16
それからしばらくしたある日の仲居の休息所で、礼似と御子は気の抜けた気分を味わっていた。
「で、美羽はその後どうなるの?」礼似が聞いた。
「わき腹のあざが決定的な証拠って事で、親は書類送検。美羽は施設に入る事になったわ」御子が答える。
「やっぱりそれがいいんでしょうね。あーあ。後味悪いなあ」礼似がうんざりした声を上げる。
「でも、沖夫婦がこれからの美羽を支えてくれるかも」
「でも、あの夫婦も実の娘を無くしたばかりじゃないの。気持ちはそうそう切り替わらないわよ」
「それは美羽も同じよ。実の親から受けた心の傷がそう簡単に癒えるとも思えない。でも前よりずっと前向きな気持ちになってる。あの夫婦にもきっと美羽の存在が意味を持ってくると思う。あの時沖さんは命懸けで美羽を守ろうとしたんだからね」
「沖さんが先々その気になっても、両親が親権を手放さなかったら?」
「戸籍だけが親子じゃないわよ。今度の件はお互いに支えになったはずだし、それに」
「それに?」
「沖さんさえその気になってくれれば、うちで親に交渉するわよ。いろーんな手を使ってね」
「それって脅しをかけるっていうんじゃないの?」礼似があきれながら言う。
「別にうちは教育施設じゃありませんから。むしろ、こっちが本業」
「真柴組って、あんた達の代で看板掛け替えるかと思ったけど、どうやらそうでもなさそうね」礼似が笑いながら言う。
「大事な看板、そう簡単に下ろしてたまるもんですか」御子もつられて笑ってしまう。
二人で笑いあった後、御子が寂しそうに言う。
「土間は忙しくなりそうね。やっぱり仲居は辞めるのかしら?」
「仕方ないわよね。組長がそうそう組を開けるのはやっぱり……」
礼似がそう言いかけた時、いきなり部屋のドアが開いた。
「ああ、どうやら間にあったわね。さあ、仕事仕事」と、土間がバタバタと入ってきた。
「土間? 仲居は辞めるんじゃ無かったの?」驚いた礼似が聞く。
「誰がそんな事言ったの? あんな連中と膝つき合わせていたら、頭にカビが生えるんだってば! まったく、仲居とドマンナの仕事が無かったら、やってられないわ。組長なんて!」と、おなじみのセリフを言っている。
「……また幹部ともめてるの?」御子があきれて聞く。
「もめてるんじゃないわ。意見が合わないだけよ。こっちだって遠慮なんかしないわ。トコトン話を詰めてやる。でも今は仕事よ! 仕事!」
そんな土間を見ながら礼似と御子は顔を見合わせると
「元組長さんも、当分苦労させられそうね」と、こっそり笑いあったのである。
完