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こてつ物語2  作者: 貫雪
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 あれから美羽は真柴組から学校へ通い、帰りがけ、由美と一緒にこてつの散歩へ出るようになった。生意気な態度は相変わらずだが、こてつの前では素直にはしゃぎ、こてつも美羽になついているらしい。

 そんな様子を由美も楽しんでいる。


 御子はしばらく美羽の好きなようにさせてやることにした。せっかく心が和らいでいるのなら、あせらずにゆっくり心が開けるようになるまで見守る事にしたのだ。


 そんな訳でその日も美羽は由美と一緒にこてつを散歩させていたのだが、道の端で花束をたむける夫婦の姿が目に入った。その花束に向かってこてつがどんどんリードを引っ張って行ってしまう。


「ダメだよ、こてつ。邪魔しちゃだめだってば」

 リードを持たせてもらっていた美羽がこてつに話しかけるが、こてつは足を止めない。とうとう花束の前に座り込んで、臭いをかぎ始めてしまう。


「すいません、お邪魔してしまって」後から追い付いた由美が急いで謝る。


「いいえ、元気なワンちゃんですね。男の子ですか」妻らしき女性が聞いてくる。


「ええ、この子、意外と力があって。本当にすいません。失礼ですけど、こちらはどなたかの……?」

 由美が路上の花を見て口ごもる。


「ここは私達の娘の事故現場なんです。先月ひき逃げにあってしまって。実は今、目撃者を探しているんです。先月の今頃、この辺で不審な車を運転している人を見かけませんでしたか?」


 夫らしき男性がすがるような目で聞いてきたが、由美には記憶にない。美羽も首を横に振っていた。


「……そうですか。もし何か思い出したら、警察かこの番号に連絡してください」

 と言って手作りらしいチラシを手渡すと妻を伴って去ろうとした。そして思い出したように、

「親子でお散歩ですか? いいですね」と、少し寂しげに言った。


「いえ、この子は散歩に付き合ってくれている子で……」

 と、由美は説明しようとしたが、男性の耳にはもう入っていないようだ。羨ましげな視線を投げかけると、妻と共に信号機の向こう側へと去って行った。



 沖は深夜勤務明けの疲労感に包まれながら、帰り支度をしていた。ホテルはチェックアウト目前の時間帯。客も従業員もあわただしさが漂っている。


 帰る前にフロアのゴミを出しておこうか。今が一番忙しい時間だろうから、ひと手間省けるだけでも違うだろう。


 もうすっかり習慣になっているゴミの始末を今日も手伝って、指定されている場所へと運んで行く。いつも何かと気を使ってくれている人たちへの心づかいである。


 ところが今は使われていない、物置代わりの部屋の扉が何故かわずかに開いている。何やら人の話し声も聞こえて来た。


 今朝の見回りでは何の異常もなかったのだが。


 声の方へ行こうとして、今自分は私服で無線を持っていない事を思い出した。 個人の荷物や携帯電話もロッカーにしまったままだ。


 これで何かあったら妻子を泣かせるな。


 そんな縁起でもない事が頭をよぎると同時に、その娘がすでにこの世に居ない事を思い出してしまう。


 沖はやや無謀な気持ちになって、声のする方へと向かって行った。


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