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明日天気になったなら  作者: 桃 春花
第一部 龍の娘
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 国の中枢にいるおじさんたちに、いきなり私なんぞの話を聞いてもらえるわけがない。

 だからカーメル公には、お礼のお茶会という名目でごく私的な招待をかけることになった。

 お茶会という可愛らしい響きに似合わぬこの参加者の顔ぶれ。女の子同士でキャッキャウフフするのは普通に思えるのに、男ばかりで集まると違和感を覚えるのは偏見だろうか。私はオタクではあっても腐ではないので、各種美男子がそろっていてもそこに何かを見出すことはない。カーメル公についてきたシラギという側近さんがこれまた理知的なクールビューティで、ある嗜好の人達には主従カップリング認定されそうな取り合わせだったが、私には男の数が増えてむさ苦しさがアップしたとしか思えなかった。

「先日はありがとうございました」

 カーメル公を迎えて、私はまず礼儀にのっとって挨拶をした。

「いいえ、わたくしも楽しかったですよ。今日はこちらがお礼を言う番ですね。お招きありがとう」

 手土産のお菓子の籠を渡してくれながらカーメル公は微笑む。まあ、お菓子はありがたくいただこう。甘いものは大好きだ。

 お礼を言って受け取る私に、カーメル公がかすかに反応を見せる。恋する乙女演技を捨て去った私に違和感を感じたのだろう。ちゃんとお愛想笑いはしているが、昨日までの甘ったるさは一切ないからね。彼に見とれるふりもしないし、さり気なくふれた指先にドキドキするふりもしない。気持ち悪いから速攻引っ込めた。

 お茶を淹れる役はトトー君だった。私はこっちのお茶の淹れ方なんて知らないし、イリスにやらせたらきっと茶葉の浮いたカップが差し出される。騎士たちの中でいちばん上手いのはトトー君だというので、おまかせしているのだった。

 トトー君は表情としゃべり方がぼーっとしているだけで、行動はトロくない。手際よくお茶を淹れて、中央のテーブルにつくハルト様とカーメル公、そして私とシラギさんにふるまった。騎士たちは例によって離れて控えている。

 一同は、しばし当たり障りのない会話を交わした。ロウシェン一行の滞在も今日までである。明日にはここをお(いとま)する。これまでのお礼だの今後の予定だの、ハルト様とカーメル公の間で通り一遍のやり取りがあった。カップのお茶がなくなりかける頃、話に一段落ついたのを見計らって私は切り出した。

「ところでカーメル公、この間のお話についてですけど、あの後ハルト様とも話し合いましたので、ここでお返事させていただきますね」

「ええ」

 何についての話かなど説明する必要はない。カーメル公も、それは最初から意識して来ているだろう。無駄口を叩かず返答を待つ彼に、私はさっさと結論を伝えた。

「私はハルト様と一緒に行きます」

「……そうですか」

 大げさな反応はなかった。静かに答えた後、カーメル公は少し寂しげな顔をする。

「残念です。君がわたくしの元へ来てくれれば、楽しくなると思ったのですが」

「勘違いなさっていると思いますから、先に説明しておきますね。私はたまたま発見され救助されただけの遭難者です。こちらの国々とは、一切のかかわりがありません」

「遭難者……?」

「乗ってた船が沈没したんです。あやうく死にかけて、この島に流れ着きました」

 手短な説明に、カーメル公は反応に迷う表情だ。

「この離宮へ来るほんの数日前に救助されたばかりです。なので、私という人間にはまったくなんの意味も価値もありません。ただのオマケです」

「…………」

 ハルト様が何か言いたそうな顔をしたが、視線で黙ってもらった。

「緊張の高まっている微妙な時期に、ロウシェン公がいかにもわけありげな人間を連れてきた。そこらの庶民にしか見えないし、年も足らない小娘。普通に考えて、公王が連れ歩くような人間ではない。だったら何か、特別な理由があるのではないか。見たところ、竜になつかれやすいという特性がある。まったくただの小娘というわけではなく、特殊な事情があってロウシェンへ連れ帰ろうとしているのではないか――そんなふうに勘ぐったんじゃないですか」

