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京紫1

 褌は服なのだろうか? 確かに身につけるものだが、私はこれを着用するべきなのだろうか。……いや、おかしい!

 引き裂いて焚き火に放り投げようとも思ったが、何かに使えるかもしれない。いくらなんでも使用済みなどということはないだろうから、雑巾代わりに使ってしまおう。この世界では物資が簡単に手に入らないのだ、どんなものでも貴重である。大事に扱おう。

 しかし、何故褌。どうして褌。

 怒りで腕が震えているのは気のせいだ、多分。

「母様、その褌身につけられるのですか?」

「つ・け・ま・せ・ん!」

 深緋(こきひ)に悪気はないのだろうが、思わず語尾が強まってしまう。褌か、今腰に巻いているこの布かどちらか選べと訊かれたら、私は迷わずこの布を選ぶ。だから、褌は身につけない!

「もう、どうして褌が出てくるの? 服が欲しいってあれほど言ったのに」

「君が受け取りに失敗して燃やしてしまうからだよ、そうそう服なんて持っていないからね」

「焚き火の上に落ちてくるなんて思わないでしょう? ……ってどちら様?」

 普通に会話していたのだが、聴きなれない声だった。深緋(こきひ)蒲公英(たんぽぽ)の幼い声ではなく、もっと低くて大人の男の声だった。

 振り返って小さく悲鳴を上げる、真っ黒の短髪で、左目が前髪で隠れている細身の男が立っていた。着用しているものも全て真っ黒だ、踝まである黒のロングワンピースみたいなものを着ている。腰に、縄を結んでいる。瞳は細くて黒い、唯一耳のピアス? らしきものが黄色だけれど。美形は好みではないけれど、長身だしかっこいい部類に入るのだろうな。興味ないけれど。

 二人が慌てて私に駆け寄り、その背に隠れて脚にしがみついて来る。敵だろうか、味方だろうか。唇を噛み締め、精一杯威嚇してみた。鋭く睨みつけていると、目の前の男は周囲を見渡し一言。

「火がさ。煙が立ち昇っているから……目立つ。居場所を知らせているようなものだよ」

 焚き火を指差し、少しスローテンポで語るその男。感情が上手く読み取る事が出来ないけれど、本当に敵なのか味方なのか。今の言葉は、私達に忠告してくれたものなのだろうか。

 無表情なので、意図が解らない。私は用心しつつ、二人を背に庇いながら冷静さを装って話し掛けた。

「敵なの、味方なの? 西軍? 東軍? あなた誰?」

「……敵でも味方でもない、けれど。西軍だよ。驚いたよ、まさか子二人と共に暮らしている雌がいるなんて。おまけに猫又と妖狐ときたものだ。あ、ワシは京紫(きょうむらさき)という。あなた、ではない」

 西軍、と聞いて安堵した。大袈裟に肩の荷を下ろしてしまった、身体中から力が抜けていく。緊張していたのは確かだ。

「おにぎりは、美味しかったかい? ワシの食事だった」

 ……思わず耳を疑った、目を丸くしてこの男を見つめる。そんな様子を気にせず、語り続ける。

「服も……新しく市で購入したものだったのに。まさか燃やしてしまうなんて」

 まさか。先程から焚き火の真上に物品を落としていたのは、この人だったのだろうか! 私の特殊能力なのではなく、恵んでくれていたのだろうか。

 もしかして、良い人なのだろうか?

「服が欲しい、と言うから。買ってきたばかりの服を投げてあげた、そうしたら燃えていた。哀しかったよ」

 悪気はない、受け取る事が出来なくてごめんなさい。

「また服が欲しいというから、羽織っていた衣服を投げたよ、そうしたらまた、燃えてしまった。正直、哀しかったよ」

 ごめんなさい、申し訳ないです。

「またまた服が欲しいというから、何か投げなくてはと思って。けれど何も持っていなかったから、褌を」

 ……聞き終わる前に、私は手にしていた褌を焚き火に投げ込んだ。

「あぁ、ワシの褌を燃やしてしまうなんて」

 当たり前だ、着用済みの褌を掴んで今の今まで持っていた私はどうしたら良いのだろう。脱ぎたての褌だなんて! そういえば、若干温かかったような気さえして来る。

 思わず、この男・京紫(きょうむらさき)の下半身に目が行ってしまった。今まで着用していた褌……ゴクリ。


お読みいただきありがとうございました、二日間更新が出来なかったので、連続投稿する予定です。


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