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月白1

 親は、我が子を全力で護るものだと思っていた。動物だって、そうしている。懸命に我が子を育てているではないか、種の保存、という遺伝子に組み込まれたものがあるといえども。この世界は違うというのだろうか。

 私が何も言えずにいると、蒲公英(たんぽぽ)が私のエプロンを引っ張る。

「あちきの母様は、あちきの能力に期待していたのですコン。だから、一緒にいることが出来たのですココン。妖狐は戦闘能力が高い一族なので、なるべくなら猛者を選出したいコン。ですが、やはり出来損ないは出来損ない……東軍の敷地にて置き去りにされたココン。命からがら陽の傾きを見つめ、森の中を駆け回って、どうにか西軍に戻ってきたコン。けれど憾んではいないコン、当然なのですココン」

 京紫(きょうむらさき)も何か言いたそうに口を広げていたが、見つめると視線を逸らしてしまった。辛いことがあったのだろう、訊くことなど私には出来ない。

「戦闘能力が高いのは雌ですから、僕達雄は産まれてすぐに選別されます。能力が高ければ、将来を約束されます。基本、優秀な子孫を残す為に交尾が出来る雄も限られます。無力な雄と交わったところで、産まれる子は貧弱。なるべく負担をかけずに、優秀な子を産みたい雌ばかりですから。出産、という期間がありますからね。その間はやはり戦うことが困難ですし。戦闘を休み、産まれた子が皆低能力な子ばかりですと、発狂する雌もいると聴きます」

 どういう世界だ。

 確かに現実問題として、優秀な男の精子を高額支払って買い取り、人工授精し子供を産むとかいう馬鹿げたこともある。腹を痛めて産んだ我が子なのに、捨てる母親もいる。

 私のいた世界も散々だ、この世界を非難することは出来ないのかもしれないが、私は間違っていると思う。

 人間関係が煩わしい、男に縛られたくない、しかし子供は欲しい。どうせなら何かに秀でた優秀な子を残したい……いつから、子供は自分の自己満足になってしまったのだろう。

 愛する二人がいて、愛する我が子が自然に産まれて、苦労しながらも育てていくのが普通なのではなかったのか。それがずっと続いていくものではないのか。

 何処の世界も、同じなのだろうか。けれども、皆が皆、そうではない。誰かがおかしいと思っている限り、変えることは出来ると思う。この世界とて、きっとそうだ。母親全員が、ゴミを捨てるように我が子を捨てているとは思いたくない。

 理由はどうであれ、深緋(こきひ)蒲公英(たんぽぽ)には母親と過ごした時間がある。本当に我が子の能力に期待して一緒にいたのだろうか? 違う、違うと願う。

 大事だったから、連れていたのだと願う。

「ワシはすぐに捨てられたから母など知らぬ、飛ぶことしか出来ないのでは、何の役にも立てぬよ。それを見抜いた母は、生粋の戦士だったろう」

 京紫(きょうむらさき)が微かに語尾に笑いを篭めて、そう呟いた。

 沈黙が訪れる、苦しい。

 雌のほうが、戦闘能力が高い世界。より優秀な子を残す為に雄を求めて、子孫を残していく。西軍・東軍、戦い続ける限りそれは覆らない。

 生きていく為に、必要最低限の妖怪しかいないので、布や食料も手に入り難いだろう。戦闘に力を注ぐのなら尚更だ、誰が米を作っているのか。生き延びた弱き者達が、血路を開いたのだろうか。

 とりあえず、間違っている気がする! 力が全ての世界とはいえ、傷ついたものを治療したりする妖怪だって必要だろう。それは能力と関係ないのではないか。

 焚き火の中で、木が爆ぜた。周囲が暗くなる、私達の気分と同じ様に。

 暗くなると飛び難い、と京紫(きょうむらさき)が呟き、焚き火の前に寝転がる。どうやらここで眠っていくらしい、私達も欠伸をすると眠ることにした。

 眠いのだが、目が覚めてしまっている。身体は休息を望むのに、脳が起きている。

 そもそも不毛な争いだ、最終目的が何かさっぱり判らない。互いを支配したいのなら、話し合いでどうにかならないものなのか。争いがなければ、産まれてくる全ての子は死ぬことなどないのではないか。

 美しい星空、大きな満月、澄んだ空気。こんなにも綺麗な世界なのに、妖怪達の環境は酷く残酷だ。

 いつしか私も眠りに入っていた、深く落ちていく。

 ねぇ、戦乙女様とやら。どうして妖怪達を置いていってしまったの? 哀れな彼らに救いの手を。

 翌朝、眩しくて痛い陽の光で目が覚めると来客がいた。焚き火を囲んで、男が三人暖を取っている。

 京紫(きょうむらさき)花緑青(はなろくしょう)、そして見知らぬ妖怪。しかし、検討はついていた。昨日京紫(きょうむらさき)が呟いていた名の人なのだろう。

 月白(つきしろ)、と言っていた気がする。

 水色の流れるようなウェーブの髪、とても長いが痛んだ様子など見当たらない。一見女性にも見える、雅な刺繍をほどこした着物を身に纏っているのだから。明らかに他の皆と比べると身分が上だろう、衣服で違いが明確になる。

 爪などはみ出ている部分などなく、鮮やかな深紅に塗られている。彼は私を見て微笑んだ、本当に美しい人だった。女性でも出せないような、艶と色香だ。

「ソチが……異界から来たらしい、手首に紋章を持たない雌うらら。初めまして、私は月白(つきしろ)


お読みいただきありがとうございました!


ムーンライトにて、年齢制限がありますが17日0時に京紫×うららが解禁になります。

ねたばれをしていますが、気になる方は足を運んでくださいませ。

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