 内心の読めない微笑がカーメル公の顔に浮かぶ。薄く微笑み沈黙している彼は、まさに人形のようだ。

 ただ、紫の瞳に油断ならない鋭さがひそんでいた。こちらの出方をうかがい、隙をさぐる目だ。

 自然と私の顔にも微笑みが浮かんだ。もう取り繕う気も隠す気もない。さぞやにくたらしい顔になっていることだろう。

「どんな裏があるのか知りたかった。ハルト様の反応を確かめたかった。それだけですよね? 私を誘ったのは。もし本当に何かあるのなら、揺さぶりをかけてロウシェンの動きをさぐれる。何もないのなら、それでよし。小娘一人引き取ったところで適当に始末すればいいだけのこと。特にリスクもないからと手を出してみたのでしょう」

「始末とはひどい言い方を。君をそのように扱うつもりはありませんよ」

「言葉の綾です。ロウシェンとアルギリの動きに神経をとがらせている身としては、ささいな引っかかりも無視できなかったのでしょう。頭のいい人は大変ですね、あれもこれもと気にしなければいけない。細かいことには気づかない、ちょっとお馬鹿な人の方が楽な場合もありますよね」

 私たちはにっこりと笑顔を交わし合う。なぜだかハルト様以下周囲の人々が引いているような気配を感じたが、多分気のせいだろう。私はちゃんと礼儀正しく話している。ちょっと生意気かもしれないが、態度も話の内容も非礼をとがめられるほどではないはずだ。

「さて……君の話は少々突飛な部分がありますね。わたくしがロウシェンとアルギリの動向を気にしていると、それはどこから出てくる話なのです?」

「もし、私がどこか別の島の王様で、新しい領土を欲していたなら」

 カーメル公の問いにすぐには答えず、私は違う話を始めながら事前に用意しておいたものをテーブルの上に広げた。

 昨日のうちにハルト様にお願いして、貸してもらった地図だった。シーリース島を中心に、周辺諸国が描かれたものだ。正確さを信用するなら、シーリース島から北へだいぶん離れた場所に、半分くらいの大きさの島がある。

「できるだけ豊かな土地がほしいと思いますよね。自分のところが貧しく、国民生活が苦しいなら尚更に」

 普通に波間を進む船で旅すると、ひと月ほどかかる距離らしい。その島とシーリース島との間にもたくさん島があって、それはそれでまた別の国だったらしい。

「どこかいいところはないかと見回せば、広くて肥沃で資源も豊富と三拍子そろった物件がある。飛びつきたいところですが、その島には三つの国が存在していて、それぞれに強力な軍隊を保有している。簡単にどうこうできるものではありません。三国が一致団結して対抗してきたんじゃ、勝ち目はない」

 シーリース島と北の島の間にある国々は、ほとんどが今ではひとつの大きな国としてまとめられているらしい。

「しょうがないのでランクを下げて、まず簡単に手に入る土地から攻略を開始しました。周辺の小さな島国をいくつも支配下に収めて、ひとつひとつは小さくても全体を見ればけっこう規模の大きい国になることができました。資源や農産物の問題も解決されました。配下の島からいろいろ徴収できるから、懐は豊かになりました。そこで満足して終わってもいいんですけどね」

 多くの島を併呑して帝国を名乗るようになった国の、元々の領土は北の辺境。私に読めないこの世界の文字で、エランドと名前が記されているらしい。

「どうしてなんでしょうね。もう十分豊かになったんだから、それ以上を望む必要はないのに。はじめに攻略をあきらめた、豊かな広い島がどうしても忘れられないんです。いくつもの成功をおさめてきただけに、あれも欲しいと思ってしまうんですよね」

