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安易な断罪にご用心

掲載日:2026/07/05

「悪役令嬢は現れませんでした」の後始末。


「この馬鹿息子が!!」

苦虫を噛み潰したような顔で父が怒鳴った。


「しかし、朝比奈は分家です。本家ほどの家格ではありません。それに比べ彼女の家なら我が家の家格も上がり、新たな事業展開も望めます。容姿端麗、頭脳明晰。自分に敵対した者にすら慈悲を持つ女性です」


「それが、どうした」


「父上。考えてもみてください。卒業パーティーという社交界への第一歩を放り出すような女ですよ。そんな者に我が家を任せられますか」


父は深く息を吐いた。


「……お前は本当に何も見えておらん」

「え?」

「朝比奈は、あの会場にいた」

「え?」

「父親がいたんだぞ?娘がいない訳がない」

「え?」

「お前が勝手に〝悪役令嬢は来ない‘’と思い込み、名前も顔も確かめもせず騒ぎ立てただけだ!」


一瞬、意味が分からなかった。


「お前が潰したのは縁談の話だけじゃない」

「……え?」

「これで我が社と東央の縁は切れた」

「な…んで?」

「東央からすべての取引見直しの連絡が入った」

「…そんな、彼女は、ただの……」

 父は無言で端末を投げるように差し出した。

「見ろ」

 画面いっぱいに赤い数字が並んでいた。

 株価は一直線に落ち、売り注文が画面を埋め尽くしている。


「ですが、朝比奈家は……」

「ハァー……」

 父は額を押さえ、ゆっくりと首を振った。

「朝比奈家が鷹司家の分家筆頭であることくらい、社交界では常識だ」


「その朝比奈の姫を、鷹司家のご当主がどれほど可愛がっているか、お前は知らなかったのか?」


「しかも、まだ婚約者はいなかった」


「その好機を、お前は自分の手で捨てた」


 父は静かに息子を見据えた。


「朝比奈の姫に手を出せば、鷹司家を敵に回す。それすら読めなかったのか。」

 そして父は、後ろに控える令嬢へ視線を向ける。


「傾いた家になど、何の価値がある」

 その言葉に彼女の肩が小さく震えた。


 続いて彼女の両親が前へ出る。

「お前は育てた恩を仇で返す気か! 今日のために、わざわざ桐院様がお越しくださっていたというのに!」 


「先程のお前たちの振る舞いをご覧になり、『真実の愛には勝てない』と婚約解消を申し出られた」


「あの縁談がどれほど苦労して取り付けたものか、お前は分かっているのか!」


 彼女の父親は拳を震わせる。


「祖父の代からの縁を頼り、ようやく結んだ婚約だった。それを、お前たちは一瞬で壊した」

 彼女の父は静かに告げた。

「勘当だ」

 冷たい一言だった。

「その男と”真実の愛”でも貫くがいい」


「待って、お父様。そんな……ワタクシ、そんなつもりは……」

「桐院様にもう一度お会いできたら、この誤解はきっと解けます!」

「そうよ、きっと桐院様なら分かってくださいます!」


「もう、遅い」

 静かに彼女の両親は踵を返した。


「違うのです! ワタクシは彼に頼まれただけです!」

「ワタクシは悪くありません!」

「桐院様は、きっとワタクシを信じてくださいます!」

「ワタクシは……選ばれる人間ですもの」

「ねぇ、お父様! 聞いてください、お父様!!」

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― 新着の感想 ―
断罪にスカッとしました〜!! アホ息子とアホ娘。 そして桐院という名前の名家。 彼はここのご令息なのですな!? タル抜きさん。 さっぱりと勘当されて、株価暴落。 スッキリ爽快でしたー!
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