題7話
遅くなりすいません。そして、戦闘シーンにまで入れてません。
アキラ達3人は山賊から逃げれないと踏んで、それぞれ戦闘準備に入る。と言っても、アキラは武器を持ってないのは姉弟も分かってたので後ろに下がってて貰う事にした。
「一応、これ。なるべく私達で頑張るけど、あれだけの人数は捌けないと思うから自分の身は守ってね」
サラサがアキラに、護身用の剣を渡す。それは好戦的に使うには心許ないが、護身には程好い長さと重さの剣であった。サラサ自身はアキラが死のうがどうでも良いが、そのせいでクロエが落ち込むのは宜しく無かった。
アキラは刀身を鞘から出し、その鋭さに思わず顔をしかめる。前の世界では普段見る事は無いし、勿論アキラもそんな機会に出くわした事は無い。そしてアキラはどちらかと言わなくても、文系の人間。体育会系では無いので剣の心得も無い。
ここまででは、アキラに自分の身を守る術は無いだろうと思われるだろう。確かにその通りだが、一筋ばかり希望はある。彼はオタクと言われても仕方ない程の物語を読み、見てきたのだ。その中には剣の扱いや技、奥義と呼ばれるモノが分かり易く描写されてるものがあった。
勿論、普通であればそんな安い知識のみで生き残れる程、安い命では無い。ただ、彼はその知識で身体の使い方を人の何倍も理解した。身体の使い方を理解するというのは、それだけで知識の無い人間の3倍は動けるであろう。どの筋肉をどう動かせば良いか。それを理解するだけで、武術的な強さは増す。
そんな頭でっかちなだけで、強さが増すとは思えない人も居るだろう。しかし、合気道を思い浮かべて欲しい。呼吸を合わせるだけで人を投げられる。達人のそんな言い分は達人にならなければ分からない。しかし少し深く心得を持ってるモノが言うには、筋肉や骨の稼動域や動きを理解しソレを利用する。
そう。合気道で証明される様に、動きを理解出来れば相手の動きは分かるのだ。勿論、相手の動きを追えるだけの動体視力というものも必要だが、彼は視力こそ良くないが動体視力だけは鍛えていた。
彼は確信こそ無いが、一対一なら剣を捌き切れる自信を持っていた。
「おい、そこの眼鏡! 荷物と綺麗な姉妹さえ置いていけば、危害は加えないぞ? まぁ、この荒地に無一文で生きていけるとは思えないけどな!」
山賊の中で一人だけ際立って立派な装備をしてる人物が、そうアキラに叫ぶと残りの山賊が卑下な笑い声を上げる。山賊達は戦闘準備をするアキラ達の姿を目視したが、この戦力差だ。下手に戦闘するより、圧倒的戦力差に白旗を揚げさせようとしたのか、3人の目の前に陣取った。
5人程馬に乗っている。馬を持っているなら、勢いをつけて強襲した方が良いだろう。しかし、それでは上質な女を2人(一人はクロエ、男だが)殺してしまう。この戦力差なら、投降してくれるかも知れない。その方が楽しめる。山賊は男のみ、それを発散したいのだろう。
「残念だけど私達、貴方方みたいな野蛮な方に死んでも屈服しませんから」
そうサラサが杖、ファンタジーの世界で魔術師が持ってそうなソレを構えると、山賊が一斉に歓声を挙げる。この世界に魔法はやっぱりあるのか、と横見しながらアキラは思考する。この山賊達はどうやら、抵抗する女をどうこうするのが好きなのだろう。
アキラの胸の内に嫌悪感が広がる。やはりこっちの世界にもこういうどうしようも無い連中が居るのかと。アキラは前に出て、山賊達に切りかかりたい気持ちを押さえる。彼が仕掛けても返り討ちにされるのは分かっている。アキラは姉弟の後ろに控えながら、護身用の剣を抜く。
それに合わせて、山賊達も剣を抜いて行く。斧を構えるモノも居るかと思ったが、山賊達は皆剣を構えていた。クロエも背中に掛かっていた鞘から剣を抜く。すると不思議な事に刀身が縦に横にと巨大化していった。
「おぉ! マジックアイテムか! これは儲け物だな。どれ、お嬢ちゃんが使うには勿体無いから貰うとするか」
山賊達がどよめく中、リーダーらしき人物がその正体に気付いた。マジックアイテム。それはその名の通り、魔法で加工された道具或いは武器の事である。武器に関してのみ言えば、マジックウェポンというのが正式名称だが、殆どはマジックアイテムの通称で通っている。
