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バトルステーツ・オンライン〜若き番のゲーマー、世界へ羽ばたく〜  作者: 騎士誠一郎
義人と美浦のドキドキ職場体験!〜Featuringミッドナイトトレイン・ジャック〜
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EP38 墓参りと新たなメンバー

プレオープンイベントが盛り上がる中、美浦の親戚を語る滝坂が襲撃。

しかし、美浦ご自慢のテコンドーで見事撃退!

エリート主義が崩壊していく……。

数分後、滝坂たちは警察に威力業務妨害未遂の現行犯として取り押さえられた。


「離せ!! 俺は被害者なんだよ!! 逮捕するなら、この女も暴行罪で捕まえろよ……!!」


 涙と怒りで顔をくしゃくしゃにしながら暴れる。


「こんな……キラキラした時代なんて……終わってしまえぇ!!」


 最後まで、声を張り上げて。


 そして滝坂は、パトカーの奥へ消えた。


「自業自得です!」


 美浦が凛とした声で告げる。

 その一言が、店内に張りつめた緊張の幕を下ろした。


 しかし──落着は一時的なものに過ぎなかった。



---


「セキュリティ面、完全に考えが甘かったな……」


 神谷は厨房の隅で深く息をついた。


 最新AI搭載の監視カメラを導入していなかった。

 この時代、犯罪予兆を検知するAIは常識。

 中小の店でさえ、大手IT・オランジュリーコンピュータープロダクツ製カメラは“暗黙必須”。


 過去には、転売目的の中国人客が個人店で店主を殺害し放火する事件も起きている。


「……明日がグランドオープン。今日のうちに強化するしかない」


「取り敢えず、君たちはあがっていい。準備を見直す」


「「お疲れ様でした!」」


 二人は私服へ着替え、シェアサイクルにまたがった。


 目指す場所は──

 美浦の両親が眠る墓。



---


「なぁ、美浦の両親って……どんな人だったんだ?」


「パパはね、ちょっと怖いけど、すぐ照れる優しい人。

 ママはモデルとしては厳しいけど、普段は料理上手で……あったかいの」


 その話を聞きながら義人は胸が詰まった。

 こんな家庭に生まれた美浦が“教育虐待”を受けた──

 その残酷さが、心を刺す。


「でも、よしくんのおかげでここまで来たし、テコンドー部のキャプテンも務められてる!」


「……そうだな。墓参り終わったらホテルに戻ろう。部員たちと体育祭の練習もしないと」


「あっ、忘れてた……!」


 笑い合いながら走る自転車は、夕風の中を抜けていった。



---


 霊園に着くと、静かな空気が二人を包む。

 寺院の鐘の余韻が、初夏の空に薄く残っていた。


「ただいま、パパ、ママ……」


 美浦は墓前に膝をつき、そっと手を合わせた。


 桜色の唇が震え、胸の奥に押し込んでいた想いが溢れそうになる。

 もし両親が生きていたら、自分は女優として幸せに笑えていたのか──

 そんな“もしも”が胸を刺した。


 だけど、過去は戻らない。


 美浦は知っている。

 だからこそ、今を全力で生きている。


 義人はそっと彼女を抱きしめた。


「へへ……よしくんって、あったかいな……」


 美浦の涙が、義人の肩に落ちる。


「ご両親のことは……悔しいよな。でも俺がいる。

 美浦が倒れそうになったら、何度でも支える」


 その言葉は、凍った心を溶かす炎のようだった。


「だったら……もう少し、このままでいさせて」


 美浦は、泣きながら笑った。


「パパ、ママ……!!」


 声を殺して泣き続ける娘。

 義人は何も言わず、ただ強く抱く。


「よしくん……私は……!」


「言わなくていいよ」


 その優しい遮りに、美浦はまた涙を溢す。


「ありがとう。よしくんがいると……私は大丈夫だから」


 それから美浦は義人の頬にそっと口づけた。


「大好き」


 初夏の風がふたりの距離を祝福するように吹き抜けた。



---


 ホテルに戻ると、ふたりはステラリンクを起動した。


「タイマーログアウト、2時間っと……」


「部員はチャッティアで呼んだから、あとはメタバースに入るだけ!」


 ログインした先は──

 ふくろうスクール・テコンドー部の仮想練習場。


「あっ、キャプテン! 藤宮コーチ!」


 部員たちが駆け寄ってくる。


「今日は2時間だけだが、体育祭まで時間はない。全力で行くぞ!」


「「「はい!!」」」


 各々がバーチャルバッグに向かって練習を開始する。


「その後ろ蹴り、もう少しスピード重視だな。腰の回転を早く!」


「はい!」


 義人はコーチとして熱の入った指導を続ける。


 美浦の推薦がなければ、男子が女子部を教えることはできなかっただろう。



---


「キャプテン!!」


 銀髪の少女が駆け寄ってくる。


「あなた……今年入った……」


「一宮アリサです! “有叉”って書きます!」


 元気な声が練習場に響く。

 父は日本人、母はロシア人。

 昨年の美浦のアジアカップを見て入部を決意した、期待の星。


「一宮さん、どうしたの?」


「わ、私と模擬戦してください!

 キャプテンの実力を、この目で確かめたいんです!!」


 キラキラした瞳に、美浦は微笑んだ。


「……いいよ」


「立会人は俺がやる」


 義人が中央に立つ。


「ルールは国際テコンドー連盟基準、12ポイントマッチ。

 いいな?」


「「はい!!」」


 部員たちもざわつき始めた。


「アリサちゃん、勢いあるからな……どこまでキャプテンに食いつけるのか」

「美浦キャプテンのアジアカップ、私も見てた……あれを越えたいんでしょ、アリサは」


 練習場が静まり返る。


 若き挑戦者・アリサ。

 世界を震わせた少女・美浦。


 憧れと誇りが交差する瞬間。


「──両者、構え!」


 義人の声が響く。


 そして──


二人の意地が、火花となって激突する。

次回は、美浦とアリサのテコンドー練習試合!

アリサが勝つのか、それとも……?

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