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明日天気になったなら  作者: 桃 春花
第四部 たくらみの宴
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 室内を見回した目が私の姿を見つけ、ほっと安堵に弛んだのもつかの間。

 次の瞬間には、すぐそばに立つデイルへと敵意に満ちた視線が向けられた。

「きさまが首領かっ!」

 おそろしい勢いで突進してきたアークさんは、大きな手でデイルの胸ぐらを掴み上げた。

「なっ、何しやがる!」

「よくもティトシェ様に手を出してくれたな! 何が狙いだ!?」

「ねっ、狙いって、こいつには何も……」

「王家の姫に手を出してただで済むと思うなよ! その首がいつまでくっついていられるか、せいぜい祈ってろ!」

「な、ちょ、待てって……く、苦しいってばっ」

「若!」

「てめえ、若を放しやがれ!」

 私の時には見守りと応援に徹していた手下たちが、いっせいに殺気立ってアークさんに襲いかかろうとした。彼らの手がかかる寸前にアークさんはデイルから手を放し、手下たちの方へ蹴り飛ばす。吹っ飛んだデイルをあわてて手下たちが受け止める。その隙にアークさんは私をさらうように抱き寄せて、彼らから距離を取り腰の剣に手をかけた。

「アークさん、待って」

 私は彼の腕に手をかけて止めようとしたが、びくともしない。丸太を相手にしているみたいだ。アークさんはどう猛な目でデイルたちをにらんでいる。にらまれた方も応戦体勢になり、各々懐から武器を取り出して構えた。

 これは、まずい。流血沙汰になったのでは、ごめんではすまされない。

 まずはアークさんを落ち着かせないと。頭に血が上って私の言葉すら聞いてくれないが、噛みついてでも止めなければいけない。私は身をよじってアークさんの腕から離れようとした。そうしたらますますきつく抱きしめられて、苦しい以上に痛い。背骨が折れそうだ。本当に逆上しているんだ。誰か頭から水でもぶっかけてくれないかな。私ごとでかまわないからやってほしい。

 エリーシャさんに頼もうかと視線をめぐらせたが、幸いにしてその必要はなかった。一触即発の火花を散らしながら睨み合う男たちの間に、勇敢にも割って入った人があったのだ。

「待ちなさい。みんな、ちょっと落ち着きなさい」

 恐れげもなくすたすたと部屋の中へ歩いてきて、両者の間に立ちふさがる。眼鏡の奥の優しげな目が、アークさんをたしなめた。

「君も、そういきり立たないで。まずは事情を聞いてからだよ。物騒なものから手を放しなさい」

「チャリス先生!」

 驚いた声を上げたのはエリーシャさんだった。

「やあ、エリーシャ」

「どうして先生が」

「ああ、うん」

 チャリス先生は眼鏡を直しながら苦笑した。

「往診の帰りに彼と行き会ってね。お嬢様が誘拐されたって騒いでいるから周りの人に事情を聞いてみたら、君たちの問題に巻き込まれたらしいとわかってね。それでここまで案内してきたんだ」

 私がなかなか戻ってこないから、心配になって探しに来たのだろうか。馬車はどうしたのかな。いろいろ本当にごめんなさい。でも悪いのはデイルですから。

 私はアークさんの腕をそっと叩く。ようやく彼は少し冷静を取り戻し、力をゆるめてくれた。ひとまず剣からも手を放す。

「君としてはさぞ心配だったろうが、ここの人たちはけっしてお嬢様に危害を加えたりしないよ。そういう悪辣な無法者とは別だから、とにかくまず話を聞きなさい」

「しかし、それならばなぜさらうような真似をしたのか」

「あー……うん、それは……エリーシャ?」

「え、あたしですか!?」

 話を振られてエリーシャさんはあわてた。

「君から説明するのがいいんじゃないかと……」

「ええー、でもあたしだって被害者ですし」

 当事者だからこそ言いたくない、という気持ちもあるだろうな。エリーシャさんの立場になって考えてみれば、ここで事情を説明するのは気が進まないだろう。なので私からアークさんに説明した。

