入野うらら5
一応ジャンルは 恋愛 です(’’)
まだ恋愛候補軍が出てきていないだけです。
「相変わらずの自信家だねぇ、桜鼠! その美しく伸びた鼻、へし折ってやるよオォォ!」
「ふん、臨む所だ潤朱、サァ愉しもうじゃないカァァァ!」
だから、何故オネェ言葉なの。相撲取りのような低い声、想像するに体格が大きそうだ。
ズゥン、ズゥン、と地面が揺れている。え、これは二人が歩いているからなの!? どういうことなの。
そろそろ私も、この世界について思案することが疲れてきた。必死に脳内で整理するけれど、次から次へと予測不能なことが起きてくれる。
深緋が可愛らしいから……ただ、猫耳とかが付属された人間がいる世界だと思っていたのに。歩くだけで地震を発生させ、矢を射れば木を貫通する威力の生物がいる。
なにそれ怖い!
桜鼠に潤朱と、名前は女の子みたいで可愛いのに。……つまり、味方は潤朱ってことになるのか。
思案している間に、二人は戦闘を開始してしまった。まるで獣が本能の赴くままに、縄張り争いをしているかのように、凄まじい爆音で咆哮しながら戦っている。
見えないけど、声と音だけで熾烈な戦いだということは解る。嫌でも判る、何故ならばとにかく煩いし、木の破片やら、矢やら石、岩が左右を通り過ぎていくからだ。台風とかそういう問題ではない。
隠れているこの木も、ミシミシと不気味な音を立てている。矢が何本も刺さったのだ、脆くなっているに違いない。
不安げに深緋を見下ろすと、何故か瞳を輝かせて興奮気味だった。小声で話しかける。
「嬉しそうだね」
「桜鼠と潤朱の戦いですよ! 滅多に見られるものではありません! 潤朱は接近戦を得意とします、素早い動きで敵を翻弄するのです」
M1でも見ていると思えば良いのだろうか、いや、こちらは観客も命の危険に晒されている。
「潤朱は雌達の憧れの存在です、猛々しい獅子のごとき振り乱れる髪と、その反面爪の手入れが繊細で、ご自身で絵を描いているのです。芸術的ですよ。衣装も毎日違いますし、毛皮を丁寧に加工して独特な自分だけの衣装を作っています。装飾品も、山一つ砕いてそこから出てきた石や宝石を手で砕いて作るとか。口紅も深紅で美しいのです、大人気ですよ」
へぇ、カリスマなんだ。
……ん? ちょっとまった、今、雌、って言った? 雌!? この声、男じゃないの!? 女なの!? 同姓なの!? 聞き間違いだと思いたい、引き攣った笑みを浮かべて小声で質問した。
「え? 深緋と性別同じだよね?」
「違いますよ、僕は雄です。あの二人は雌です」
どういうことなの……オネェ言葉がおかしいのではない、言葉使いはあっているのだ。
声が、どう聴いても男のソレにしか聴こえないけど……そ、そう、女なんだ。女戦士だったのか、どうりで名前が可愛い筈だ。
私は、恐る恐る、木から顔を出した。どんな人なのか見ておきたいではないか。
好奇心には勝てない、じりじりと身体を動かし、そっと覗き見る。
遠くの方に、熊か巨人か、はたまた雪男か、まぁともかく得体の知れない何かの影が二つある。裸眼1.2のこの私の視力ですら、豆粒にしか見えない二人だが、今も「破ッ!」「ソォイ! 死にさらせェ!」という声は普通に聞こえてくるから驚きだ。
近くで聴いたら脳震盪を起こしそうな爆音なのだろう、怖すぎる。
動きが速くて目で追うことが出来ないが、気がつけば目前にまで二人が迫ってきていた。
瞳を凝らす、あまりにも衝撃的な映像が脳内に映し出されたので、視界がシャットダウンした。悲鳴を堪えて、木に高速で隠れる。
今のが……弓矢を持っていなかったほうが潤朱。
一言で言うなれば、ゴツイ。厳つい、大きい、怖い、巨人だ。あれでは本当にM1に出てくる選手みたいだ。筋肉ムキムキで、露出が高いけれど、筋肉達磨みたいで女性の色気が微塵も感じられなかった。
深緋の言う事が間違っていないのならば、潤朱はファッションリーダーである。それもカリスマの。
なんと言えば良いのだろうか、少なくとも私には真似出来ない服装だった。
腕輪は肉に食い込んでいるし、ネックレスも同じく。太すぎる四肢はともかくとして、お腹が。ぶるんっ、とはみ出している。服が小さいのか、わざと腰を露出させているのか謎だが、とにかくかなり際どい格好をしている。
「くァッ!」
潤朱の悲鳴に近い声だ、緊張が走った。まさか、やられてしまったのだろうか? 見たいけれど見ることが出来ない、怖い。
「矢が腕を掠ったみたいです、肉が抉られていますね」
怖い事を平気で言うな、脚が震えてきた。
「く、くくく。ぬるいねぇ桜鼠、どうしたんだい毒は塗らなかったのかい?」
ん? 思わず、眉間に皺を寄せた。”毒は塗らなかった”?
「ふん、あたぃの貴重な毒を潤朱に使うわけにはいかないだろう。アンタは幼い頃からその身体に毒を溜め込み、毒に対してはほぼ無敵じゃないか。効きもしない相手にあたぃの秘毒を使うほど馬鹿じゃないよ」
話が聴こえてきた私は、思わず鬼のような形相で深緋を睨みつける。
矢には、毒など塗られていなかったのだ。あの、途轍もなく不味い毒消し草など食べなくてもよかったのだ。
……つまり、あの時感じた眩暈他は、私の勘違いである。『病は気から』ということだろう。
深緋は、平然としていた。悪びれた様子など全くない、まぁ、この子は万が一の為に飲ませてくれたんだから悪気はないんだけど。
でも、不味かった。不味かったというか、苦くて舌が麻痺した。二度と飲みたくない。
「痛手のアンタをいたぶっても面白くもなんともないね、出直しな!」
「くぅ、まだ戦える! 桜鼠、情けをかけるな! 戦え、戦えー!」
遠くへ去っていく足音と、それを追う足音。二人は去ったらしい。
静まり返ったその場所で、私は大きな溜息を吐くと深緋と見つめ合う。丁度、空腹を訴える音が鳴った。「そういえば、狩猟に行くところでしたね」うん、そうだったね。
でも、色々とお腹一杯だった。満腹です、なんだかもっと、普通の世界にどうせなら飛ばされたかった、な。
お読み戴きありがとうございました、不穏な空気漂う作品になってまいりましたが、毎日更新しないとアリアンローズに間に合わないみたいなので、毎日更新を目指しています。
思い出したら、また立ち寄ってください。