはずだ。俺が疑問を持つのは分かっていたのか、学園長は説明をしてくれた。


「今から言うことは他言無用じゃ、いいな?」


「わかりました」


「まずヌマッキの死因じゃが水死じゃ。しかも無理心中に近いことをされて、な」


 ますます訳が分からなかった。


「ヌマッキをまず警ら隊が尋問し、次に治安維持隊が尋問をするという順番じゃったのじゃが、警ら隊から治安維持隊の詰め所に護送するときにヌマッキが奪われての」


 治安維持隊と警ら隊の大隊長はお互いに相手が悪いと何やら喚いていたが、学園長から一喝され静かになった。


「恥ずかしい所を見せたな。正確に言うと治安維持隊の偽物が、警ら隊の詰め所からヌマッキを連れ去ったというのが正しい。丁寧なことに偽の書類まで用意してあってな」


 ヌマッキの家であるルイズ大魔法具商会オウルフォレスト学園支店を家宅捜索したところ、密輸した禁止薬物や帳簿なども押収したのだが、その時に一緒に治安維持隊と警ら隊の制服を押収したそうだ。


「それでの、相手に奪還された後に死体など見つかっても偽物の可能性があるのじゃ。じゃから悪いが死体の確認をワシと一緒に行って欲しいんじゃ」


 ということであまり気は進まないが検屍に付き合うことになった。その道すがら、学園長は世間話のつもりか色々と話してくれた。


「今回の事件はの、色々とアンバランスなんじゃ。ルチル講師を捕らえておった場所はルイズ大魔法具商会所持の倉庫のうえ、密輸品を置いてあった場所じゃ。そんな足がつく場所で誘拐事件など起こすという稚拙なことをやったかと思えば、ヌマッキの奪還には事前に制服や偽書類の用意をしてあるなど用意周到じゃ。行動に一貫性というのが見られん」


「なるほど。そういえば自分も現場で思ったんですが、警ら隊と治安維持隊が偶然現場に居合わせるなんてことあるんですかね?」


「ふむ…それはそうじゃな。オスメル大隊長、お主達が何故現場にいたのか詳しく話せ」


 学園長から指名されたオスメル大隊長は警ら隊側の大隊長だった。


「はっ、自分たちは学園に最近持ち込まれていた麻薬の密輸を追っていました。そこに何度か投書があり、その投書の通り調べると幾らかの麻薬を押収することができました」


「では今回も同じような投書だったから現場に居たと」


「はい。その投書には必ず署名してあったので、信用度は高いと判断しました」


「署名?」


「投書の最後にリーンベルグと書かれていたようですね」


「なるほどの…うむ?リーンベルグ?どこかで聞いたことあったような…思い出せん」


 学園長はなに記憶の片隅に引っかかったようだが、思い出せなかったらしい。そして外に置かれていたヌマッキ達の遺体の所に到着した。ござを取るとそこには苦悶に喘いだヌマッキと、どこか安らいだ顔をした老婆がいた。


「どうじゃ?」


「…ええ、間違いないと思います。怪我の状況も同じですし」


「よし、これで確定じゃな」


 俺以外にも人相の確認をしていたらしく、その全員がヌマッキだと言っていたようだった。どうやら俺が最後の確認だったらしく、これでヌマッキの死亡が確定するということだった。

 手続きのやり取りを始めた学園側を横目に、ふと老婆のほうを見ると以前会ったことがある人物だった。


「あれ?この人…」


「どうした、知っておる者か?確かその老婆はヌマッキの教育係とか言っておったはずじゃが」


「いえ、一度だけ廊下ですれ違ったんですが、妙に意味深な事を言ってたんで覚えてたんですよ」


「ほう、どのようなことじゃ?」


「確か、妙な笑いをしたあと「ここにきてこれかい」とかそんな事だったような」


「ふむ?うーむ…」


 おもむろに老婆の耳の形を見ると、何か気づいたことがあったのか、


「ソーイチローよ、少し気になることができたのでの、今日はこの辺にさせてもらえんかの。ワシから呼んでおいて悪いが」


 ということで、学園長はこの場を一旦お開きとした。そして後日、再び呼び出された俺はその経緯を聞くこととなった。


「学園長、何か分かったんですか?」


「うむ。この老婆の名前はキューリッシュといってな、20年以上昔か…この学園で講師をしておった。そして彼女には息子がおったんじゃ。彼の名前はリーンベルグ」


 投書の署名と同じ名前の人物だった。


「息子は講師ではなく発明家でな、特に魔法具の魔石に刻む魔法陣の研究をしておった。リーンベルグは魔法具の魔力効率を改善する描き方を見出したんじゃが、その研究結果は奪われたんじゃ」


 魔法陣と言われると何となく親近感が湧いてしまう。


「リーンベルグはその研究結果を奪われた結果、失意の内に自殺してしまったんじゃ。その研究結果を奪った相手がルイズ大魔法具商会、ヌマッキの両親じゃ」


「まさか復讐?」


「そうじゃろうな。そしてリーンベルグの容姿じゃが、黒髪に青いローブを羽織っておった。ちょうど今のソーイチローのようにの」


「…」


「どのようにしてキューリッシュがヌマッキの教育係になったかは分からんが、長い時間を掛けて復讐の計画を立てておったんじゃろ。そこに容姿が似ているソーイチローが現れ、お主を復讐計画に組み込んだ。ソーイチローの行動が発端となり、ヌマッキの悪事が発覚するようにな」


「ということは、自分達の行動は全部キューリッシュの狙い通りだと?」


「そうじゃろな。実際、今回の事件の噂が驚くほどひどく正確に、そして早く広まっておる。内部にいた誰かが手筈を整えていたとしか考えられん」


 そこでカーエン学園長はふうと一息ついた。


「キューリッシュが影にいたとはいえ、ルイズ大魔法具商会の跡取り息子が密輸、誘拐、そして牢破りと立て続けに犯罪を犯したんじゃ。ここまで噂が広がったからには、ワシらとしても国内の商会を取り潰さねばならん」


「妙にヌマッキがアホっぽかったりワガママだったのも、キューリッシュがそうなるよう教育していたからってことですか。長年に渡って”甘い毒”を仕込み続け、ゆっくりと破滅に向かわせていたのか…」


「その通りじゃろうな。20年に渡った母親の怨念が、今回の騒動を起こしたんじゃろうなぁ…」


 巻き込まれたルチルと俺にとってはいい迷惑なのだろうが、それでもこの話を聞かされた俺はキューリッシュを恨むことは出来ず、あの世では息子と会って叱られちまえと、少しひねくれた事を思いながら、心のなかで手を合わせた。

なんか種バラシって、滑ったギャグを自分で解説してる気になります。


古今東西やられ役は様々いますが、バックボーンを考えると、意外とこんな感じだったりするのかな?と思ってしまいました。あまり爽快な結末でなく申し訳ありません。

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