01_少しくらいスキルくれてもええやん
「うちの息子が嘘をついていると言うんですね!?
あなた方学校の理解がないせいでこんな時間にもなって、どう責任をとるつもりなんですか!?」
担任している子の母親が、職員室の前にある応接室で叫んでいる。
向かい合って座っている私、学年主任、教頭は、何度目かわからない説明を繰り返す。
担任である私は自分のクラスだけでなく、他のクラスや学年の子どもたちへの聞き込みも行った。
その上で、あなたの子どもが引き起こしたことだと、何度も説明してきた。
事実確認をした学年主任もフォローに入ってくれた。
この手の親には、それが受けいれられない。
子ども自身も親が怖く、嘘を訂正することができない。
学年主任も教頭も話をしてくれ、味方になってくれたが守りようがない。
校長はどこに行ったのか、あの校長はいつもこうらしい。
—— 深夜になった車での帰り道。
一方的に罵られ話し合いにもならなかった、あの時間を思い出してぼーっとしてしまう。
それでも、積みあがったタスクが頭をかけめぐる。
授業の準備が途中やし帰ったら、終わらせよう。
そういえば、頼まれてた学校安全の書類、〆切いつまでやったっけ。
深夜の仕事帰りの運転は、あれほど怖いと思っていたのに。
何連勤したかわからない頭は、気づいたら川に突っ込んでいた。
脚が抜けない!つぶれた車体に挟まっている。
こんなに水が入ってくるのが早いんか。
この川、子どもたちの安全のために柵をつけようって話がこれで進むかもなあ。
最後に考えたのは、なぜかこれだった。
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そんな私が生まれなおしたのは、ジャム共和国という国だった。
奇抜な髪色、肌の色、色々な種族に異なる言語が入り混じる多民族国家だ。
「お母さん!いつまで寝てんねーん!
仕込み朝からしたいって言うとったやろ。
お父さーん。仕事始まるって!私もやばいやばい」
この世界の人たちはどうもゆっくりしている。
とは言いつつ、私もここは一番適応した。
遅刻は当たり前。
その分、周りにも寛容なこの世界が、私には心地いいような、困るような生活。
急いで見た全身鏡に映るのは、オレンジの肌に編み込んだ黒い髪の毛。
手足はすらっと長く、黄色の羽が生えている。
顔は、あの有名なア〇ターさながら。
いつ見ても不思議な見た目。
奇抜な見た目と特殊な体に負けない服を着て、急いで下に飛び降りる。
広がった羽で受け止める風の抵抗と、抜けていく風の心地よさは、この体でよかったと感じる一番の理由だ。
日本でいう不死鳥族らしい。
「アビは、ほんまに早起きやな~」
赤みがかったオレンジが似合うこの世界の母。
昨日言ってた仕込みはどこへやら、朝からゆっくり過ごしている。
「これでも遅い方やねんて。もっとはよ起きたいなって思てんのやけどな~」
作り置きしたおにぎりを解凍しながら、思ってもないことを応える。
いつまでも寝ていたいでしかない。
教員になる前もなってからも、ここは変わらない。
なんなら、日本にいた時からそうだ。
この世界のゆったりさに負けないように、自分に言い聞かせる。
葉に包まれたおにぎりは、私のお手製。
氷魔法で凍らせたおにぎりの周りに、炎魔法を当ててじっくり溶かしていく。
自分でも驚いたが、思ったより和食が好きらしい。
地方の町から来たという日本と同じ形のお米を使って、週末に作り置きしている。
この世界に来たときは、本当に驚いた。
みんな自然に魔法を使っているから。
とはいっても、全員が全ての魔法が使えるわけじゃないから、魔法を仕込んだ生活用品が街中で売られている。
私は教師として、全属性の基礎魔法と風魔法の1級まで取得している。
得意な魔法はいいとして、他の魔法がなかなか難しく、学生時代は本当に苦労した。
異世界に来たら、もっと特別な力をもっているのかと期待したが、特にそんなものはなかった。どこに行っても、現実は厳しいらしい。
昨日のうちに作っておいた今日の授業で使う教材を持って家を出た。