 この離宮へ来てすぐの頃、ハルト様たちが話題にしていた国名だ。カーメル公が懸念している相手だろうとも言われていた。

「多くのものを手に入れたからこそ、今度はいちばんいいものをと望んでしまう。以前より使える力も増えたし、経済力もアップしました。今なら狙えると考えて、あらためて攻略法を考えました」

 自然に全員の視線が地図の一点に集まっていた。誰もが危険視していた国だろう。今現在は友好関係が成立していて、対立は起こっていない。だからあからさまに懸念を表すことができない。だけど、その状態が今後もずっと続くと信じられる人はいないだろう。

 次々に周辺国を征服していった帝国が、この島だけは狙わないなんて、どうして思えるだろうか。

「正面からぶつかるのは得策じゃないですよね。成功率が低すぎる。増やした手駒は征服した国の軍。絶対の忠誠なんて望めないし、旗色が悪くなれば離反される恐れもあります。軍も人民もすべてを帝国の一部として意識から支配する域にはいたってませんから、あまり無理な作戦は立てられません。じゃあどうするか――決まってますよね。相手の力を弱めるんです」

 私はハルト様とカーメル公を順番に見た。できればここに、アルギリの王様にもいてほしかった。私の話を聞いてくれるような人物だったらだけど。

「三つの国が力を合わせるから強い。私の国にも似たような逸話が残っていますよ。兄弟三人で力を合わせなさいってお父さんに言われたと。そういうことですよね。三つをばらばらにしてしまえばいいんです。ただ和を乱すだけでなく、互いに争うように持っていけばいい。元々隣国同士っていうのはちょっとしたことでもめやすいものです。私の国もお隣と仲が悪かったし、世界中どこもそんな感じでした。百年くらい戦争していた国もあります。共通の敵があると思うからこそ団結もするけれど、敵は己の隣だと思わせれば、崩すのは難しくない」

 小娘の話だと、馬鹿にする反応はなかった。ハルト様は難しい顔で考えているし、カーメル公は私やハルト様の表情を観察しつつ、やはり考えるようすだ。ついでにシラギさんは、何やら不気味そうなまなざしを私に向けていた。失礼千万だが、とりあえず馬鹿にされてはいないらしい。結構だ。

 これだけちゃんと話を聞いてもらえるなら、私なんぞが偉そうに演説した甲斐があるというものだ。

 私はカップの底に残っていた、すっかり冷たくなってしまったお茶を飲みほした。しゃべり続けでちょっと喉が渇いた。おかわりが欲しいなと視線を向ければ、トトー君がポットに向かってくれた。察しがよくて助かる。あれでぼーっとした雰囲気でさえなければ、かなり魅力的な男の子になれるだろうに、イリスといいどこか残念な奴らだ。

 淹れ直されたお茶を飲んでから、私はふたたび口を開いた。

「両者とも、お心当たりがたくさんあるんじゃないですか? 相手に不信感や反発心を抱くような事件が、各地で起きているんじゃないでしょうか。ひとつひとつは小さな出来事で、隣国同士ではよくある話だと流されそうな……でもそれが続けば両国の間には溝ができます。そこへ、危険視されている帝国も関わってくるとなれば、さらに危機意識が高まるでしょう。相手が帝国と仲良くしているのを見ると、その裏を気にせずにはいられない。そういった策を仕掛けるにはハルト様よりもカーメル公の方を選ぶのが妥当です。これは単純に、お人柄の問題です。頭脳戦を得意とする人だけに、何事も裏を勘ぐらずにはいられないでしょうから」

「待ちなさい、チトセ」

 はじめてハルト様が口を挟んだ。困惑した顔を見せながらも、彼は私をたしなめる。

「もめごとなど今に始まった話ではない。ロウシェンもリヴェロもアルギリも、昔からそんな関係だ。そのように決めつけるのは失礼だぞ」

「現に勘ぐっていらしたじゃないですか。神経質になっていなければ私の存在なんていちいち気にしないですよ。ささいなことにも探りを入れるほどロウシェンに不信感を抱いていたってことじゃないですか?」

