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墓王!  作者: 菊次郎
プロローグ
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プロローグ

ご覧頂き誠にありがとうございます。初めての執筆ではありますが、なんとか完走を目指して行きます。

 宗一郎の目が覚めると白い世界だった。見上げても白く、前後左右どこを見ても白色しかない。足元を見ても影すらない完全な白い世界。かろうじて足の裏に地面(?)の感触があるので、立っていることだけは理解できた。


(あれ?俺は家で寝ていたはずだよな。夢・・・にしては足元の感覚がずいぶんとリアルだな)


夢の中で「これは夢だ」と分かる明晰夢というのがあるが、それはもっと感じが薄ボンヤリするので、普通の明晰夢とは思えない。とはいえ夢以外に今の状況を説明できるわけでもなく、とりあえず寝る前までの行動を思い出す。


とあるメーカーの開発部門のプロジェクトのリーダーをしていたが、結局プロジェクトは中止になってしまった。

さらに上司からは、30歳になった俺はもう用無しとばかりに、来年度から子会社の出向を命じられた。なんとか開発畑に残れないかと相談したが「お前のセキュリティカードは4月1日から使えないから、それまでに引き継ぎをしておけ」とまで言われた。

 面談の後は家で一人自棄酒を飲んでそのまま寝た、はずである。


「思い出したらまたへこんできたぞ・・・飲めない酒まで飲んで忘れようとしたのに」


「こんばんは、村上宗一郎さん」


「うおっ!だれだ?!」


 女性とも男性とも分からない声が聞こえて、急いで周りを見渡すが姿は見えない。


「失礼しました。分かりやすいように話しかける対象を作りますね」


 そう言って謎の人物は俺の警戒心を解くように、ゆっくりと人型を作りはじめた。全体的に光っているため顔の造作や体型が分からず、身長は170cmくらいで人の輪郭がなんとか判断つくくらいの人型ができてきた。


「改めまして、こんばんは。村上宗一郎さん」


「はい、こんばんは。って何のんきに挨拶してるんだよ、俺は・・・いくら夢のなかとはいえ」


「夢ではありませんよ?」


「は?何言ってる。夢以外あるわけ無いだろ。その前にあなたはどちらさん?」


「私はアースガルドという世界の管理人をしています。あなた方の概念で言えば、神というものかもしれませんね。私自身の名前は無いので適当に呼んでください」


「神様がなんで俺の夢枕に立ってるんだ?というか何がなんだかさっぱり分からんぞ」


「混乱されるのも理解できますので、順を追って説明しますね。まずあなたは3月1日午前3時頃、自宅にて窒息死しました」


「・・・え?」


「一人でお酒を飲んでそのまま寝たのが拙かったようですね。嘔吐物が気管に入り、そのまま」


「ってことは俺は寝ゲロで死んだってことか?!嘘だろ・・・」


「本当です。とりあえず今のあなたの部屋へ行ってみましょうか」


 自称神様がそういうと白い世界は一変し、なんとなく安心する我が家に場面が切り替わった。

 蛍光灯とテレビは点けっぱなし、パソコンも立ち上げっぱなし、居間の中央においてある炬燵の上にはチューハイの空き缶やツマミが散乱し、エロ漫画は出しっぱなし、ゴミ箱に入ってるティッシュはもちろん山盛りだった。台所だけは料理のために整頓されていたが、それ以外は男の一人暮らしの見本みたいな部屋だった。


(汚すぎるだろ、俺の部屋・・・もうちょっと整頓しようぜ)


 炬燵のところに鏡で毎日見る人物が仰向けに寝ていた。自分の顔を直接正面から見るという、有りそうで有り得ない状況にちょっと興奮して自分の顔を眺めてみる。


(おー、これが俺の顔か。顔が白い上に口元にはゲロが・・・息もしてないな。誰がどうみても死んでるだろ)


