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明日天気になったなら  作者: 桃 春花
プロローグ
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おわりからはじまりへ



 つまらない人間には、つまらない死に方が約束されているものなんだな。

 高速で流れる景色を最後に見ながら、私はそう思った。

 憎たらしいほどに綺麗な青空と、巨大な船。氷山に衝突するか魚雷の直撃でも受けない限り沈むことはないだろうと思わせた船体が、見てはっきりわかるほど不自然に傾いている。

 これでは、きっとつまらなくない人間も死んでしまうだろうな。なら私だけがみじめな最期というわけでもないのか。別にうれしくもないけれど。

 この世との別れを惜しむ暇もなく、衝撃はすぐにやってきた。下は水だったけど、落ちた高さが高さだから痛い。全身を殴られたような感じだ。海じゃなくて地面に落ちたんじゃないかと思うくらい。カナヅチというほどでもなく二十五メートちゃんと泳げる私だったけど、この状況じゃとても無理。苦痛に悶絶しながら沈んでいくしかない。

 逃げ惑う人々の阿鼻叫喚が聞こえなくなって、ゴボゴボと水の中特有の耳を遮蔽された感覚に包まれる。落ちた時反射的に息を止めてしまったものの、長く続けられるわけがない。すぐに苦しくなる。本能的に救いを求めた身体が目を開いた。

 揺れる水面の光と巨大な影。船はまだすぐ近くにある。水中の船体がそれはもう見事に破壊されていた。一部分、どっかりとえぐり取られている。

 ――まさか、本当に爆撃されたんだろうか。

 そうとでも考えなければあり得ない光景だった。でも違うんじゃないかということにはすぐ気が付いた。船体に空いた穴の近くに、別の巨大な影があったからだ。

 それは動いていた。人工物、つまり潜水艦などではない生き物だとわかる動きだ。船から離れていこうとしている。長い。大きい。これ何。

 クジラ? サメ? いいや、違う。だって長い。一体全長何メートル。魚とは思えないシルエットは、蛇と呼ぶのがふさわしかった。その非常識な巨大さを無視すれば。

 クジラといい勝負になるんじゃないかと思わせる胴回りで、船より長いんじゃないかと思わせる体長。こんな生き物を私は知らない。テレビでも図鑑でも見たことがない。水の中をうねりこちらへ向かってくる身体は、白い。

 轢かれる。いや撥ねられる。なにこの状況、私どこまで悲惨なの。

 でもこのまま苦しく溺死するよりも、いっそ一息に死ねた方が楽でいいかな。きっと衝撃は一瞬だ。それですべてが終わる。

 恐怖は感じなかった。立て続けの出来事に思考が麻痺していた。私は近づいてくる生き物をけっこうのんびり眺める。直撃を覚悟したけれど、予想に反してそれは私をかすめてすぐ脇を通り過ぎただけだった。

 水の中でもわかる白い鱗がきらきら輝いている。純白ではなく、淡くとりどりの色をまとっているようだ。それともこれは光の反射が見せるもの? なんでもいいけど、綺麗だった。きっと船を破壊して、私が死ぬ原因になった奴なんだろうに、腹も立たなかった。

 私は思わず手を伸ばす。美しいものを見れば触れたくなる、ただそれだけの衝動で。

 もう息が続かない。苦しい。吐き出した息の代わりに大量の水が流れ込んでくる。

 たった十六年の人生だったなあ。短いなりに色々あった。楽しいこともあったけど、嫌なこともたくさんあった。特に最近は。

 それらとおさらばできるのは悪くない。でも家族のことだけは気になった。

 お父さん、お母さん、おばあちゃん、お姉ちゃん、コーちゃん。みんな、悲しむかな。そりゃ悲しんでくれるよね。家族仲は普通によかった。外では嫌われ者の私でも、家族には愛されていた。

 ごめんね、こんな形でサヨナラしちゃって。でも姉弟がいてよかった。一人失っても、ちゃんとみんな立ち直れるだろう。

 ああ、もう終わる。

 薄れゆく意識の中で最後に認識できたのは、巨大蛇モドキがまぶしく白い光を発したことだった。

 最後にこんな綺麗なものが見られたなら、きっと悪い死に方じゃない――

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