短編
注文から5分経った。
メニューが画面いっぱいに赤く光る。
クーラーからは涼しい風が出るが、目の前のフライヤーから出る熱気が額から汗を出させる。
口元はマスクをつけているせいで空気性も悪く蒸れる。
「ほらー、注文が溜まってるぞー。頑張れ頑張れ。」
同じバイト仲間の健二がエールを送ってくれる。
「マジで今日人が多すぎるってー」
俺は文句を言いながら手を動かすが、一向に注文の量が減っている気がしない。
土曜日の夕方ごろはいつも混んでいるが今日は特に人多いからか、注文される量が多く捌き切れていなかった。
「早く帰りたいな...」
回転寿司のバックヤードにあるフライヤーの前で、俺は今日も誰にも聞こえない声で嘆いていた。
午後22時。
「やっと終わったなー」
俺は健二と更衣室で気怠げに酢の匂いが染み付いたエプロンから私服へ着替えていた。
「ことあとご飯でも行く?」
「そうだな、近くのラーメン屋でも行こうぜ」
健二の提案に乗り、ラーメン屋に俺らは向かった。
ラーメン魚塩。
ここは俺達の行きつけのラーメン屋。
塩ベースに魚の出汁が入ったスープに、鳥の燻製が乗ったあっさりしたラーメンだ。
店はいかにも家系のチェーン店のような雰囲気だ。
俺達は、そのラーメンとチャーハンのセットを頼んだ。
「俺、次の給料入ったらゲーミングチェア買うんだよ」
「いいじゃん、前に机買ってたもんな」
健二は、自前のパソコンがありその周りの環境を良くするために机やイスなど買うことが多い。
「パソコンゲーも買いたいゲーム増えたんだよな。3対3のシューティングバトルの『ガンマッチオンライン』ってやつなんだけどさ。知ってる?」
「名前だけ知ってるわ。最近、配信者がやってるの見かけるわ。まー、俺が見てる人はしてないから何も知らんけどな」
健二がゲームの話をふる。
俺はスマホのアプリゲーム以外ほとんどしない。
PCゲームや携帯ゲーム機の情報は、動画で見ている配信者からしか情報を得ていなかったから何も知らない。
「何か一緒にゲームしよ」
健二がゲーム誘ってくる。
「いいけど、何する?」
「昔、タブさんがしてた森の謎を解きながらサバイバルするやつは?」
「あー、あれな。それでもいいな。」
「やろ、また今度買っとけよ」
同じような会話を前にも似たような話をしたが、結局は買わないし遊ばない。
恒例行事みたいなものだ。
「隆史はなんか買いたいものある?」
「特にないな、買うとしても漫画とかラノベぐらいかな」
高校生になってバイトしてお金が増えたのはいいが、結局俺のやっていることは変わらない。
友達とご飯食べて、漫画やラノベを読んで、アニメを見る。
基本的に大金を使うようなことをしない。
欲しいものもない。
だから俺は、最近バイトしてる意味あるのだろうかと考えることが増えた。
頑張ってバイトしてもお金は増えてもやりたいことがないから溜まっていく一方だ。
バイトをする時間を趣味の時間に当てた方が有意義な時間を過ごせる気がした。
そんな話をしているとラーメンが席に届いた。
そのあとは特に長話しすることもなくラーメンを食べ終わり、それぞれの帰路についた。
月が雲が隠れて暗い中、自転車のライトだけで夜道をゆっくり漕ぐ。
俺はなんとために働いているのか。
小学生や中学生の時はお金があれば何でもできると思っていたが、別に俺はたくさんのお金をかけて使いたいことがない。
ある人はバイクを。
またある人はパソコンやゲーム。
それに対して俺は、漫画や小説、YouTubeやアニメを見ることが趣味だ。
だから、お金はほかの人と比べて使う量はとても少ない。
「バイト辞めようかな...」
独り言が誰もいない夜に響いた。
それから俺は家族やほかの友達から欲しいものややりたい事を聞きまわった。
みんなやっぱり欲しいものや遊ぶのにお金が必要だからバイトをしているみたいだった。
確かに遊ぶためにはお金が必要だ。
でも俺はほかの人と比べて遊ぶ頻度が少ない。
だって一人の時間も必要なんだよな。
だって趣味がアニメとかYouTube見たり漫画や小説を読むことだぞ。
とりあえずさ、何が正解とかわからないけど結局答えは自分でしか見つけられないと思った。
ほかの人がその答えが正解でも、人それぞれ価値観や考え方が違うから結局自分には合っていないなんてことがあるんだよ。
あの後、結局俺は俺なりに答えを出してバイトをやめたがそれが正解だった気がする。
バイトをやめた後はその時間を趣味に使った。
また必要になったらバイトをすればいい。
あれから6年たったがバイトをやめていてよかったと思う。
何か変わるきっかけとかあったらよかったんだがそんなものは現実には存在しなかった。
決めるのは自分だ。
このバイトの話はこれからの自分の生き方につながる気がするんだ。
これから自分のことをもっと理解して何が自分にとって大切で何が必要でないかを考えてそれに合った生き方をしていくんだ。
それがたとえ世間から悪く見えてもいい。
多分そう見えるってことはそれだけ世間と乖離している自分は変わった人間なんだろう。
世間に合わせてたら人生楽しめそうにないし俺はこれでいい。
最後に、これを見ている人がこれからどうやって生きていくかは知らないが、俺はみんなが今後の人生がこれまで以上に楽しめることを心から願っている。
俺はキーボードから手を放し、マウスを手に取りパソコンを操作する。
電源を落として硬いパイプの背もたれに体を預け、小さなレオパレスの部屋でボソッと言った。
「これ小説になってるんか?」




