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月白2

 この世のものとは思えない美しさ、とは彼のことを指すのだろう。実際に、この世のものではないが。何処となく水を連想させる気がした、そんな雰囲気に見えた。水の妖怪、というとすぐに思いつかないが湖の精霊という言葉が似つかわしく思える。声色も、男性のものではあるがかなり高音だ。柔らかく優しい物腰、やはり育ちが違うのだろうか。

 月白(つきしろ)は静かに立ち上がると私のほうを向き、ゆっくりと口の端に笑みを浮かべる。右手に持っていた扇子で口元を多い、細い瞳を更に細くして見つめてくる。

 魔性に魅入られた……その言葉が良く似合う。私は動けずにいた、威圧感さえ感じてしまう。妖怪、と言われたら信じてしまう、そんな肌で感じる不気味さも持ち合わせていた。背後から立ち上る黒いオーラ、それに混じった火の粉、幻覚を見ているのか。

 いや、やはりこの世界の妖怪だった。

月白(つきしろ)様、衣装が燃えています」

「燃えてる」

 立ち上がった際に、長すぎる着物が焚き火に触れたのだろう、黒いオーラは燃えている煙で、火の粉は本当に火の粉だった。物音立てずに燃え広がっているのを、慌てずに見ていた月白(つきしろ)だったが。

「熱い、あぁ、熱い! 干からびてしまう、河童の皿が」

 河童だったのか。……突っ込みたいところはあるのだが、とりあえず人命救助、もとい妖怪命救助をしよう。

 私は悲鳴を上げている月白(つきしろ)の真正面に素早く立ち、腕を二本伸ばす。幾重にも連なっている衣装を適当に脱がす、一体何枚着ているのだろうか、十二単並だ。実際にこの目で見た事はないけれど。

 脱がせた衣装はそのまま焚き火に突っ込んだ、月白(つきしろ)を焚き火から離すように彼を手繰り寄せて、他の衣装に火が移っていないか確認する。

 大丈夫だ、燃え移ってはいない。

 燃え盛る美しい着物を横目に、月白(つきしろ)は私を見てきた。

「……あの着物、気に入っていたのに」

「命とどちらが大事なの? このまま身体ごと燃えても良かった?」

「母様が与えてくださった着物でしたので、唯一無二な大事なもの」

 それは悪いことをした、だがそれならもっと注意深く周囲に気を配ってほしい。どうにもここの妖怪達は、行動が抜けているというか謎だ。

「うらら。……ソチは私達が知っている雌とは違うようだ」

「でしょうね、妖怪ではないので」

「話は二人から聴いた、雀の子を拾ったとか? 右も左も解らないソチが、貧弱な子を救えるとでも? 放棄せずに育てられるのか、見せていただこうか」

「右も左も解らないけれど、救えるかもしれない命をそのまま見過ごすことなど、私には出来ないの。貴方でしょう? それに京紫(きょうむらさき)花緑青(はなろくしょう)を救ったらしい貴方があの場に居合わせても、同じ事をしたでしょう?」

「ソチと私では立ち位置が違う、私には未熟で哀れな子等を救うだけの経済力も名声もあった」

「最初から出来ないと決め付けて放棄するのは、嫌なの。文句は言わせない、私はこの子を助けて見せる。……貴方が力を貸してくれたら、実現させやすいでしょうね」

 私の敵なのか、味方なのか。やはりこの月白(つきしろ)も、朽葉(くちば)を育てることに反対なのだろうか?

 燃え盛る焚き火の炎を背に、月白(つきしろ)は扇子を広げたまま私を見ていた。今嘲笑したのだろうか、そんな気がした。瞳が、小馬鹿にした様子で私を見ている。

 少しだけ、沈黙があった。

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