「心配かけてごめんなさい。形はまるきり拉致誘拐でしたけど、内実はお馬鹿息子のトンチンカンなプロポーズ大作戦で」

「おいこら」

「わかると思いますけど、今吠えたのがそのお馬鹿息子。で、あちらのエリーシャさんに絶賛片想い中」

 アークさんの目がデイルからエリーシャさんに向けられる。怪訝そうな表情に、エリーシャさんも気まずい顔で目をそらす。

「まともな手段じゃ相手にしてもらえないものだから、手下を使って強引に連れてきたんです。その場に私が居合わせたものだから、いっしょくたにつかまったという次第でして」

「それはつまり、嫌がる婦女子を無理やり連れ込んで手籠めにしようとした、卑劣漢ということでは」

「そうとも言えますね」

「言わねーよ! てめえ、説明するふりしてわざと煽ってるだろ! そりゃあ無理強いしたのは認めるがな、手籠めになんぞするか! 俺はこれでも本気でこいつに惚れてんだっ。惚れた女に無体はしねえっ」

「だ、そうです」

 私が顔を向けたのはエリーシャさんだった。彼女はため息をつき、うんざりした顔ながらうなずいた。

「わかってる。馬鹿だけど、そういう類の馬鹿じゃないのは知ってるわ。子供の頃からの付き合いだもの」

 おや。ふたりは幼馴染だったのか。

「エリーシャ……」

「だからってあんたと結婚なんてしないわよ。ええと、まあそういうことでして……ご迷惑をおかけして、申しわけありませんでした」

 デイルにぴしゃりとやっておいて、エリーシャさんはアークさんに頭を下げた。アークさんはものすごく困った顔で私を見下ろした。

「では、ティトシェ様に危険はなかったと、そう認識してよろしいのでしょうか」

「ええ。いろいろ迷惑ではありましたけど、危険という状況ではありませんでした。彼にも、ちゃんと抗議して理解してもらいましたし、謝罪も受けたところです」

「……そうですか」

 魂を吐き出すような勢いでアークさんは大きく息をつき、ようやく私から手を放した。危険がないのだと、ちゃんと理解してくれたらしい。

「ご無礼いたしました」

 私に向かって律儀に頭を下げる。彼の主人はユユ姫なのに、オマケの私にも丁寧なことだ。

「いえ、すごく困ったでしょう? 私のせいじゃないけどごめんなさい。デイルのせいだけど謝ります」

「俺も謝れってんだろっ! ああ、謝るよ! ちくしょう! そこの兄さん、悪かったな。俺としてはこんなミカン娘に用はなかったんだが、ちょっとした手違いってやつだ。騒がせてすまなかった」

 デイルにしては素直に謝ったな。よけいな一言については、あとでもうちょいいじめてやろう。

 相手が頭を下げたものだから、アークさんとしてもこれ以上文句は言えないようだ。複雑そうな顔はしているものの、一応うなずいてデイルの謝罪を受け入れた。

「わかった……こちらも、取り乱して失礼した」

 うむ、大人だな。ちゃんと自分の非礼も詫びる態度は、よーく見習っておこう。特にデイル、お前がな。

 ちらりと見やると、たまたまデイルと目が合った。私の意図を察したのか、むっとした顔になる。

「いやあ、誤解が解けてよかった。みんなも、もう納得したね?」

 チャリス先生が周りに問いかける。手下たちが一斉に「へいっ」といいお返事を返した。

 なんだかお医者さんというより、学校の先生みたいだ。

 そして先生は私を見た。

「しかし彼の『お嬢様』が君だったとはね。縁があるというか……」

「その節はお世話になりました」

 先生は私のことを覚えていた。なのできちんと挨拶をしておく。先生はうなずいたが、少し妙な表情をしていた。

「彼がさっき気になることを言っていたね。王家の姫って、どういうことだい? 君は王族なのかい」

 ――あ、しっかり聞いていたのか。

 騒ぎにまぎれてみんなスルーしてくれたかと安心していたのに、つっこまれてしまった。そういえば、とエリーシャさんやデイルも私に怪訝そうな目を向けてくる。私は首を振った。

