55_やったんで
今日はもともとみんなですき焼きを食べる予定になっていた。日本人満場一致のすき焼きである。
あれから小野田くんは、ジョールさんの監視下に置かれることとなった。
小野田くんは在宅ワーカーと言っていたが、自宅で行っていたのはプログラミング開発だった。だからポルタブル会社でも活躍できたのだそう。
事件以降は、シーさんが小野田くんの監視者として選ばれていた。
通りでシーさんと小野田君が一緒にいるところをよく見かけるわけや。私は内心2人ができているのかと思っていた。
「ジョールさん、これであの医療魔道具の件は何とかしてくれるってことですよね。」
シーさんもちゃっかりしている。ジョールさんとの交渉として仕事を引き受けていたようだ。
きよさんの浮遊魔法で大鍋のすき焼きが運ばれてくる。頭の上にお皿と卵まで乗っけている。
いよいよ来ました。念願のすき焼き!!!
椎茸に豆腐ネギ、牛肉、にんじん、はんぺん、白菜、菊菜、それが出汁の効いた甘辛いタレに浸っている。
全員で器に卵を割り入れる。大人6人が揃って、生卵を必死に混ぜる姿は少しシュール。
ふと小野田くんを見ると、やっぱり日本人にしか思えない。
今までの僕わかりませんって言う態度は何だったのか。彼はなかなかの演技派や。
「気を抜いて食べられたのは本当に久しぶりです。改めて、皆さんご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「小野田、この国の文化に馴染もうじゃないか。迷惑はかけ合いだ。」
「そうよ~。これは私たちがこの国で学んで1番よかったかもことかもね~。」
「でも小野田くん。それだけ日本人なのに、気づかれてないっていうのは無理がありますよ。」
「っふは。やっぱ染み付いたものはなくならないね~」
ほんまにそう思う、全然抜けへん。ということで、お待ちかねのすき焼きを食べていく。
私はもちろん、はんぺんから。
イブさんは長ネギ、桜さんはしいたけ、残りの3人はおいしそうな牛肉をつかんでいる。
次はお肉を食べることを決める。
『いただきます!』
とろとろのはんぺんから染み出てくるすき焼きのタレがたまらない。あっという間にとろっと喉の奥に流れていってしまった。生卵がよく絡んでいる。
次は主役の牛肉を取る。これは地元〇〇牛顔負けの霜降り肉。こんな贅沢をしてもいいんやろうか。
大将が得意げに笑っている。
すき焼きの締めは、桜さんお手製のうどんとなった。
今回の報告に向けて、桜さんの中でストレスが多く溜まっていたのかもしれない。今の趣味は、手打ちそばと手打ちうどんらしい。
何が打ちこまれているのか、深く考えないようにして食べる。コシあってめっちゃおいしい。
シン王国のスパイの存在が公開されたことでポルタブルの使用は禁止され、国産製品であるオレイユに移行していった。小野田くん以外にも、スパイは複数いたのだ。
もちろんポルタブルの営業所は、軒並み引き上げていく。小野田くんの同僚は、唐揚げが食べられなくなるのが残念だ、と言いながら帰国したそう。
小野田くんは日本食の推進活動を秘かにしていた。日本人やないか。
一大企業を撤退させるということは、シン王国との関係がまた1つ冷え込むことにつながる。防衛省と魔法省からも警戒の通知が出された。
これからは、許可が出た「就学前教育の拡充」と「特別支援教育」の全国展開と少人数学級化。もちろん研修も随時行っていく。
忙しくなるなあ。
ジャム共和国のかけがえのない命を犠牲にして、生まれたことを無駄にはしない。これは、私だけじゃなく転生者それぞれが決意したことやと思う。




