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深緋4

「そのようなこと、考えた事がなかった」

 ぼそぼそと呟く京紫(きょうむらさき)を見つめた、考え方の違いだろう。地球にだって民族は多々ある、皆それぞれ独自の価値観を持っている。初めて触れた異国の文化に戸惑うことは、別に間違いではないと思う。

「……母様のいた場所は、どのようなところだったのですか? 僕、知りたいです」

「あちきも、知りたいですコン」

「ふむ、ワシも興味がある」

「うん、確かに気になるかな」

 おにぎりを食べながら、私に視線が集中した。……どうと言われても日本ならばごくごく平凡な家庭に産まれた、何の変哲もないただの女子大生だ。上手く話すことが出来るのか不安だが、注がれる視線に多少恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じながら口を開いた。

 性別は知らされていたので、名前はもう決まっていた。病院で産まれ、初孫の為親戚中から豪勢な出産祝いが届けられ、両親の友人達も次々に祝いの言葉をくれた。一人娘なので両親の愛情を一心に受け、親馬鹿かもしれないが家にあるアルバムは夥しい量である。

 と、そこまで話したところで全員口を開いて唖然としている。私は変なことを言っただろうか?

「母様は、優秀な御子だったのですね」

「そうですコン、恐らく世界を揺るがす実力を所持しているのですココン」

「ふむ、ただのみょうちきりんではなかったのか」

「……おにぎりの女神は、世界の女神だったのだね」

 いえ、日本では恐らく一般的です。

 花緑青(はなろくしょう)はおにぎりを食べ終えると立ち上がった、そのままふわりと宙に浮かんで飛んでいく。何も言わずに、去っていった。

 しまった、『ごちそうさまでした』を言わせることを忘れていた。

「母様は、素晴らしいお方です。考え方がまるで僕達と違うのですね……いいな、母様」

「大丈夫深緋(こきひ)、あなたのお母さんもきっと一生懸命捜してくれているからね」

 寂しそうに呟いた深緋(こきひ)の頭を撫でながらそう言ったけれど、泣きそうな笑みを浮かべて首を横に振り否定する。少しの沈黙、聞きたくなかったけれど、聞かねばならないとは思っていた。嫌な予感は的中した。

「違います、母様。ごめんなさい、嘘をついていました。僕は、本当の母様とはぐれたのではありません、捨てられたのです」

「あちきも、ですコン。捨てられたのですココン。迎えなど、来ないコン」

「……ワシは母親など見たこともない、運が良いのか悪いのか、通りすがりの月白(つきしろ)に拾われた」

 絶句するしかない、まさか全員捨てられたと? ひょっとして、花緑青(はなろくしょう)も? 

 母親の愛を知らない、妖怪達。朽葉(くちば)に冷たい言葉をかけたのは、それが当然の世界だからか、自分達もそうして捨てられたからなのか。でも、捨てられたけれどみんなは大きくなった、ならば逆に朽葉(くちば)を助けようと手を伸ばせばよかったのに。

 何も言えずに俯いていると、深緋(こきひ)が私の手に触れた。ふにゅっとした肉球が、冷たい。

「この世界は、強き者しか生きる資格がありません。それ以外は不要なのです、戦えなければ意味がない。ならば産まれてすぐに死ぬべきなのです。

 僕の母様は、俊敏な動きが評価され密偵をやっていました。珍しい母様で、能力が低い僕を一生懸命偵察の傍らで育ててくれました。後継者が欲しかったのかもしれませんし、一人きりでの極秘任務で寂しかったのかもしれません。もしかしたら能力が開花するかもと、期待をしてくださっていたのかもしれません。

 ですが、ある日……敵の動きを探っていた僕達に気付いた東軍が先手を打ってきました。辛うじて九死に一生を得ましたが、足手纏いの僕と共に行動すると自分が危機に晒されると気付いたのでしょう。

 僕は、ここに置き去りにされました。

 あの、鳥居の奥の大木で待っているようにと伝えられ、空から降ってくる木の葉を見上げていました。緑の葉が、徐々に黄色くなって、茶色になって、葉が無くなって。葉っぱの代わりに白い雪が木に積もって、お花みたいになりました。ふわふわと降り注ぐ雪を見ていたら、やがて雪が溶けて木から再び緑の葉っぱが出てきました。

 ……それを、三回ほど僕は見ました」


お読み戴きありがとうございました★

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