京紫5
特に下半身を気にせずに、私の言葉も無視してそのまま立ち去った京紫の姿を見送る。
顔は良いのに、本当に勿体無い。未だにひらひらとはためいているその衣服から、すらりと伸びた足と太腿、そして……時折お尻が見えた。
「変な人」
呟いた私の下で、まだ深緋と蒲公英は震えていた。何か隠し事をしているのだろうか、酷く怯えているようにも見えた。
だが、この子達が言い難いことならば無理に聞き出したくはない。私は二人の頭を撫でると、肩を叩く。背中を擦って大丈夫だよ、と囁いた。
「母様」
「……コン」
沈んだままの二人を励ますように、思い切り胸で抱きしめる。一瞬驚いたように身体を引きつらせた二人だが、すぐに身を委ねてくれた。両腕に抱きながら、背中を精一杯撫でる。
「よし、何をする? 私としては食料を確保しておきたいかな」
努めて明るい声を出した、二人に微笑んで頬を摺り寄せる。くすぐったそうに身をよじっていたが、二人は瞳をようやく輝かせ、笑みを浮かべてくれた。
「森に行きましょうコン、探検ですココン!」
上手く話が逸れた、とばかり、多少違和感ある発音で蒲公英が私を見上げる。深緋も私の腕を引っ張って、森へと連れて行こうとした。
服がないので寒い、歩き回れば温かくなるかとも思ったが、焚き火から離れるとやはり寒かった。駄目だ、我慢できない寒さだ。
思わず「寒い」と口にすると、二人が心配そうに見つめてくる。腕を擦って温めようとするが、そもそも真夏でもないのにこの格好は無理だ。
京紫がなんとかしてくれると良いなと、軽く期待しつつ待つしかないのだろうか。いや、当てにならないから他の物で代用するべきだろうか。せめて新聞があればよかったのに、あれは包まると結構温かい。もしくは災害袋に入っているような、軽いアルミの大きなシートでもあれば暖がとれただろうに。
まぁ、普通そんなものは持ち歩かないから、あるわけがない。
「母様、僕達が行ってきます。焚き火の前でお待ちください」
「そうですコン、あちきは頑張りますココン」
二人の幼子の言葉に甘えて良いのだろうか、でも、どうせなら一緒に歩きたい。この場所の把握もそろそろしておきたいし。
しかし、人間の私はそうそ出歩かないほうが良いのだろうか? 今のところ西軍にしか出会っていないが、東軍の妖怪に出くわした場合どうなるのだろう。戦いが始まるのだろうか、こんな幼子達でも?
私は眉間に皺を寄せて考えていた、どうするべきなのか。寒空の下、腰に布を巻きつつの裸エプロン姿という先程の京紫に匹敵するかもしれない、変態的な格好で。
こんな格好では、真面目に思案してもただの痴女な気がする。
と。
「あぁ、ごめんね。珍しかったからさ、売り払おうと思って貰っちゃったんだよ。でも、探していたんだってね、返す」
目の前に、まるでわたあめみたいなふわふわの銀髪を揺らしながら、男が下りてきた。朱色の背中にある羽をばっさばっさと動かしながら、首からひょうたんを提げている屈託ない表情の男が差し出してきたもの、それは。
「私の服!」
「京紫に返して来いって言われたから。危なかったよ、もう少しで手を離れるトコだった。ごめんごめん、あははははは」
丸くて大きい金の瞳はあどけない表情を作り出す、細身で翼が生えたその男……若緑色した衣服を身にまとって、にっこり微笑んでいる。
「花緑青っていうんだ、よろしくね。おっと、君の名は聞いたよ。”みょうちきりん・雌・うらら”、みめう……って呼べばいいって」
違います、私は入野うららです。