「いいえ、違います」

「だが、たしかに彼はそう言ったよ。そうだね?」

 先生はアークさんに確認する。止める間もなくアークさんははっきりとうなずいた。

「ティトシェ様は王家に属するお方だ」

「アークさん、どうしちゃったんですか? 私のこと、知ってますよね。ユユ姫からも聞いてるでしょう?」

 なんで彼がそんなことを言うのかわからず尋ねると、逆にいぶかしげな顔を返されてしまった。

「存じておりますとも。ティトシェ様は公王陛下のご息女ではありませんか」

「ぅええぇっ!?」

「嘘っ!?」

「なにいいぃっ!?」

 途端に周囲から絶叫がわき起こった。うん、叫ぶよね、そりゃ。こんなとこにお姫様がいるとか聞いたら、普通は驚くだろう。

「ティトシェちゃんて、王女様だったの!?」

「違います」

 真っ青な顔で問いかけるエリーシャさんに、私はきっぱりと首を振って否定した。ここ、大事なところだ。

「だって、だって、公王様の娘って……」

「……いや、ちょっと待って」

 混乱する彼女を止めたのはチャリス先生だ。先生は眼鏡を押し上げ、考えながら言う。

「僕の記憶に間違いがなければ、公王様のお子様は、亡くなられた王子殿下おひとりだけのはずだよ。なのに、他に『娘』がいたとしたら……」

「庶子とかでもないですから」

 聞かれる前に先回りして言っておく。ややこしい誤解をされないよう、きちんと否定しておかなければ。

「血縁はいっさいありません。従って、私は王族じゃありません。平民です」

「その認識は間違っております。ティトシェ様はすでに平民ではありません」

「でも養女にはならなかったんですよ? 戸籍上は赤の他人です。ハルト様は後見人になって下さっただけで、親子関係はあくまでもお互いの気持ちだけの話ですから」

 口を挟むアークさんに言い返すが、彼は納得のいかない顔だ。

 なんでだろう? どこに引っかかる要素があるのだろう。

 公王の後ろ盾を得たからって、私自身が何か変わるわけじゃない。貴族や偉い人たちから見れば、ただの馬の骨、間違っても王女扱いなんてしたくない存在だろうに。

 イリスにも言われた。たとえ養女になったって、継承権は発生しないし姫とも呼ばれないって。望むところだ。そんな面倒そうなもの、くれると言われたらむしろ迷惑である。

「……どうも、よくわからないな。結局、どういうことなんだい?」

 チャリス先生に重ねて尋ねられ、私はため息をついた。できればスルーしたかったのに、これはもうきちんと説明するしかないようだ。

 仕方がないので、私はこれまでのいきさつを話して聞かせた。もちろん異世界人だなんて言っても信じてもらえないだろうから、そこは伏せて、かいつまんで説明していく。ハルト様から養子縁組の話をもちかけられ、結局それは受けずに他人のままでいることを選んだと。事実上の親子として一緒に暮らすようにはなったけれど、法的にはハルト様は後見人になっただけだと話す。周りのみんなは、話が進むほどに複雑な顔になっていった。

「……なるほど、それで『王族じゃない』か……そうだね、そうだけど……でも」

 チャリス先生がうなる。落ち着いて話をしようと、私たちはソファに座り直していた。エリーシャさんはせっせと先生のために料理を取り分け、それにふてくされたデイルはステーキをやけ食いしている。アークさんは勧めを断って、私の後ろに控えていた。

「事実上の親子には、なったわけだね?」

「まあ……でもそんなの、私とハルト様の個人的な問題です。法的な形式を整えたわけじゃないですから、周りから見れば私はただの佐野千歳でしかありません」

「うーん……でも人は君を特別視するだろうね。公王様が自分の子供にするといって引き取られたわけだから、たとえ正式な養女じゃなくたって一般人としては扱われないだろう」

