安易な断罪にご用心
「悪役令嬢は現れませんでした」の後始末。
「この馬鹿息子が!!」
苦虫を噛み潰したような顔で父が怒鳴った。
「しかし、朝比奈は分家です。本家ほどの家格ではありません。それに比べ彼女の家なら我が家の家格も上がり、新たな事業展開も望めます。容姿端麗、頭脳明晰。自分に敵対した者にすら慈悲を持つ女性です」
「それが、どうした」
「父上。考えてもみてください。卒業パーティーという社交界への第一歩を放り出すような女ですよ。そんな者に我が家を任せられますか」
父は深く息を吐いた。
「……お前は本当に何も見えておらん」
「え?」
「朝比奈は、あの会場にいた」
「え?」
「父親がいたんだぞ?娘がいない訳がない」
「え?」
「お前が勝手に〝悪役令嬢は来ない‘’と思い込み、名前も顔も確かめもせず騒ぎ立てただけだ!」
一瞬、意味が分からなかった。
「お前が潰したのは縁談の話だけじゃない」
「……え?」
「これで我が社と東央の縁は切れた」
「な…んで?」
「東央からすべての取引見直しの連絡が入った」
「…そんな、彼女は、ただの……」
父は無言で端末を投げるように差し出した。
「見ろ」
画面いっぱいに赤い数字が並んでいた。
株価は一直線に落ち、売り注文が画面を埋め尽くしている。
「ですが、朝比奈家は……」
「ハァー……」
父は額を押さえ、ゆっくりと首を振った。
「朝比奈家が鷹司家の分家筆頭であることくらい、社交界では常識だ」
「その朝比奈の姫を、鷹司家のご当主がどれほど可愛がっているか、お前は知らなかったのか?」
「しかも、まだ婚約者はいなかった」
「その好機を、お前は自分の手で捨てた」
父は静かに息子を見据えた。
「朝比奈の姫に手を出せば、鷹司家を敵に回す。それすら読めなかったのか。」
そして父は、後ろに控える令嬢へ視線を向ける。
「傾いた家になど、何の価値がある」
その言葉に彼女の肩が小さく震えた。
続いて彼女の両親が前へ出る。
「お前は育てた恩を仇で返す気か! 今日のために、わざわざ桐院様がお越しくださっていたというのに!」
「先程のお前たちの振る舞いをご覧になり、『真実の愛には勝てない』と婚約解消を申し出られた」
「あの縁談がどれほど苦労して取り付けたものか、お前は分かっているのか!」
彼女の父親は拳を震わせる。
「祖父の代からの縁を頼り、ようやく結んだ婚約だった。それを、お前たちは一瞬で壊した」
彼女の父は静かに告げた。
「勘当だ」
冷たい一言だった。
「その男と”真実の愛”でも貫くがいい」
「待って、お父様。そんな……ワタクシ、そんなつもりは……」
「桐院様にもう一度お会いできたら、この誤解はきっと解けます!」
「そうよ、きっと桐院様なら分かってくださいます!」
「もう、遅い」
静かに彼女の両親は踵を返した。
「違うのです! ワタクシは彼に頼まれただけです!」
「ワタクシは悪くありません!」
「桐院様は、きっとワタクシを信じてくださいます!」
「ワタクシは……選ばれる人間ですもの」
「ねぇ、お父様! 聞いてください、お父様!!」
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