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蒲公英6

 焚き火にあたっている、あったかい。

 落下してきた物のおかげで火は勢いを増したままだ、一体何が降ってきたのだろう。気になるが、流石に手を火に突っ込んでまでそれを救出する度胸はなかった。

「あの、母様。もう一度願ってみたらどうですか?」

 深緋(こきひ)がそう言うので、私は躊躇いがちに再度言ってみる。

「服が欲しい」

 言ってから、焚き火の上に落下してくる何かを落下しようと腕を伸ばす。焚き火の熱が熱くない場所で、真剣に受け止めようと構えた。

 だが、数分経過しても落下物はない。

 腕が痺れてきたので、しかめっ面で私は深い溜息を吐いた。

 ”欲しいものを出現させられる能力(焚き火の上に)”など、やはり存在しなかったのだ。諦めて腕を下ろすと、地面に座り込む。

 と。

 ヒュー、ボテン。

 三人で悲鳴を上げる、再び何かが落下してきて焚き火の中に吸い込まれていった。灰を巻き上げ、火の粉を散らし、焚き火が再び火力を増す。

「母様、焚き火以外の場所に出現させましょうよ」

「そうですコン、これでは何度やっても同じ結果になるココン」

 私だってそうしたい、出来るならば焚き火以外の場所に落としたい。だが、やり方がわからないのだ。そもそもこれは、本当に私の能力なのだろうか。

 口に願いを出してから落下してくるまでの時間差は、一体何を意味するのだろう。解らない。

 私はリュックをおもむろに片手で持つと、力任せに振り回す。落下してきたものを、このリュックで弾いて焚き火の上から飛ばす作戦だ。

「服が欲しい」

 三度目の正直になりますように、と願いをこめて呟く。リュックを振り回しながら静かに焚き火の上を見つめる私。緊張した面持ちで二人が私と焚き火、そして振り回されるリュックを真剣に見つめていた。

 数分後、やはり時間差があって何かが落下してくる。

「せぇーい!」

 思い切りリュックを振り、落下物と接触させる。見よ、この華麗なるスイング。

 ボトリ。

 焚き火の火が、新たな燃料を得て舞い上がった。落下物とリュックは、掠りもしなかったのだ。

 ……悔しい。

 拍手の用意をしていた二人の顔が、急にしょぼん、と下を向く。悲しませてしまったようだ、期待していたのだろう。

「……服が欲しい」

 自暴自棄になりつつ、再度願う。リュックを振り回す、腕が疲れてきたが、次こそ決める。何が何でも落下物を受け取ってみせる。

 やはり数分して、目の前に落下してきたそれ。今度こそ、とリュックを鬼のような形相で振った私。

「母様、怖いです」

「お顔が、般若のようになっているコン」

 外野五月蝿い、私は今物凄く神経を集中していたのだ。

 確実に何か手ごたえを感じた私は、思わず地面を見つめる。

 焚き火から少し離れたところに、何かが落ちていた。成功したのだ。

 やった!

「やりましたね、母様! 感動しました!」

「お見事ですココン!」

 二人がようやく拍手をしてくれた、待たせて悪かった。

 私は少し得意げにリュックをゆっくり地面に下ろすと、捕らえた獲物に近づいた。さぁ、何だろうか。

 近づき、足元に転がっているそれを摘み上げて瞳を細める。

 布で間違いないのだが、服、ではない。なんだ、これは。

 真っ白い布に見える、両手で摘んで広げてみた。

 なにやら不思議な形をしていた、何処かで見たような気もする。

 幽霊が頭につけている三角で白の例のアレ? いや、違う。もっと大きいものだ。妖怪で言うとイッタンモメンのような……細い紐の中央に、幅広い布地が長く伸びているもの。

 蒲公英(たんぽぽ)ががさごそと腰紐を解いて下半身を覗き見つつ、私が手にしている布と見比べている様子が視界に入った。

 まさか。私もなんとなく想像がついてしまった、多分アレだ。初めて実物は見たけれど、アレしかない。想像通りの単語を、蒲公英(たんぽぽ)が口にする。

「それ、褌ですコン」

 ……やはり。これを一体どうしろと。

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