マジックアイテムは魔法で加工されてるとは先述で語っているが、実はどの様に加工されているかは分かっていない。そこに魔力が篭っているのは分かっているのだが……。現存するマジックアイテムは、昔一人の職人によって作られたモノであった。その職人は弟子を取らなかった為、その技術は後世に伝わらず現代に至っている。
マジックアイテムは高値で取引される。それにその付加されてる能力はソレ単体でも、素晴らしい力を持っているのである。その能力の高さにより、マジックアイテムを知らない人間はよっぽどじゃない限り居ない。つまりそれはコレクターに、そこに売りつける為に山賊に狙われる代物としてもその名を知られてもいた。
「おい、野郎共! 分かってるとは思うがあのマジックアイテムは壊すんじゃねえぞ!」
マジックアイテムはちょっとやそっとでは、壊れないのは有名である。しかし、その価値の高さから山賊のリーダー格にの人間にそう言わせたのである。
クロエの持つ剣は鞘から抜くとその体積が倍増するという仕掛けのある剣である。まだ能力の底は深そうだが、とりあえずはその事実だけを頭に入れておこう。世界の常識として、大剣というのは壊れ難いモノであった。
マジックアイテムであり、大剣でもある。その硬さは山賊のリーダーの心配が馬鹿らしく聞こえるが、同時にそれだけ価値のあるモノである事の証明でもあった。アキラはマジックアイテムが如何に貴重なものかは分からない。大剣が硬い、そんな常識も知らないがこっちは何となく理解は出来る。
「ふむ。君達、ちょっと商談があるのだが……」
アキラは剣を鞘にしまいながら、山賊達に不敵な笑みを浮かべながら話し掛ける。山賊達は剣を持つ手が震えて、しかも後方にて事を構える男が急に自信を持った口調で話し出した事に僅かばかりの不安を覚えた。
「商談とは何だ?」
「そちらのお望みは大剣なのだろう?」
「あぁ、そうだが?」
「この大剣をやるから、僕達に危害を加えないで貰えないか? この姉弟はこう見えて腕利きでな、そちらも余計な被害は出したくないんじゃないか?」
姉弟が強いのかどうかは分からない。それに大剣はもしかしたら、クロエにとって大事なモノかも知れない。しかし命より大事なモノ等無いと思ってるアキラにとっては、大剣は良い交渉材料であった。
クロエにとって大剣は大切なモノだったが、交渉材料に使われた事に怒りは感じて無かった。勿論事前の打ち合わせ無しに交渉されたのは、癇に障ったが怒る程の事では無かった。クロエは逆に無駄な戦闘しなくて済むかも知れない事に安堵した。彼は優しい人間であり、人を殺さないで済むならその方が喜ばしいのだった。
サラサは大剣がどうなろうと、関係無かった。マジックアイテムはその利便性から、無いよりは有った方が良い。しかし、クロエの命と比べれば、天と地以上の差があった。勿論、クロエの命が天である。
「成程、確かに。貴族様はともかく、そちらの2人を相手するには骨が折れそうだ」
「そうでやんすね、親方」
どうやら、一人だけ装備が立派な男はこの山賊共のリーダーだったらしい。彼らは話が少しは分かる山賊なのかも知れない。アキラの交渉に真剣に受け答えをする。
人を殺して、略奪に励むのは決して楽しいからでは無い。彼らは自分自身の生活を安定させる為に、略奪や殺人に手を出してるだけなのだ。命あっての物種である。
「そうだな、俺達も仲間が死ぬのは勘弁ならない。よし、マジックアイテムだけ頂いていこう。さぁ、その大剣を寄越してくれ」
「は、はい! ”ヴァルキリーソード”の事を宜しくお願いします」
山賊のリーダーがそう言い、他の山賊も反対しない。これでアキラに怪我は出ないと安心したクロエはマジックアイテム”ヴァルキリーソード”を鞘にしまい、山賊に渡そうとした。
渡そうとしたのであって、結果としては山賊の手に高値で取引されるブツは渡る事は無かった無かった。山賊が急に気分を変えてクロエに切り掛かった訳でも、サラサがクロエに触れようとした事に激高して山賊に襲い掛かった訳でも無かった。
「やっぱり止める事にしよう。どうやら君達からは悪意しか感じられない。それに時間稼ぎは十分だ。じきに援軍が着くだろう。悪い事は言わない。君達、さっさと逃げた方が良いのではないか?」
