朽葉5
確かに私は特別だろう、妖怪ではないのだから。けれど、普通の人間だ。
月白は舞うように扇をゆっくりと振る、地面は一定間隔で揺れたままだ。脳が動く、気分が悪くなってきた。眉を顰めて唇を噛み締める、必死に踏ん張っているけれど、今にも倒れそうだ。
「御止めください、うららの気分が」
花緑青が切羽詰った声で叫んでくれた、徐々に揺れは治まったが、私は口元を押さえながら誰かに支えられる。
長い揺れなど体感したことがない、眩暈がする。皆はよく平気だったな。俯いて、大きく深呼吸を繰り返した。船酔いなどしたことはないが、きっとこんな感じだろう。
「すまぬな、うらら。……この通り、すでに隠居生活している身でありながら、以前の様に水脈を揺るがす事が出来る。これは一体何の兆候だろうねぇ」
「月白様、うららを巻き込むおつもりですか?」
「……みょうちき、いえ、うららはワシらとは違う種族。不思議な女子、未知の力は秘めていようが、月白様が自由に出来る者ではないかと」
頭の中で鐘が鳴っている気がした、耳鳴りがしているのだろうか、上手く会話が聴こえてこない。
「必死であるな、二人共。大丈夫、その迷い娘をどうこうするつもりはないぞえ。……興味はあるがの、話はゆっくり聴いてみたいものじゃ」
私には、何の力もない。ただ、ここへ迷い込んだ保育士見習いなだけ。
心でそう呟いた。
「何の力もない? いいや、うららはすでにこの世界の理を大きく動かしておるよ。妖怪五人を手中に収め、この月白ですらも足を運ばせた存在よ。そなたに惹かれるのは何故か? それが最強の魅力にして、力」
心で呟いた筈なのに、返事が来た。あぁ、駄目だ。気持ちが、悪い。
目が覚めると、いつもの場所に寝かされていた。身体中が痛い気がする、頭痛もする。何度か瞬きしたけれど、辛くて再び瞳を閉じた。
私はどうしたのだろう、倒れてからどのくらい経過したのだろう。
「愛しているよ、うらら。君の傍で、君を護る」
あぁ、また誰かの声がする。貴方は一体、誰? 声的に私と同じ位な気がするけれど。でも、よく知っている気もする。可笑しいな、そんな筈はないのに。
「愛しているよ、うらら。力はないけれど君を護りたい」
「餓鬼が何を言う、みょうちきりんは渡さない」
「ひよっこの分際で生意気だ!」
「あぁああ、皆さん落ち着いてくださいっ! 母様はまだ眠っておられますからお静かに」
「そうだコン、そもそも何故ここにいるのだココン? 邪魔だコン!」
……なにこれ騒がしい。眠いけど、寝られない。でも、起きられない。というか、起きたくない。
寝たふりをすることにして、瞳を硬く閉じ大人しくしていた。しかし、目は冴えているので会話は丸聞こえだ。
「うららの愛情に応える」
「な、生意気な! 何が愛情に応える、だ。ワシはみょうちきりんに褌を洗って貰うのだ、そして毎日美味しいご飯を作ってもらって、ありがとうと言って貰いたいのだ」
「陰湿な鴉と愛らしい雀とでは、雀の勝ちだと思いませんか、おっさん」
「おっさん!? そんな言葉何処で覚えたんだ、この発情雀」
……雀? 京紫は一体誰と会話しているの、その声は一体誰なの?
「度が過ぎると思わないかい、幾ら君の成長が早いとはいえ俺達は先輩なのだから少しは言葉を選んで」
「先輩面しないでくださいよ花緑青サン、変態先輩と千歩下がって認めるとしても、変態は変態ですから、オレより格下です」
「変態変態連呼しなくても」
……強気なオレ様キャラだが、それ、一体誰?
「あ、あの、落ち着いて」
「深緋クンは真面目でよい子だね、大丈夫、悪いようにはしないよ」
「え、えと、母様は母様ですよ!? 僕達の母様ですよ!?」
……どうしよう、嫌な予感がする。
「コーン」
「あっははは、蒲公英これからはオレが食料も探すから安心して」
「態度がでかいコン」
……皆が普通に会話しているということは、見知った人物だろう。というか、もう解っている。雀、なのだから。雀といえば、一人しかいない。
「おはよう、うらら。愛しているよ、君が命を呈してオレを助け出してくれたこと、忘れないよ」
目を開いた。
開いた先に、薄茶色の綺麗な髪のイケメンがいた。私と同じ位だろうか、少し垂れ気味の目と、甘ったるい笑みが特徴の男。
その顔が近づいてきたと思ったら、唇に何か柔らかいものが触れる。
きゅ、と押付けられて少し離れて再び触れて。温かいそれが、何度も唇に押付けられた。周囲で悲鳴が上がっているが、私の脳内は真っ白だ。
「愛しているよ、うらら」
「朽葉! お前はっ!」
なんということだろう、私が倒れて伏せっている間にあんなに小さかった朽葉が巨大化して、オレ様になっていた。
あぁ、眩暈が。
一時間時間を間違えていたら、29日に更新出来ませんでした(白目)。
今日また更新します、お読み戴きありがとうございました!




