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京紫3

 未だに離れない三人に、身動きがとれず、じっとしている。あちらこちらくすぐったいが、どうにかならないものか。吐息だけではない、尻尾が、もふもふ耳と尻尾がさわさわと肌に触れてくる。裸エプロンだし、ほぼ。

 空は晴天、不可解なことが多々起こり過ぎて私も疲れてきた。せっかく朝、温泉に入って癒したというのにプラマイゼロの勢いだ。

「それにしてもみょうちきりん、無様な服装だ」

 ぼそ、京紫(きょうむらさき)と呟いたので、ムッとして言い返す。

「私の着ていた服がなくなりました、だから服が欲しかったの」

「こんな……みょうちきりんが着ていた服など……誰も欲しがらないだろうから、自分で歩きながら脱ぎ捨てていたのではないかい?」

 そんなわけあるか。

 ギリリ、と歯軋りして睨みつける。綺麗な漆黒の瞳と視線が交差した、変な男だがイケメンだ、裸エプロンの自分は確かに恥ずかしいので身じろぎして胸を隠す。横から胸が見えてしまう、今更だが穴があったら入りたい。

「こんな……貧相な身体。欲情すら出来ないが本当に雌なのか」

 思わず私は、右手を勢いよく下から突き上げた。京紫(きょうむらさき)の顎にヒットした私の渾身の一撃に、ぐらりとその身体が倒れていく。思ったより軽い身体だったようで、女の私でも倒す事ができた。

 勝利。

 ふらぁ、と倒れていったその身体が、焚き火の真上辺りで停止し、そのまま上へと戻ってくる。脅威の腹筋だ、少し気持ち悪い。

「危ない……流石に火の上に倒れてはただでは済まない。凶暴みょうちきりん雌に殺されるところだった」

 真顔でそう言うと、再び近づいてくる。反射的に身構え、何時でもストレートパンチを出すことが出来るように体勢を整えた。

「けれど、確かに匂いは……良いかも」

 言動は変だけれど、見た目が良いので絆されそうになった、あと、今気付いたけれどイケボなので間近で呟かれると動揺する。イケメン&イケボの威力は高かったということが判明した、世の中そんなものだろうか。

 それにしても、良い匂いと言われても心当たりがない。今朝温泉に十分浸かっていただけで、特に香水もつけていない。何より深緋(こきひ)蒲公英(たんぽぽ)は、私が温泉に入る前から良い香りがすると言っている。

 まさか、私が妖怪ではなく人間だからだろうか? 食料と間違えられていないだろうか。

「母様は……西軍でも東軍でもありません。不思議なお方なのです」

「それは知っているコン、あちき達とは違うココン」

「見れば解る、こんなみょうちきりん……西軍にはおらぬよ」

 人間だもの。他に人間がいるのかどうか、それすら分からない。けれど、私が異質であることは間違いない。匂いが違うのなら、きっとそのせいだろう。

「猫又、妖狐。ここでこのみょうちきりんと暮らしているのか? 辛くはないのか」

 辛いも何も、つい最近出会ったばかりだ。無言の二人に、京紫(きょうむらさき)が瞳を細めつつ変わらず感情の含まれていない、無機質な声で言う。

「所詮ワシらは逸れ者……頑張るが良い。ここで何を待つ? 生きたいと願うならば、ここに居ってはならぬよ」

 話が妙な展開になってきた気がするのは、私だけだろうか。押し黙った二人を見つめると、なんだかとても悲しそうな瞳をしている。今にも泣き出しそうな、迷子。

「八咫烏の京紫(きょうむらさき)、生活に不自由なくはないが……多少の助言は出来る。運命に逆らってみるならばそれも良し、どのみちここにいる時点で抗っているのだな」

 何の話? 運命? 抗う? ただの迷子の二人ではないのだろうか、私は間違えているのだろうか。

 三人の雰囲気は重苦しい、狼狽している私を取り囲んで押し黙ったままだ。

「……母様と居てみたいって思ったのです」

 ぽつりと呟いた深緋(こきひ)に、諦めたような溜息を吐く京紫(きょうむらさき)、そして唇を噛んだ蒲公英(たんぽぽ)

「それでも僕は母様と居たいって!」

「猫又よ、そなたの母は……いや、”ワシ”らの母は」

 雲行きが怪しくなってきた。

お読み戴きありがとうございました・・・。

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