旅立ち
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そうして、セフィリアとの蜜月の日々は続いていたが、何事にも終わりはあったのだ。
ある日の朝、突然セフィリアは思いも寄らない事を言い始めた。
「ソーイチロー、相談がある」
「なに?改まって」
「そろそろ旅に出んか?」
「お、いいね。いつからどこにいく?」
「…行くのはお主だけじゃ。じゃが絶対に勘違いするでないぞ!お主が嫌いになったとかでは決して無い。お主の行末を考えた場合、いつまでもここに留まらせる訳にもいかんのじゃ」
「それならセフィリアも一緒に来ればいいじゃないか!」
「ワシにはまだ研究が残っておる。ここを離れられないのじゃ。もし研究が無かったら迷わず共に旅するのじゃがな」
「…」
「ワシがここで研究してるからといって、お主をいつまでも引き止めておけば、お主の成長を阻害する。それは…研究者としても魔法使いの師匠としても最も唾棄すべきことじゃ。もうお主は雛ではなく立派な若鳥となっておるのだ。ソーイチローが何になりたいかは分からんが、少なくともここに篭もることではないはずだ」
「俺が何になりたいかは、まだ考えていない。でも隣にはセフィリアににいてもらいたい」
「隣には居ないかもしれんが、お主の帰る場所にはなりたいと思っておる。ダメか?」
女のセフィリアにそこまで言わせて、男の俺が駄々をこねるなんていう姿は見せたくは無い。ちゃんと俺のやりたい事を見つけ、その道を突き進むことがセフィリアと共に在ることなのだ。
「男の俺は頑張るしかないか」
と言って、なんとかニヤっと笑った。
「うむ、それでこそワシが惚れた男!」
そこには泣き笑いしているセフィリアがいた。涙が先か笑顔が先か、どちらが先だったかは分からなかった。セフィリアを胸に掻き抱き、若草のような香りを存分に記憶したあと、今後のことについて話し合った。
「用意するものは…いつもの狩り用具一式に食料くらいかな?」
「そうじゃの、あとフィールの街に行ったら冒険者になるんじゃろ?ギルドマスターはちょっとした知り合いだから紹介状を書いておく。あと万が一難癖つけられたら「スカートの履き心地はどうだった?」とギルドマスターに言ってみろ」
「ギルドマスターって女の人?」
「いや、名前はギザルムという男じゃ。今から30年くらい前かの、小便を漏らしながら逃げてきたところを助けたことがあってな。ワシの持ってたスカートを貸したんじゃ。女顔だったのもあって、そのスカートが似合っててのう。それは大笑いしたもんじゃ」
「まだ覚えられてるとか、おっさん涙目だな…。フィールの街ってどんなとこだ?」
「カッター辺境伯が治めるここから一番近い街じゃ。お主の身体強化で…凡そ3日というところか。距離なら150kmほどかの。辺境と名のつくようにこの魔獣の森を抑える前線基地の役目がある。冒険者も多く尚の事ソーイチローには向いている。カッター伯は手堅い領地運営をしているおかげで、居心地は悪くないぞ」
「ふーん、中々良さそうじゃないか」
「うむ。ただ良くも悪くも実力本位なところがあってな。ソーイチローも最初は苦労するだろうな」
「やっぱ魔法使いの赤級で冒険者になろうとする人っていない?」
「まあまずおらん。魔法具師として細々生活してるくらいじゃしな。そこらへんも紹介状に書いておくから、冒険者になれないってことはないから安心せい」
「ちなみに俺の色々で魔力が回復するって話は?」
「そこは書かん。ギルドマスターにもバラしてはいかん秘密じゃ。何度も言うが、バレたら良くて実験動物じゃぞ?じゃがそれでも…もし魔力欠損症の患者を見つけ助けたいと望むなら、ワシのところに連れて来い。面倒を見てやるわい」
「了解。もう一度聞くけど、その…他の人を抱いたりしてもいいのか?前の世界は一夫一妻が当たり前だったからな」
「一夫一妻で世の中が成り立っておるなら、それは人死が少ない良い世界だったのじゃろう。じゃがこのアースガルドは違うんじゃ。死は隣にあって、力の無い者は他者の糧になるしかないんじゃ。力の無い者を力の有る者が助けるのも道理じゃろ?ソーイチローは必ず力の有る者になるから、可能ならば助けてやってくれ」
「世界が違えば道理も違うのは当たり前だよな…忘れてたよ。ところでふと疑問に思ったんだけど、多夫多妻ってあるのか?」
「それはどこの国も禁止されておる。誰の子か分からんようになって遺産相続が揉めやすいんじゃよ。あと一妻多夫も同じ理由で殆どおらん」
「血みどろの戦いになりそうだ…んじゃ、ちょっと部屋で荷物の整理してくるよ」
そう言って部屋の整頓をしてるうちに最後の夜を迎え、いつものようにセフィリアを抱いた。当初は魔力の回復具合を調べるだけだったのに、今ではお互いがどれだけ相手を感じさせられるかを競うようになっている。ふたりとも負けず嫌いだからいつも全力なのだが…セフィリアが感じやすいのか俺が絶倫なのか分からないが、結局全勝のまま終わった。
「むう…最後ぐらい勝ちたかったのじゃがの…」
息も絶え絶えの様子でセフィリアが言ってきた。
「そう簡単に勝たれちゃね」
「本当に、いつでも戻って来い…」
二人の夜が更けていった。そして翌朝、出発の日を迎えた。
「これが紹介状じゃ、ちゃんと渡してくれ。他になにか忘れ物はないか?ハンカチは持ったか?財布は忘れてないか?」
「あんたは母親かよ…全部ちゃんとあるって。じゃあ行ってくる、またな!」
「うむ、行って来い!」
しばしの別れとなるが、お互い涙は無く笑顔で旅立つ。街に向かって全力で走り始めた。
本編にて第一章は終わり、次より第二章に入ります。
ハーレムになる言い訳…というか動機づけをしていますが
過去にお妾さんを持っていた人は単に自分の欲望を満たすだけ…では
無かったのかな?と思います。家の維持だったり未亡人の救済だったり
見栄だったり。宗一郎はどうなるのでしょうね。