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入野うらら4

 木に突き刺さっている毒塗り矢に注意して、再び木に隠れた。一体何が起こっているのか知りたいので、そっと覗けるように体勢を整える。

「れえ、らにがひたろ?」

「えーっと、”ねぇ、何が来たの?”ですか? まだ姿は見えませんが恐らく桜鼠(さくらねず)です」

「さくられずってらに?」

「”桜鼠(さくらねず)って何?”ですね。東軍の猛者ですよ」

 東軍? ……頭を抱える、眉間に皺を寄せる。

「こほは……ひふけんふはぐんへひははら?」

「申し訳ありません母様、何を言っているのか理解できません。ごめんなさい」

 深緋(こきひ)が申し訳なさそうに瞳を伏せた、これで何を言ったのか解ったら凄いかもしれない。

 ここは岐阜県不破郡関ケ原町一帯? と訊きたかったのだけれど、そんなわけないか。戦国時代にでも来たのかと。東軍西軍、と聴くと真っ先に思いつくのが関が原の戦いなのだから仕方がない。歴女ではないが、それくらいのことなら私にだって解る。

「そうですよね、母様は東軍も西軍も知らないですよね。桜鼠(さくらねず)も。簡単にご説明いたしますね。

 僕は西軍なのです、ほら、見てください」

 言うなり袖をまくり、右手首を見せてくれた。か細い手首に刺青のような模様が入っている。茶色の一本の線、茨のように棘が付属しているような、そんな模様だった。手首を一周している。

 眺めている私に、囁くと袖を戻す。

「東軍は、左手首にこの模様があります。産まれた時、皆決まってこのような模様があるのです。母様はありませんよね」

 あるわけがない、が、一応両手首を袖をまくって見せた。深緋(こきひ)は物珍しそうに私の手首を見つめた。遠慮がちに手に取ると、手首を動かしながら見続ける。ほぅ、っと感心したような溜息が零れる。

「凄いです、初めて模様がない人を見ました。伝説の戦乙女(いくさおとめ)様と同じです」

 また新たな単語が出てきた、今度はなんなの。しかもなんだか恥ずかしい響きに聴こえるのは、私だけだろうか。

「東軍と西軍は、常に争ってきました。どちらが始めたのかもう解りません、ですが終わらない戦いなのです。昔は、戦乙女(いくさおとめ)様が平穏に導いてくれていたらしいのですが、ある時からお姿を皆の前に見せてくれなくなりました。それから、こうして不毛な争いが起こるようになったと言われています」

 へぇ……とりあえず、ここで戦争しているということも解った。全く、原因も特にないのに争うなんて愚かな事だ。

「この付近は、丁度中央なのです。西軍、東軍入り混じるのです」

 激戦区ってことなのだろうか、危ないところで母親を待っていた深緋(こきひ)が不憫になる。怖かったろうに。

桜鼠(さくらねず)は僕でも知っている、弓の名手です。名を馳せている猛者ですよ。姿は知りませんが、矢羽の模様が桜だったらすぐに逃げろと教わりました」

 成る程、危険人物だ。このままひっそりと身を隠すしか手立てはない、出来れば鳥居の奥の大木へ移動したかった。あそこのほうが安全そうだ。

「怖いね」

 唇の痺れがとれたので、喋ってみた。と、鋭い瞳で睨まれる。

「しっ、近づいてきました! 静かに……」

 口元に手を当てて、神妙な顔つきで頷いた深緋(こきひ)に、私も頷き返した。胸がドキドキしてきた、また矢が飛んできたらどうしよう。

 と、思った矢先。

 ドドドドドド!

 ……矢先だ、本当の矢先だ。木に再び矢が突き刺さったらしい、木が揺れた。数個矢尻が飛び出してきた、私にも解る相手が来たのだ、桜鼠(さくらねず)が戻ってきたのだ。

 一体何本の矢を連射したのか、これでは威力は弓ではない。もはや銃じゃないの!

 恐ろしくなって私は必至に木に身を隠す、少しでもはみ出していたら、そこだけ抉られそうだ。

「破ァ!」

 物凄い重低音の声が、周囲に響き渡る。身を潜めていた鳥達が一斉に飛び立った、それくらいに轟音だった。

 え、今の声だよね?

「破アァァァァァア!」

 再び声が聴こえた、これまた馬鹿みたいに大きい。相変わらず低い声だけれど、質が違うから別人だろう。桜鼠(さくらねず)と戦っている、西軍に違いない。

 深緋(こきひ)は西軍なのだから、味方という認識で良いのだろうか。出来れば接触して、今後どうしたらよいのか、何処かに匿ってくれないか会話したい。こんな物騒な激戦区にいたら、幾ら命があっても足りないだろう。

 シュオンシュオンシュオン……。

 また聴き慣れない音がする、今度はなんだろう。まるでバトル少年アニメの様な音がする、戦闘時に気合を入れて身体の周囲からオーラみたいなのが発生する時の音だ。

「逃がしはしない……今日こそここで決着をつけてやる」

 ズゥン……。

 地響きがした。え、何の地響き?

「くくく、威勢がいいねぇ。アンタのことは気に入っていたんだよ、その悩ましい太ももなんて特にね。それも今日で見納めとは、残念だねぇ」

 ドスゥン……。

 再度地響き、というか、すでに震度4程度の揺れを感知した。

 何の会話だろうか、以前友達に連れて行ってもらったゲイバーで聴いた様な気がする声だけど。

 どっちが桜鼠(さくらねず)の声なの!? っていうか、なんでオネェ系の口調なの!?

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