「内心じゃどこの馬の骨って思いながらね」

 皮肉な気分になってつい言ってしまったら、先生は顔をしかめた。

「そういうひねくれたことを言うもんじゃない。君の出自より、そういう態度の方が人に悪い印象を与えるよ」

 真正面から叱られて、私は口をつぐんだ。しまったな、こんなこと口に出すべきじゃなかった。毒は内心だけで吐くものだって思っていたのに、最近警戒が緩んでしまっている。

「はっ、気にしてんのかよ。あんだけ俺様に説教ぶちかましといて、自分は情けねえもんだな」

 ここぞとデイルがせせら笑う。腹が立つけど無視した。こんな挑発に乗ってたまるか。

「せっかく公王様っつー最高の手札を持ってんだ。せいぜい使やいいじゃねえかよ」

「何に、どう使えと。ハルト様を何かに利用する気なんかないわよ」

「バカかお前」

 馬鹿にバカと言われてしまった。実に腹立たしい。

「使いどころを間違えなきゃいいんだよ。金や権力持ってて、使わねえって道理があるか」

「それをあんたが言っても説得力ないわよ」

 エリーシャさんがつっこむ。

「さんざん無駄金使ってるくせに」

「うるせえな。お前のために使った金を無駄だなんて思ってねえよ。いいか? 生まれで人を見下すような連中にゃ、権力にもの言わせるのがいちばん効くんだ。腹ん中じゃてめえより下だと思ってる奴に頭を下げにゃならねえってのを、いちばん悔しがってんのはそいつ自身だよ。てめえはザマミロって笑ってやりゃいいのさ」

「…………」

 馬鹿なりに、一理ある意見ではあった。なるほどと思わなくもない。ただ、それを実行するには相当図太い神経が必要になるけど。

「はは……デイルの意見はちょっと極端だけど、まあそういうことだね。内心でどう思っているかは、その人自身の問題だ。君がいちいち気にする必要はない。ちゃんとした人は出自で差別なんかしないよ。それより、君の言動で君を判断するだろう。だから堂々として、人に恥じることのない正しいふるまいを心がけていればいいんだ。そうすれば、君を認めてくれる人も出てくるだろう」

 先生の言うことは、とてもまっとうで理想的だ。そのとおりにできたら、どんなにいいだろう。でも私はそこまで自分に自信が持てない。私自身の言動で判断される方がよほど不安だ。そう簡単に人の好意を得られるなら、いじめられてなんかいなかっただろう。

 デイルとなんだかんだ言い合いしながら食事を終えて、私は帰ることにした。エリーシャさんと先生も一緒に出る。デイルはエリーシャさんに未練たっぷりなようすだったが、さすがに今日はこれ以上食い下がれないとわかっていたのだろう。一応おとなしく見送ってくれた。

 チャリス先生と別れ、エリーシャさんを家に送り届けてから馬車に戻る。私を探しに出るため、アークさんは馬車を近くの店に預けていた。そこの人にもお礼を言って宮殿へ向かう。ほんの数時間のことなのに、やけに濃い時間だった。

 ユユ姫の館に着いてただいまを言いに行ったら、ちょうどハルト様が来ていた。

「あら、いいところへ」

「戻ったか」

 ハルト様に外出を告げていなかった私は、内心少し焦った。ユユ姫、言ったんだろうな。昼食もスルーしたし、叱られるのかな。

「……ただ今帰りました」

「おかえりなさい。トトーのお姉さまたちとはお会いできて?」

「ええ……」

 落っことした服は町の人が拾ってトトー君の家に届けてくれていた。エリーシャさんは洗い直すからいいと笑っていたが、私はものすごく残念な気分だ。せっかく頑張ったのにとまたデイルへの怒りがわいてくる。それが顔に出てしまったのか、ふたりは顔を見合わせ、私に尋ねてきた。