 あまりに有り得ない状況でひどい混乱を起こしてもおかしくはないが、一周して逆に冷静になれたというところだった。


「理解していただけましたか?」


 まるで心を読んだかのようなタイミングで自称神様は話しかけてきた。


「いやまあ、なんとか事実を受け止めないといけないというか。一応、納得はできないが理解はした」


「納得できないというのは?」


「『宗一郎が死んじまったよ・・・寝ゲロで』とか言われ続けるのが納得できるわけないだろ!あと死体の横にエロ本があるのも・・・」


「まあそこは事実ですから諦めてください。さて、あなたの現状を理解していただけたので話を続けましょう。私はあなたにお願いがあってこうして地球に参りました」


「そんなあっさり言わんでも・・・で、お願いってのは?」


「村上宗一郎さんに私達の世界、アースガルドに魔力を運搬して欲しいのです」


「フルネームで呼ばれ続けるのものなんだから、宗一郎でいいぞ。いろいろ突っ込みたいことはあるが、まずアースガルドってのはなんだ?」


「地球とは違う法則がある世界、所謂異世界です」


「・・・異世界か。あってもおかしくはないが、改めて聞くと信じられないな」


「アースガルドの住人からしたら、同じように地球という存在はとても信じられないでしょうね。ただ、今のこの状況がある以上、ある程度は信じていただけるかと思います」


 宗一郎の部屋に本人とその遺体と光の塊(自称神様)が会話している。普通に考えたら有り得ない状況であり、もっと有り得ない状況が起きていると考えたほうがまだマシであろう。


「・・・まあいいや。それにアースガルドがある前提で話をしないと話が続かなさそうだ。話の腰を折ってすまんね、続きをどうぞ」


「はい。地球では科学が発達していますが、アースガルドではあまり発達していません。その代わりに魔法がある程度発達していて、科学と同じように生活の中でも魔法は使われています。ただこの魔法に問題があって・・・」


 そう言って自称神様は少し俯いた。ぼんやりとしているので、あくまで推定ではあるが。


「魔法に問題があるのか?俺が役に立つとは思えんのだが」


「いえ、ここからが重要です。魔法とは自身の魔力を元に術者の意思を具現化するもの、と言えます。アースガルドの世界には魔素というものが満ちていて、術者はこの魔素を吸収し体内で魔力に変換して魔法を使い、使われた魔力は再び魔素へと戻っていきます」


「つまり、魔素は魔力へ、魔力は魔素へと流転していて魔力から魔素にするとき力が振るわれるのか。それって永久機関ができるんじゃないか?!」


「永久機関にはなりません。魔力から魔素へ変換するときに、極僅かながらロスが発生して魔素が消失しています。魔力から魔素へ等価交換が成り立っておらず、アースガルドの魔素が減少しています。と、言ってもこちらは主な原因ではありません。一番の問題はアースガルドの生物が増えてきていまして、その生物に貯蔵される魔力が増えてきたため地上の魔素が激減しているのです」


「あー、つまりは生物の中に使われない魔力が溜まってきて、外部にあるはずの魔素が減るってことか。まるでタンス預金だな・・・」


「理解が早くて助かります。魔法がある前提で社会が成り立っているので、もし無くなってしまえば大混乱が起きると予想されます。地球で言えば電気が無くなる、と捉えて頂ければ判りやすいと思います。現に魔力が無い人間も生まれてきていますし・・・」