「それは……」

 私は視線をカーメル公に戻す。紫の瞳は自身の手元に向けられていた。もう微笑みを浮かべることもなく、思考に沈んでいる。

 真剣な顔を、初めてかっこいいと思ってしまった。変に甘ったるい笑顔を浮かべているよりもずっといい。私に関わってさえこないなら、美形でもなんでもかまわないのだ。

「どうやって攻略するかを考えるにあたって、相手の戦力経済力だけでなく人柄なども調べるのは基本でしょう? 直接交流する機会もあるみたいですし、それなら三国の君主それぞれの性格を見極めていても不思議じゃないですよね。これだけたくさんの国を征服してきたんだから、帝国の王様も力押しだけの人ではないでしょうし」

 私の話したことなんて、ごく一般的なものばかりだ。とりたてて奇抜な発想はない。

 けれど、当事者の立場では案外気づかなかったりする。急激な変化ではなく少しずつ、元から起きていたのと変わりない出来事からじわじわと攻められれば、それが第三者の策だとはなかなか気付けない。

 カーメル公は頭のいい人だから、ハルト様は穏健派だから、いろいろもめても疑いを持っても、すぐに対立する方向へは傾かない。だけど下の人間はどうだろう。国は王様一人で動かしているわけではない。

 国民感情が悪化すれば、何かのきっかけで衝突や暴動に発展しかねない。じっさいに日本とお隣さんとの間でもあったじゃないか。あれは向こうの政府が仕掛けたことだと言われているけれど、予想外に騒ぎが拡大して仕掛けた当人も収拾に苦労するほどだった。民衆の力を馬鹿にしてはいけない。政治的判断とかしない分、遠慮なく過激に走るのだ。

 この数日ハルト様とカーメル公が会談を重ねていたのは、まさにその問題への対処についてだった。

 でもどれだけ彼らが頑張っても、次から次へと対立を煽るような出来事が起これば抑えきれなくなってくる。抑えようとする王様だって相手への疑いを抱いているから、段々苛ついてもくるだろう。そんな状況で、いつまで友好関係を保てるのだろうか。

「ひとつの島に三つの国。ちょっとつつけばすぐもめそうなものです。誰だって分裂を狙うでしょう。私だったら三国同士で争わせ、疲弊したところに乗り込みますね。自身の負担は極力少なく、最小限の手間で目当てのものを手に入れる。基本でしょう?」

「公王様……」

 シラギさんが青ざめてカーメル公をうかがう。自分の主君があやうくはめられかけていたと、認めるのが怖いのだろうか。彼の表情は否定してくれと言っているように見えた。

 カーメル公が顔を上げる。まっすぐに向けられた視線に、私は肩をすくめてみせた。

「――ま、全部私の推測ですけどね。現在の、私の知る限りの情報から組み立てた、ただの推測です。大外れかもしれませんね。でもあり得ない話ではないでしょう? 国同士のお付き合いはいろいろ複雑で大変でしょうけど、外に大きな脅威があるのですから、三国の結束は大切にしないとね。もちろんこんなこと、私みたいな小娘が言うまでもなく皆さんご承知のことと思います。ただちょっと状況がややこしくなっていただけですよね。いったん整理して原点から考え直すのもいいんじゃないかと思い、お話させていただいた次第です。生意気な口を利いて申しわけありませんでした。無礼がありましたら、どうぞお許しください」