「どうかして? 何かあったの?」

「問題でも起きたのか?」

 出がけのユユ姫の言葉も思い出して、私は急いで笑顔を作る。いかん、後でアークさんにも口止めしておかねば。

「いいえ、何も。先日お世話になったお医者さんとも会いましたし、新しい知り合いもできました。面白い人たちでしたよ」

「ならばよいが……身体は大丈夫か?」

「毎回倒れたりしません」

 一度具合を悪くしただけで病弱みたいな扱いはやめてほしい。そう言ったら、ふたりには一度じゃないと返された。そこで否定したら強制お散歩がまた始まるし、難しいところだ。

 一緒に帰ろうかと腰を上げるハルト様に待ってもらい、一旦アークさんのところへ走る。馬車の手入れをしていた彼は、私が口を開くより先に頭を下げた。

「お供の役を果たしませず、申しわけございませんでした」

 いきなり謝られて、びっくりしてしまう。

「なんでアークさんが謝るんですか? 迷惑をかけたのは私の方です。ていうか、デイルですけど……私がお礼とお詫びを言いに来たんです」

「いえ。お一人で行かせたのが間違いでした。馬車など、最初から預ければよかったのです。なんのための護衛なのか……」

 護衛だったのか。そんな認識はしていなかったぞ。

「ひとりで行くって言ったのは私です。まさかあんなことになるとは思わないじゃないですか。アークさんが気にすることじゃないです」

「しかし……」

「あの、それより」

 まだ何か言おうとする彼を制して、私はこそっとささやいた。

「そのこと、内緒にしててもらえませんか? 結局ただの馬鹿さわぎでしたけど、ユユ姫やハルト様が聞いたらまた心配されちゃうと思うんですよね。二人とも過保護だから。問題って言うほど問題じゃなかったんだから、わざわざ報告しなくてもいいと思うんです。何もなかったってことにしてください。お願いします」

 高いところから私を見下ろすアークさんは、少し困った顔になった。

「……それは、できません。今回は幸い危険には至りませんでしたが、もし相手が本物の暴漢であったなら、大変な事態になっておりました。私の怠慢による不手際です」

 うわあ、真面目な人だなあ。

「じゃあ、次から気をつけるってことでいいんじゃないですか? 今回はなんでもなかったんですから。危機管理意識を向上させるいい機会になったと思いましょうよ」

 アークさんの顔がますます複雑になる。

「失態を隠すのは誉められたことではありません。結果がどうであれ、私が怠慢であったことは事実ですから」

「だって対象がユユ姫じゃなかったんだから、気構えが違うのは当然です。私は普通の庶民家庭で生まれ育った一般人ですよ。お供を連れて歩く方が不自然なんです」

「しかし今は公王陛下のご息女であられる」

「いえ、だから……アークさん、それ本当に気にしてるんですね」

 私はため息をついた。

「私を見てて、そんな気をつかうべき相手じゃないってわかるでしょうに」

「…………」

「とにかく、今回のことはただの笑い話なんですから、いちいち報告しなくていいです。ユユ姫のお供をする時には、十分に注意してください。私が言うまでもないでしょうけど」

「……ティトシェ様」

「はい?」

 アークさんは無言で掌を向け、私の後ろを示す。その動作につられ何気なく振り返った私は、この日いちばん怖い思いをすることになった。

「何かようすが妙だと思ったら……」

 そこには、腕組みをして私をにらんでいるお父様が。

 なんで王様が車庫になんか来るかな! 向こうで待っててよ!

「何があったのか、聞かせてもらうぞ。ちゃんと説明しなさい」

「……はい」

 がっくりと肩を落とし、ハルト様の後に従う私に、アークさんが早口でささやいた。

「ティトシェ様、私はあなたご自身に対して、敬意をはらいます。公王様のためではなく」

「……?」

 よくわからなくて私は足を止める。そうしたらハルト様がちょっと怒った声で呼んで、アークさんに背中を押されて、結局それ以上何も聞けずにユユ姫の館を後にしたのだった。

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