 地球で電気が使えなくなったら今の人口を維持できず戦争や大飢饉が起きるだろう。国対国の戦争どころか隣近所と殺し合いをすることになるかもしれない。


「そこで宗一郎さんには地球の魔素を持ってアースガルドに転生し、現地で魔法を使って頂きたいと考えています」


「なるほど・・・いくつか質問があるが聞いてもいいか?」


「ええ、どうぞ」


「前例はあるのか?」


「いえ、ありません。ちゃんとできるのか?と疑問に思われるかもしれませんが、そこは信用していただく以外はないかと・・・」


「なるほど。地球から魔素を持っていったら不具合は無いのか?」


「アースガルドとは違い、地球では魔素は漂っているだけの存在で生物へ一切影響を及ぼしていません。地球で万が一魔素が発見されてもそれを活用する術はありませんしね」


「そんなもんか・・・。俺ひとりが持っていける魔力なんか、たかが知れてるんじゃないか?」


「持っていける量は、アースガルドの魔法需要の10万年程度ですね」


「…とんでもない量じゃないのか?」


「とんでもない量です。万が一、一気に放出するとアースガルド全体が異界化してもおかしくないので、一度の放出量には制限を掛けさせて頂きます。具体的には一般的な魔法使いより少し下程度です」


「俺の一生で使い切れないだろ、それ・・・あとアースガルドで死ぬとどうなるんだ?」


「普通に死にますが、体は不老長寿になります。不老不死では無い点にご注意ください。もし死んでも魔力は爆散せずに、その場で少しづつ放出する存在になるので問題はありませんが・・・同じ場所で放出し続けるより、たくさんの場所でばら撒いていただくほうがベターですね」


「その場に囚われるとか無いよな・・・?」


 これはちょっと怖いことだ。こいつが神様じゃなくて実は悪魔とか。契約したとたんに魔法少女・・・じゃなくて、魂が捕縛されて永遠に留まるとかゾッとするぞ。


「骸から放出されるだけなので、そのようなことはありません。ただやはり一箇所から大量に放出し続けるとその魔素から魔獣の大量発生を引き起こすので、なるべく生きていて頂いたほうがいいですね」


 ちょっと安心して、でも最後に大事な一点を聞く。


「この話を断るとどうなるんだ?」


「地球で死亡したのと同じ扱いになります。もし断られた場合は、次の適合者を探すことになります。ただ、宗一郎さんほど魔力を移送できる人はまずいませんし、やるとしても複数人にお願いすることになるでしょうね」


 そういって自称神様は、感覚的にではあるが、ちょっと憂鬱そうな表情をした。


(俺もよくこんな雰囲気を出していたなぁ・・・人に仕事を依頼して断られたときとかな。そう考えると、なんかこいつが他人に思えなくなってきたな。こう感じちゃったら、断ることとかでないだろ・・・それに断っても死ぬだけだしな)


「・・・分かった、引き受けよう」


「本当ですか!ありがとうございます!!」


 自称神様は顔を上げ嬉しそうな表情たぶんをして手を握ってきた。触れられることに驚きだった。


「できれば、この邂逅と地球の記憶を持ち越したい。魔力の移送以外でアースガルドに出来る事があるかもしれないからな。あと現地に行った時の環境とかどうだ?いきなり荒野に放り出されたり海の上に飛ばされたりするのは嫌だぞ」


 向こうへ飛ばされるだけ飛ばしておいて、何やるか忘れました~とかだったら、何しにアースガルドへ行くのか分からなくなる。やるからには今度こそ目標を達成したいと考えた。


「記憶の持ち越しは可能です。現地の言語や文字については習得した状態になっていますし、魔法を学ぶのに最適な環境を用意していますのでご安心ください」


 そういうなら一応平気だろうか。死なれては困るみたいだし、転生即死亡とかは無さそうだ。


「大体わかった。細かいことを聞いていけばきりが無いからな。今すぐアースガルドにいくのか?」


「そのつもりです。心構えはよろしいですか?」


「おう、いつでもいいぞ」


「では・・・」


 自称神様はゆっくりと俺の方に近づいてきた。どんどん近づいてきて、目に入る風景が光によって塗りつぶされていく。そうして体が重なる直前に


「やる気を出して頂きありがとうございました。お礼にあなたの趣味が叶うよう、色々なものが“ダせる”ようにしておきます」


 と、つぶやきが聞こえた。なぜか「出す」の意味合いがおかしい。それに自称神様の声が向いている方向が宗一郎ではなく、エロ本のほうを見ていた。


 そうして意識まで光と重なった時、地球で村上宗一郎は死亡した。


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