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京紫4

 妖怪戦国大戦争の世界に飛ばされたのだと思っていた、けれども何か様子がおかしい気がする。沈黙が続く、風が森の木々を揺らしながら駆け抜けていく。木の葉が触れ合う音をただ、私は聞いているしかなかった。 

 京紫(きょうむらさき)の言い方が気になる、二人は母と逸れたのではなかったのか。深緋(こきひ)蒲公英(たんぽぽ)を交互に見下ろすと、気落ちしているように見える。微かに震えながら私の脚にしがみついていた、どうしたというのだろう。

京紫(きょうむらさき)、褌燃やしてしまってごめんなさい。あと、おにぎりありがとう。詳しいことは私には解らないけれど、でも、なんとかこの子達と私は一緒にいるつもり。この子達の母親が迎えに来るまで、一緒にいようと思って」

 意を決して言葉を挟んだ私に、京紫(きょうむらさき)は一瞬目を開いたが、すぐに瞳を細める。そして初めて笑った、小馬鹿にした様子で笑った。

「迎えに来るまで一緒に? ……みょうちきりんは面白いことを言う、迎えになど来ないよ、永久的に猫又と妖狐と共に過ごす覚悟かい」

「戻って来ないなんて、酷い! そんなの解らないでしょう」

 声を荒げて反論する、だが、喉の奥で低く笑う京紫(きょうむらさき)は、私から視線を逸らし、何処か遠くを見て再度言い放つ。

「来るわけないだろう、逸れたのではないのだから」

 この男は何を知っているのだろう、何故断言出来るのだろう。深緋(こきひ)蒲公英(たんぽぽ)を前から知っているのだろうか? いや、面識はなさそうだった。

「それってどういう意味」

 自分の声が微かに掠れていた、それは、下で私に捕まっている二人が震えていたから。反論しないということは、それが真実なのだろうか。思わず、二人の肩を抱いていた。

「何も知らないみょうちきりん、変な雌」

「だから、さっき深緋(こきひ)が言っていたでしょう!? 私は西軍でも東軍でもないの、貴方達とは根本的に違うのよ。妖怪じゃないし、みょうちきりんかもしれないけど、名前はあるんだってば」

 いい加減”みょうちきりん”と呼ばれることに苛々してきた、声を荒げると、京紫(きょうむらさき)が軽く溜息を吐いてぞっとするような視線を投げかけてくる。思わず、身を縮ませる。

「みょうちきりん・雌・うらら」

「勝手に変な名前に変更しないで、入野うららっていうの」

「……み・め・う?」

「頭文字だけとっても駄目、普通にうららでいいでしょう」

「好みでない雌の名を呼んだところで……。名前とは、親が授けてくれる最初の贈り物だ、安易に他人が呼んでよいものではない。篭められた名前には意味がある、名とはその存在を肯定し、生きる為に所持すべきもの」

 確かに、名前は重要だ。名を知らない相手を呼び止めることは大変だし、会話も名前を知っていたほうが何もかもスムーズに進む。だから初対面の人には名を名乗るのだ、互いを知る為に、会話をする為に。親は、我が子の幸せを願い賢明に考えて、一つの名を子に与え。子は、愛情ある親からの素敵な名前で生涯過ごす。

 私はうらら、常に晴れ晴れとして楽しく生きられるようにと名付けられた。誰に対しても心にわだかまりがなく、おっとりして周囲を和ませられるように、と。麗と漢字表記にしなかったのは、子供では難しい感じだったからだと教えて貰った。

 まぁ、そんな人物に育ったかは謎だが気にしない。

「親から名を貰えた子が、どれだけ幸福かなど……みょうちきりんには理解出来まい」

 京紫(きょうむらさき)のその一声に、私が抱いていた小さな肩二つが、びくり、と引き攣った。

 ……親から名を貰えた子? 貰えなかった子、というのは捨て子ということ? それとも産まれることが出来なかった子、ということ?

 それだけ言うと、京紫(きょうむらさき)はふわり、と長い衣服を風にまわせて宙に浮かび、背を向けて何処かへと飛んでいく。

 風が物悲しそうな音を立てて強めに流れていく、軽く振り返った京紫(きょうむらさき)の視線は明らかに私を蔑んでいた。文字通り見下されている、地上の私と宙の京紫(きょうむらさき)は一瞬睨み合った。

「……盗まれた衣服に心当たりがある、一応返すよう伝えておこう」

 悪い奴なのか、良い奴なのか解らないが、ただ一つ言える事は。

 私は意を決して視線を地面に落としつつ、皮肉を篭めて叫んでみた。

「あの。丸見えですよ」

 褌を装着していない彼の下半身は、風にあおられてワンピースが盛大に浮かび上がっており、露出されていた。

 そう、ただ一つ言えることは彼が変態以外の何者でもない、ということだけだ。

「無愛想変態痴漢京紫(きょうむらさき)さん、おにぎり……ありがとうございました。服は期待せずに待ってます」

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