月白4
変な妖怪達だとは思っていたけれど、今回は”人間的に”変だ。青褪めている顔色がはっきりと解る、それはテスト前だというのに勉強せずに挑んだ時の表情に思えた。
……私にはそう思えた。平たく言えば、失敗した時の顔だ。
「つ、月白様は。見ての通りワシらとは格が違う妖怪だ」
「それは解ってる、詳細を知りたいの」
「しょ、詳細……ワシらには突っ込んで訊かなかったのに」
褌鴉と盗人天狗に特に興味はない、この世界を知る為には彼が重要だ。
京紫と花緑青は顔を見合わせると、深い溜息を同時に吐いた。水分を失って枯れかけている花のように、首が今にも捥げそうな程項垂れている。訳が解らないが、二人を急かして睨みつける。
私からの睨みに身体を微かに震わし、ようやく口を開いたのは花緑青だった。
「月白様は、水を操る事に長けた河童の妖怪だよ。幼い頃から類稀なる妖力を発揮し、西軍の将来を担う戦士として育てられたらしいね。燃えた美しい着物は、母上から贈られたものらしい。見目麗しいお方でもあるから、こぞって皆、様々な物を献上したとか。
現役の頃は、水さえその場にあれば操って東軍に攻撃をしたとか。河や池は勿論の事、地下の水脈さえも。だから、雨の日などは絶好の攻撃日和だったそうだよ。雄でそこまで妖力に恵まれている妖怪も珍しく、重宝されたと聴いているね。
ただ、老いには勝てなかった。だから今は後継者の誕生に力を注いでいらっしゃる。館の奥で、毎日、毎日。
捕らわれの生活、と俺らは見ているけれど、月白様はどうなのだろう」
とにかくとても強い妖怪だということは解った、が、最後が気になる。声のトーンが落ちたのだ、翳った表情をしている二人に首を傾げた。
「そんなに辛いの、後継者の育成って。まぁ、即戦力にする為には厳しく指導しなければならないだろうけれど」
けれど、食べ物には困らない状態であるように思える、優遇されていないだろうか。
私がそう言うと、怪訝に京紫が地面に何やら文字らしきものを書きながら、こちらを見ることなく呟いた。
「育成? 違う、みょうちきりんは何も解っていない」
妙に気になる言い方だ、館の奥で、優秀な妖怪を指導しているのではないのだろうか。
疑問はすぐに解決出来た。
「あぁ、うらら。勘違いをしているようだね、館の奥で後継者を誕生させるべく、毎日毎日雌の相手をしているのだよ。優秀な雌が戦いの合間に館に戻ってきては、月白様と交わる。それの繰り返しさ」
花緑青が淡々と告げたので、私は面食らった。
た、種馬じゃあるまいし!
館の奥で、ただ子作りに励む……というか、子作りさせられている、ってことなのか! 何処までも優秀な妖怪に貪欲な世界だ。
ある意味ハーレムなのだろうか、けれども想像すると気の毒になった。
一人きり、誰とも解らない女性と交わり続けなければならない……男性としてはそれが幸福なのだろうか? いや、そうではないと思いたい。
そして私は不安になる。
「ねぇ、ここへ来ても大丈夫だったの? 館を離れて、無事だったの?」
私のその質問に、二人は答えなかった。
お読みいただきありがとうございました、とっくに完結していなければならないのですが、忙しかったり発熱だったり、とにかく最大の原因は
寒 い
ということなのですが、今月中には完結しますので、気が向いたらまた寄ってください。
あと、ムーンライトのほうにある、完結後の京紫×うららも宜しくお願い致します←




