37_帰りは歩いて帰るねん
絶対寿司を食べると決めていた。というかむしろ、今まで食べてなかった方が驚きである。
「いらっしゃいませ~」
ああ、帰ってきたあああああああ。ホームや、故郷や。心の拠り所や~
きよさんにドン引きされつつも、あついハグをかましながらカウンター席にどっと座る。大将の視線も心なしか生あたたかい。
このハグを自然にかませる感じ、いよいよ私はジャム人になっているのかもしれない。
「寿司の特上盛りとほうじ茶濃いめで!」
うん、純日本人。
「あと季節の天ぷらにハマグリの赤だしをお願いします!」
ばりばりの日本人。
食の好みが日本人の域から全く出ていないことを教えてくれる。まあ、味覚はしゃあないよな!
「そういえば、日本酒入荷しましたよ~」
なんやて!?どうやって!?誰からの要望!?
「シーさんからです。アルコールメニューお持ちしますね」
シーさんあなた、いける口やのね、感謝合掌。
きよさんから受け取ったメニューの中でも、キラキラ輝く新しい日本酒欄をじっくり眺める。甘口か辛口か、なんと度数までご丁寧に書いてくれている。
「いらっしゃいませ~」
噂をすればシーさん、小野田くんの2人が入ってきた。小野田くんすっかり日本人になって。2人は店の前で偶然会ったらしい。
「あ、お疲れさまです!シーさん日本酒ナイスすぎます。」
「アビ、おかえりなさい。嬉しいですよね!やっと実現しました。」
「お久しぶりです、アビさん。」
即座にシーさんに日本酒のお礼を伝えると、嬉しそうにメニューを見ていた。もう全種類吞んだらしい。
「で、トゥーバはどうだった?」
いかに研修開催者が頑張ったかを熱弁しているうちに、頼んでいた品々が仕上がったようだった。
シーさんは日本酒に合わせて白身魚の煮物御膳。小野田くんにはカツ丼とミニそばセットをおすすめしてみた。
自分がうどんもそばもまだ食べられてないからである。人のご飯を見て自分が次に食べたいものを決め始める。よくない。
大安定の浮遊魔法と頭のお皿を使った配膳術で、きよさんはそれぞれの前にごちそうを置いてくれる。
『いただきます!』
まずは大好物の赤だしから。大将お手製、だしのきいた赤味噌の旨みが鼻を通り抜ける。生きててよかった。
近くの海でとれたハマグリのぷりぷり加減といったら、もう。
汁だけで終わるわけにはいかないので、早速大本命の寿司。どれから食べるか悩むが、私はいつも白身から。ワサビをのせて、醤油へワイルドイン!
無人島に行くなら何を持っていく?と聞かれたら、醤油を選ぶほど醤油ラバーな私は、申し訳ないがたっぷりつけさせていただく。魚の旨みは、醤油とのコラボレーションの中で感じたい。
ああ~~~~~~~たまらん。止まらない私は、イカからの鉄火巻きへの生エビ、赤貝。ラストはウニ。
もちろん冷める前に、天ぷらもはさんでいく。茄子のとろっと感に、ぷりぷりのエビ天。天つゆに追加した薬味のショウガが効いてる。
合間に飲むほうじ茶の豊潤な風味に、全ての味覚がより研ぎ澄まされる。一息つくことで、大切なものを忘れていたことに気づき、きよさんを呼ぶ。
「茶碗蒸し1つお願いします。」
「私も」「僕も」
「3つですね、かしこまりました。」
それぞれが夢中になって食べていたが、やっぱり聞きのがさない。いや、聞き逃せない。
今までそれでどれほどの美味に出会って、体重を増やしてきたかわからない。飛べなくなってもええねん、自分に浮遊魔法かけるから。
幸せな夜ご飯で、全ての疲れが飛んでいったような気がした。




