森の中で
第一章のあらすじ:本妻&現地妻?ゲッツ
チート成分はまだ先…
書き溜め終了のためそろそろ投稿遅くなります。
今回出てくる女の子はヒロインではありません。NTR成分もありません。
誤記修正:
あまりまり→あまり 可愛い誤記だよねっ
セフィリアの庵を出てから二日目、俺はまだ森の中にいた。昨日と今日でマラソンランナー並みの速さで10時間ほど走ったから、移動距離は200km程度のはずだが森からまだ抜けることはできない。一端立ち止まって考えてみる。
「セフィリアの話だとフィールの街まで150km程度らしいから、ちょっと方向間違えたかな?大きくは違ってないはずだが…あれ、ソナーに反応がある」
俺は走りながら『篠突く雨の輪』(ソナーのこと)を起動しっぱなしにしている。セフィリアに初めて見せた初期の頃は全方位を常時監視するような魔法だったが、一方向に強く魔法を打ち出しそれを回転させるように変更した。魔力の集中運用によって索敵範囲を1km程度まで伸ばしている。無論、索敵の更新頻度が下がるというデメリットもあるにはあるが。
「800m西に動きの少ない人サイズのが2つ、その周囲を廻る大型犬サイズのが6つ…襲われてる?まあ人サイズが人間とは限らないけど。進路上にいるし人間だったら寝覚め悪いからちょっと見に行ってみるか」
そう独り言を呟き、再度走り始めた。心持ち走る速さを上げたが、劇的に速くなった訳ではない。セフィリアとの鍛錬は主に持久力をつけることに注力していたため、今の俺の体はマラソンランナーにちょっと筋肉がついた程度になっている。そのため長距離走は身体強化魔法と合わせて長時間走ることが出来るが、短距離走に向いている速筋が少ないためか身体強化が上手く働いていない。
「ここらへんかな?」
『ショットガン』を呼び出しバックショットをロードしておく。中型程度の動物ならパチンコ球をばら撒くほうがいいだろう。
先に進むと男の声が聞こえる。よく見たら森が少し途切れており、2mほどの崖というかギリギリ登れない急な斜面になっていたようだ。崖下には15歳前後の男女と灰色狼がいた。崖の下で女が踞り、灰色狼から女を守るように男が両手剣を構えながら叫んでいた。
「絶対に彼女には触らせないからな!かかってこい!!」
虚勢なのか気合を入れるためか男はそう叫んでいた。しかし男の腕や足に細かい傷を受けているようで、あまり分のいい戦いでは無さそうだったため手助けに入ることを決断した。いきなり手助けに入るとごたつきそうなので、まずは一言声を掛けた。
「おい、そこの人たち!手助けは必要か?」
「すまん、頼む!どこの誰か解らないが助かる!」
「了解!」
男が了承してきたので俺はショットガンを灰色狼に向けた。が、動きまわる灰色狼の動きが素早いことと射線上に男がいるため、ショットガンで殲滅するには時間が掛かりそうだった。そこで手元に『閃光手榴弾』を呼び出し投擲の用意をする。閃光の名の付く通り強烈な光を発する手榴弾であるが、音はあまり出ないようにしてある。
以前セフィリアの所にいた時、実験で光と音の両方を出してやった事があった。目標の魔獣の無力化には成功したが、爆音に惹かれて他の魔獣も近寄ってきてしまったのだ。
念のため2個呼び出し、狼のそばに一つ、男のそばに一つ投擲した。
「魔法を使う!3秒後閃光出すから目を瞑れ!3、2、1!」
「え?は?何?」
自身の身を隠そうとした時にチラリと見えたが、男は頭にハテナマークを浮かべていた。女はしっかりと伏せていたが…
その瞬間、閃光手榴弾が軽い破裂音と強烈な光を放った。崖上で直接見えない位置にいてもその光量が判るくらいだった。
「目がぁ~目がぁ~…」
某映画で有名なセリフをガチで言ってる人を初めて見た、やったの俺だけど…。
灰色狼も投擲した手榴弾を直視してしまったらしく、のたうち回っている。崖に気をつけながら降り、灰色狼に止めを刺して回った。そしてひと通り倒した後、二人に声をかけた。
「驚かせたか」
「いえ、助けて頂きありがとうございました。おかげ様で二人とも無事でした」
女のほうからお礼を言われたが、男のほうは黙っていられなかったらしい。
「無事じゃないよね?!目が見えないよ!」
「うるさいわね、命があっただけで丸儲けじゃない」
「命あっても目が見えなきゃ生きてけないよ!」
「いいじゃないの、目の一つや二つ」
「二つなら全部だよね…生活できなくなったら面倒見てくれる?」
「…」
「おいいいい!?病めるときも苦しいときも一緒にいようねって話したよね!」
「冗談よ、介錯くらいはしてあげるわ」
「活かす方向でなんとかお願いします…」
聞いている分には楽しいが、放っておくといつまでも続きそうなので強引に割り込んだ。
「時間が経てば目は見えるようになるはずだ。あんたまで巻き添えにして悪かったな」
と、(たぶん)目が見えるようになることを伝えておいた。
「あ、こっちこそお礼言ってなかったね。助けてくれてありがとう!うー、だんだんと見えるようになってきた…」
「私の名前はロンコ、彼はシルバーよ。あなたが降りてきた崖…というか急な坂で躓いてしまって足首を痛めてしまったのよ。私がドジ踏んだばかりに…シルバーほんとにごめんなさい」
「あの状況だとしょうがないって!契約の期日が迫ってたし、薬草も速く届けたかったし、狼どもも追ってきてたから…僕も焦っちゃってロンコのことを気にかけてあげられなくてごめんね」