渡すのを止めたのは交渉を始めた、この中で一番弱いかも知れないアキラであった。アキラがそもそもこの世界に飛ばされたのは、元の世界の悪意を憎んで学校を爆破しようとした為であった。そう、彼は人一倍悪意が嫌いであり、更には人一倍悪意に気付ける人間であった。
山賊達は一見、誠意を見せて対応してくれてるように見えたが、クロエに言わせれば、仲間を大切にするのは人間として当たり前の事である。しかしアキラに言わせれば、そんな立派な考えを持つ人間が姉妹(妹では無く弟だが)と持ち物を置いていけ等、言う訳無いだろうという事であった。
「悪意? 何のことだ?」
そう言いながら彼らは周囲を見渡す。勿論、アキラの援軍の話は嘘である。しかし彼らはアキラを貴族だと思っていたので、護衛が2人というのは可笑しいと思ってたので援軍の話は信じるに値するものであった。
「ふん、まぁ良い。早く逃げた方が良いぞ。見えはしないが、援軍がもうそろそろ到着するだろう。」
どうやら自分が貴族と思われてるとアキラは気付き、彼らにはっぱをかける。アキラ達としては、此処で山賊と殺しあうのは得策ではない事は明らかである。特にアキラとしては今まで、殺し合いの場面に出くわした事等無いし、出来れば人を殺したいとは思わなかった。
そんな前事情を考えれば仕方ない様に思えたが、少し彼は焦りすぎたようだ。少しはっぱをかける合間が早かった。
「くそぉ! 野郎共!! まだ目視出来てないんだから、そんな直ぐには来ないだろう。なら、こいつ等をさっさと殺してでっかいの奪うぞ!」
でっかいのとは勿論、マジックアイテムの事である。山賊のリーダーがそう叫ぶと、手下達は一斉に武器を手に取る。それに伴って姉弟も武器を構える。アキラはサラサに首根っこを掴まれ、無理やり後ろに下がらされた。
川のほとりに戦場さながらの緊張感が走る。そんな中、後ろに下げられていたアキラは嫌な思い出を思い返していた。局面こそ大きく差が広がるが、同じ様に直前まで纏まりそうな交渉をせっかちをおこしてフイにしてしまったのである。
交渉と仰々しく言ったが、学級委員長を決めるという、殺し合いをするかどうかと比べるのはどうかと思える程平和なモノであった。彼のクラスに居る王子様が気に食わなかったアキラは、影が薄いながらもカリスマ性を持ってる少女を王子の当て馬にしようとしたのであった。
少女の頑張りもあってあと少しの所までいったのだが、その時も少し早い展開を見せすぎた為に王子に委員長の座を明け渡してしまったのであった。少女は影が薄かった自分に注目が集まった事を感謝していたのだが、アキラ個人としてはまたやってしまったという気持ちで一杯であった。
アキラは他にも様々な事で気を早らせてしまった為に、失敗をしていたのである。
頭の回転が早く、他人の気持ちを人一倍に感じ取れる彼が交渉事に置いて優れてる事は前述で語れてるだろう。その彼がせっかちを起こして、交渉事を失敗するとは考えられないだろう。その通りであり、彼が交渉で失敗するのはその優れた頭の回転速度である。
頭の回転速度は早い方が良いのだが、早すぎるのも考え物であった。普通の人が1つのモノを考えてる間にアキラは4,5つもの事を考えるのであった。つまり彼は人の少なくとも2手先まで見えてるので、それに従って次へ次へと動くのだが、それに彼以外の人間は付いて来れないのであった。
ただ、彼自身は交渉に適する才能を持ちながらも、何故失敗を重ねるのか分からなかった。同じ失敗が多いといえ7割にも及ぶ交渉は成功してる事があり、何故かは深く考えなかったのであった。
アキラはこの世界に来てから、自分らしさや良い所をみせられてない事にまた落ち込む事になっていた。
「野郎共、掛かれぇーー!!」
山賊の頭の掛け声によって、果たして絶望的な戦闘が始まった。アキラの残念な現状を語っていた為に少し緊張感が無いが、3対|(約)20の圧倒的に数の差がある殺し合いが始まったのである。
いや、ホントにすいませんでした。前書きで書いた通り戦闘シーンまで入りませんでした……。
そして、大分更新に時間が掛かってしまいました。色々私情で書けませんでした。
次の更新を明日とか明後日にしてもプレッシャーになるので、最低でも2週間掛かる設定にして、書けるよう頑張ります。