 私は頭を下げてしめくくった。

 私に言えるだけのことは言った。あとは専門家が考え話し合うべきだ。これ以上は女子高生のしゃしゃり出る幕ではない。これまでだって幕じゃなかったんだけど。

 ずいぶんたくさんしゃべったから、なんだか疲れた。私は普段、あまりしゃべらないのだ。おしゃべりが嫌いだとか口下手だとかではなく、話す相手がいなかったから。クラスメイトとの会話は、いつもすぐに終わっていた。両親は共働きで忙しく、祖母と姉はおしゃべり好きで私は聞き役に回ることが多かった。弟は男の子だから、仲がよくてもそうベタベタしていたわけではない。

 こちらへ来てから、積極的に発言する機会が多くなっている。必要にせまられてのことだけれど、案外嫌でもないと、ちょっと新鮮な発見だった。




「ひとつだけ、否定させていただきたいことがありますね」

 カーメル公の言葉に、私は焼き菓子をかじりかけたまま顔を上げた。彼の視線は私に向けられている。今のは、やはり私に向けての言葉だろう。

「なんですか」

「君が、なんの意味も価値もない人間だという部分です」

 なんの話かと一瞬考えて、そういえば初めにそんなことを言ったなと思い出した。

「いえ、事実ですけど」

「どこがです? これだけ話しておきながら、君に疑いを持つなというのは無理な相談です。どう見てもただの娘ではないでしょう」

「そう言われても……」

 本当にただの女子高生なんだけどな。異世界人ってとこだけがちょっと平凡ではないが、出身地が非凡なだけで私個人は普通の人間だ。あえて何か挙げろというなら、いじめられっ子でしたとしか言えない。

「ただの娘があれだけのことを考えられますか?」

「カーメル公がさぐりを入れてきたりなさるからですよ。私にちょっかいかけてハルト様の反応をたしかめたり、私から何か聞きだせないかと試してみたり。そんなことをなさるから、その行動の理由を知ろうと思ったんです。何もしないで無視していてく だされば、私も国同士の問題にまで頭を働かせる必要はありませんでした」

 ね、とハルト様に視線を向ければ、難しい顔で首をかしげられてしまった。なんですか、その反応は。ちゃんとうなずいてくださいよ。

 案の定カーメル公はますますいぶかしげな顔になる。

 しかたないので私は正直に言うことにした。

「実を言うと、カーメル公に意地悪したいという気持ちもありました」

「ほう?」

 これは言わないでおこうと思っていたのだけれど。そっちが追及してくるなら、ぶっちゃけてやろうではないか。

「ご自分が女性にもてることをしっかりたっぷり自覚なさっていて、いたいけな少女を利用するためだけに誘惑なんてして。そういう男、死ぬほど嫌いなんですよね。もう心底腹が立ってしかたなかったです」

「…………」

「だから痛い目見せてやろうと思って、全力でそっちの思惑をさぐってやることにしたんです。けっこうしんどかったですよ。何がきついって、あの白々しくも寒い演技におつきあいするのがね」

「チ、チトセ」

 ハルト様が引きつった顔で止めに入る。大丈夫、王様相手に無礼なことは言いませんよ。

「そうやって頑張ってたら、なんだか思ってた以上に深刻な事態らしいと気づいて、意地悪どころじゃなくなりました。それだけの話です」

 シラギさんも引きつっている。でもこのくらいなら言っても許されるだろう。事実なんだから。

 小娘のちょっとした憎まれ口に、王様ともあろう人が怒るなんて器の小さい真似、できませんよね?

「……君に、悪意を持っていたわけではありません。けしてひどい扱いをするつもりはありませんでしたが」

「でも利用はする気でしたよね」

「…………」

「…………」

 無言のにらみ合いが続く。私とカーメル公と、どちらも笑顔のままで。

 なぜか周囲の誰も口を挟まない。ひたすら無言の時間がしばし続いて。

 先に目をそらしたのはカーメル公の方だった。

 気まずげな表情に、私は内心で勝利のガッツポーズを決めた。

「怖……」

 背後でトトー君が小さくつぶやくのが聞こえた。何が怖いのだろう。さっぱりわからない。

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