04_言葉がずっと同じってありがたいよな
算数の授業が終われば、語学だ。
その前に子どもたちのために短い休憩とる。
この世界の小学校はまとまった休憩が30分あるだけで、こまめな休み時間はない。
自由に教員が設定できるが、そのせいで子どもたちに大きな待ち時間が発生するクラスもある。
窓の外を見ると、授業時間にもかかわらず、堂々と朝ごはんを食べている教員がいる。オーク族のジョング先生だ。
授業時間を守りましょう、と言っても聞いたためしがない。
その間の子どもたち?教室で演習問題をしていればいい方で、何もせずちーんと待っていることが多い。かわいそう!
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私は5分の休みを設けて、自由に過ごすように伝えている。
最近、サキュバス族のサールさんが生み出した空中絵しりとりがはやっている。
空中に、各自の得意な魔法で絵をかき、それをつなげていく遊びだ。
魔法の維持や精度の練習になるから、サールさんには感謝している。
「よく見ててよ!ぼく少ししか見せられないんだ」
パシュッ
『一瞬すぎるよ~』『見えない見えない』『なんか丸かった!』
雪族で雪男のファールくんは、本当に少ししか魔法の形を維持できない。
でも、私には細部までよく考えられたボールが見えた。
ファールくん、縫い目まで精密に想像してるから、そりゃ維持はむずかしいわ。
次の魔法授業で、魔法の維持時間とイメージ化の相関関係も少し盛り込もう。
休憩の間にも、トラブルがないか、危ないことはないか、悲しい思いをしている子どもがいないかをよくチェックしながら過ごす。
隣で説明しながら、絵を描いている女の子たちがとてもかわいい。
「複製魔法の物体は、魔力で生み出してるから魔力がないと維持できないよ」
「いや、元にするものがあったら、大丈夫だよ。あれ?それを魔法で作ったらどうなるんだろ」
ぬりかべ族の佐々木さんとドワーフ族のシセさんは、複製魔法について口論になっている。
たまに、私に意見を求めてくる。
子どもたちのこの好奇心が、魔法をどんどん面白いものにするんだろうな、と思いながら答える。
日本にいた頃、休み時間は宿題チェックに追われて、ろくに子どもたちの話を聞けなかった。
せっかくお話ができたと思ったら、次の授業の準備をしなくちゃいけない。
こんなに子どもたちとかかわれる、この時間は絶対なくしたくない。
それにしても、やっぱり種族間の言語の差は大きい。
第3学年になっても公用語を自由に話すのは難しく、似た種族の子どもたち同士で集まりやすい。
そろそろ時間だ。
どこに行っていたのか、炎狐族のとどろき先生が校庭を歩いている。
授業時間に朝ごはんを食べるだけじゃなく、所用で頻繁に学校を抜ける教員もいる。
ポルタブルといわれる、日本でいうスマホもよく触っている。
子どもたちは、持ち込み禁止だ。
私のタルタール語の授業は、物語の読み聞かせから。
「昔々あるところに~~」
子どもたちが真剣に見つめる姿が、本当にかわいらしい。
読み終わった後は、出てきた単語や新しく習った文字を確認しながら、物語の内容を振り返っていく。
使っている文法は、次回の内容だ。
「アジャちゃんが、おつかいに行ったのは、お母さんがお昼ご飯に使うバターがなかったからだよ」
「違うよ、こしょうだよ。」
「えっ?お父さんに頼まれてなかったっけ?」
公用語で行う授業は、普段民族語を話している家の子どもたちにとって、かなり難しい。
気づくと、よくわからない物語が子どもたちの頭の中で繰り広げられている。
日本では、家庭でも学校でも同じ言語を話していることで、どれほど理解につながっていたかを実感する。
分かっていなかったことを確認しながら、絵にかいて物語を整理する。
こういう時は、魔法で情景を表すのが楽だ。
氷魔法や植物魔法を使いながら、おつかいの絵を表していく。
そして、描いた後はそのまま黒板に貼りつけるのだ。
絵しりとり好きの子どもたちが、うっとりした顔で見ているが、内容は頭に入っているんだろうか。
絵を描く技法の方に集中しているんだろう。それすらもかわいい。
給食がないこの世界では、お昼前には帰る。
まだ授業時間なのに、ケンタウロス族のバー先生が帰っているのが見える。
授業時間やぞ!!