お互いで謝り合っていて、なんとなく俺のことが眼中に無い雰囲気を醸し出してる。そこで二人の姿を改めて観察してみた。へっぴり腰で両手剣を振り回してた男がシルバー、冒険者というより荒事に向いていない優しげな顔立ちをしている。片方、ロンコと名乗った女はキツイ視線をした如何にもキャリアウーマンという感じで、遠くに弓矢が落ちていたからそれが彼女の武器なのであろう。
マジマジと見ていたせいかロンコが気がついてこちらに話をふってきた。
「あなたも森に依頼で来てたの?」
「俺の名前はソーイチローだ。そのままで呼んでくれ。ここに来た理由だが、田舎から冒険者になるためにフィールの街に向かってる最中でな。ちょっと道に迷ってどうしたもんかと思ってたら、こっちのほうで声が聞こえたから来てみたんだ」
「あら、私達はそのフィールからきたのよ。ここからなら凡そ20km程度かしら?随分と道に迷ったのね。だけど私達はあたなが道に迷ったことに感謝ね…」
そう深い溜息をロンコはついた。シルバーそんなロンコを心配そうに見ていた。
「ロンコ、足の怪我は大丈夫かい?」
「歩けないほど酷い訳ではないから、ゆっくりと移動すればなんとかなるわ。問題は…確実に契約期限までに間に合わないことかしら」
「そうかぁ~契約期限までに間に合わないのはしょうがないけど、薬草だけは速く届けてあげたいよ。確かこの薬草って子供の解熱剤だよね?」
シルバーは薬草が入っていると思われる袋を掲げて見せた。
「ええ、そうよ。たまたま在庫を切らしたところに子供が罹患したらしいわね」
「ん~、そうだ!ソーイチローさん、先に行ってこの薬草をギルドに届けてくれないかな?成功報酬を全部渡すから」
と、笑顔でシルバーは言ってきたが…
「代理で届けるとか出来るのか?」
シルバーに聞いたつもりだったが、その問になぜかロンコが答えた。
「ええ、可能ですわ。だってギルドからしたら任務の達成はだれでもいいのよ。但し、ギルドの貢献値には寄与しないわ。あと悪いんだけど報酬の受取については私達が到着してからになっちゃうわね。依頼状の証が私のギルド印に書かれてるのよ」
そう言ってロンコは左手の甲にある冒険者ギルドのギルド印を浮かび上がらせ、こちらに見せてくれた。先ほど俺が「ギルドに入りたい」という言葉を聞いて、解説がてら説明をしてくれているようだった。
「なるほど。あと報酬も全額受け取ってもいいのか?」
「もちろんよ。と言っても500zほどだから…宿代2~3日分程度の駄賃にしかならないけどね。あとソーイチローさんが引き受けてくれないと、私達は報酬を受け取るどころか同額の違約金を支払わなくちゃいけないわ」
「期限はいつまで?」
「明日の昼までよ。子供の解熱剤に必要だからってことで、あまり期限に余裕が無かったのよ」
ロンコは「そのせいで焦って怪我しちゃったけどね」とセリフを付け加えた。
「分かった、引き受けるよ。だけど確実に間に合うとは言えないからねな?」
「ええ、そこまで約束して欲しいなんて言えないわ。出来たら、で構わないわよ」
「ソーイチロー、ありがとう!これで子供の熱が下がるよ!」
と、満面の笑みをシルバーは浮かべたが、確実に成功するわけでもないのだが…
「そうだ、フィールの街までの道のりも教えて欲しい。そもそも道に迷ったからここにいるんだしね。あとここから先は危険は無いのか?同じように灰色狼襲われたりしないのか?」
「すぐそこで森が開けて街道があるから平気よ。街から近いから盗賊の類も出てこないし。ここから西に向かえばすぐに森が途切れて街道が見えるはずよ。その街道を南に下ればフィールにつくわ」
「分かった、ありがとう」
そうお礼を言い、シルバーの方に向いて彼から薬草の入った袋を受け取った。
「ソーイチローさんはしばらくフィールに滞在するんでしょ?もしよかったら私の両親が経営してる宿屋に泊まらない?音の鎖亭という所なんだけど、サービスするように伝えておくわ」
「あんまり高いと泊まれないぜ?」
「一泊二食付きで200zだからそこそこの値段でそこそこの部屋で美味しいご飯が出てくるわ」
「本当にロンコの宿屋のご飯は美味しいよ!僕もお手伝いしながら親っさんのご飯をよく食べるけど、親っさんほど美味しいご飯を作る料理人はフィールで見たことないよ」
「身内自慢って訳でもないけど、本当に美味しいと思うわ。あの顔であの繊細な料理作るとかどんな詐欺よ…」
そこまで言われたら気になる。こちらにきてからは干し肉となにかの葉っぱと果物しか食べられない生活だったから、特に美味しいご飯を食べてみたい。
「分かった、伺ってみるよ」
「そうして頂戴。宿の場所は…ちょっと入り組んでるからギルドの人に聞いて。あと私達が戻ったら宿で報酬を渡すわね」
「了解、んじゃそろそろ行くぜ」
「本当に助けてくれてありがとう、薬草もよろしくね?」
「ソーイチロー、子供をよろしくね!」
「子供をよろしくと言われても困るんだがな。ではまた音の鎖亭で会おう」
と苦笑いしながら駆け出していった。
森のなかで襲われているところを偶然助けられても、まず疑ってしまう俺は
心が汚れているような気もします。
スタングレネードってこういう異世界いったらすごく便利そうなのに、あまり出てくる作品が少ない気がします。盗賊団に突入するときとか使えば…なんて思ったり。