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結局映画をあきらめたうえ、何故か真柴組に少女を連れ帰り、組中の視線を集めながら御子は少女に食事を取らせていた。組長はまだ帰っていない。少女は猛烈な勢いで食べている。
「あなた、名前は?」食事に専念する少女に御子が聞く。
「みう。美しいに羽って字」美羽は口いっぱいに頬張りながら答える。
「苗字は?」御子は辛抱ずよく聞く。
「忘れた。……おかわり!」美羽は目の前に居るハルオに元気いっぱいに茶碗を差し出す。
「お、おい、もうよ、四杯目だぞ。は、腹を壊すんじゃないのか?」ハルオが聞く。
「平気よ。あたし食べためるのには慣れてるから。その代わり三、四日水だけで過ごせちゃうんだ。食べられる時に食べておかなくちゃ。……くれるの? くれないの?」
「食べさせてやって」
御子の一言で、ハルオはおかわりをよそってやる。すると美羽はひったくるように茶碗を受け取り、また猛烈な勢いで食べ始めた。
少しは落ち着いたのか美羽は周りをぐるりと見回すと
「なんだあ。やくざの家って言うからすっごい所かと思ったら、随分ちんけなんだな」
と、食べるだけ食べておいて勝手な事を言う。
すっかり食事を平らげると「じゃ、あたし帰るね」と言って席を立った。
「帰るって何処へ?」御子が疑わしそうに聞く。
「いいじゃん、何処でも。大丈夫、明日学校にはちゃんと行くから。文句と苦情は学校に言っといて。警察に言ったって大して取り合わないと思うよ。じゃあね」出て行こうとする美羽に
「だめよ、今日はここに泊まりなさい」と、御子は命令した。美羽はキョトンとしている。
「家に帰らなくていいの?」美羽が聞いた。
「今日のところはいいわ。明日はちゃんと学校へ行くこと。そのバッグの中にあるロッカーのカギ、制服とかそこに置いているんでしょう? 取って来てあげるからこっちによこしなさい」
美羽は少し戸惑うそぶりを見せたが、「結構鋭いんだな」と言いつつ、鍵を渡した。
「とりあえず食器を洗ってお風呂に入りなさい。ハルオ、悪いけどこの子にお風呂の場所を教えてやって。……ちょっと、あんた達! いつまで覗いてんのよ!」
柱の陰から好奇心むき出しで覗く組員達を御子は怒鳴りつけた。
「おばさん変わってるね。ここもずいぶん変わってるけど。いいの? あたしみたいなのにかかわると、ろくなこと、ないかもよ」
こそこそと退散する組員達を横目に、食器を洗いながら美羽が聞いてくる。
もう十分にろくな事になってない。御子はそう思いながらも口にはしないでおいた。あんまり口を開くと、この子のペースに巻き込まれてしまう。
「まあ、いいか。ここにはあのイケメンさんもいるし。おばさん、あたしのことしっかり見はっておかないと、あたしが夜這いをかけちゃうぞ。……で、お風呂、何処?」
沸騰寸前になっている御子をしり目に、美羽はハルオを連れて出て行った。