EP32 期待と陰謀は鍋でじっくりと煮込まれるように
バトルトーナメントは見事稲毛アウルズの優勝で締めくくられ、キタのおかんと他愛のないトークで和気あいあいになった。
火鍋屋でデートをする義人たちをよそに、国民共産党の「ある計画」が次の段階へと進もうとしていた。
火鍋がぐつぐつと煮え、かずおと国民共産党3幹部は会談する。
「やはり、若者向け文化は根絶するべきではないでしょうか? 女性の性的コンテンツやコスプレは女性らしくない」
対馬が言うには、男性が描いた萌えキャラやコスプレをする女性が不快で仕方なかった。
もともと、彼女はVRで性的搾取を受けた被害者であり、若者文化には徹底的に排除しないと気がすまない。
「しかし、対馬さんはやり方がいちいち派手なんですよ。慎重かつ、隠密的にやらなければSNSで炎上しますよ」
倉田はそう言いながらセンマイをつけダレに浸して口へ運ぶ。
「倉田っちマジ優しい」
「俊永ちゃん、お野菜も食べたほうが美容にいいわよ」
対馬は俊永に野菜を食べるよう進める。
「はぁーい」
「全く」
対馬は呆れ顔。
そんな3人を見たかずおは、
「今日は無礼講だ。しっかり食べて明日の英気を養おうではないか」
この場をなだめた。
「先生、今後どうされるおつもりですか?」
「そうだな……。明日池袋で開催されるワークコスプレイヤーズカーニバルを中止に追い込もう。既に私の部下が運営に中止を通告させておいた」
かずおは非番でありながらも仕事はきっちりこなしていた。
「さすがは先生、やるときはしっかりとやりますね」
「万一に備えて捨て駒を用意してある」
対馬の称賛にかずおはほくそ笑む。
「お待たせいたしました。こちら野菜セットですね」
ギャルソンが火鍋用の生野菜を持ってきた。
「会計は私が済ませよう」
かずおはブラックカードで食事代を支払う。
「さて、諸君。ブラッディ・イヴ計画についてだが?」
「現在参加する国について、各国の共産党に連絡を入れてあります。世界中の国々をどうするのですか?」
対馬は疑問に思ったことを口にした。
「世界に示すのだよ。同調こそが世界を平等にする唯一の方法であると」
そう、国民共産党はIDSCCを襲撃し、同調こそが正義であることを示す計画を企てていた。
「しかし、対馬さんが有名人の結婚式で爆破テロをしましたよね? その影響でTGBMGCの警備が強化されていると聞きます」
倉田が言うように、対馬が結婚式の爆破テロを行った影響でTGBMGCの警備体制が見直され、厳重化している。
「そこは、興行解体のみなさんがなんとかしてくれますわ。工作員の皆さんも来月には日本に到着すると見込まれます」
対馬が言うように、クルド人工作部隊が既に日本へ向けて出発しているという。
「では、此度の成功を願おう」
かずおは静かに笑った。
だが、ブラッディ・イヴ計画は、ケーニッヒ次期大統領によって白紙にされるという疎き目を見ることになる。
そして、数日後。
「もうそんな時期ね」
ふくろうスクール職員室で供花は資料をまとめ上げていた。
毎年6月上旬に行われる職場体験に向けて、受け入れる企業をリストアップしていた。
「小泉先生、稲毛アウルズが優勝したから、本校のチームがデジタル体育祭の本戦に出場できて油断してませんか?」
同期の女性教師に言われ、
「そんなんじゃないわよ!!」
顔を真っ赤にしてリストアップを続けた。
フリースクールの職場体験は、社会復帰プログラムの一環でもあるゆえ、受け入れ先を慎重に決める必要があった。
「それにしても、稲毛アウルズを受け入れたい企業や店舗の多いこと」
現在、稲毛アウルズの株価は暴騰しており、その人気にあやかりたい企業や店舗が我先と殺到していた。
「こりゃ抽選するしか無いかな? オークション的になっても困るし」
供花はこのままでは賄賂で稲毛アウルズを受け入れてほしいという輩が出るか心配だった。
そんな中、ある店舗が稲毛アウルズにオファーを出していることに気づく。
「これは、香川県のコンカフェ?」
差出人が、香川県に新しくオープンするコンセプトカフェの経営者であることに供花は気付いた。
「拝啓、ふくろうスクール様
此度はこのようなメールを出したことをお許しください。
本店は、<コスプレを身近に、世界のお給仕をあなたに>をコンセプトにした、カフェギャラリーです。
現在オープニングスタッフが規定人数いますが、稲毛アウルズのインパクトを出して本店を全国区にしたいという、私自身の野心といいますか、そんな野望を持っています。
何卒、稲毛アウルズのお力添えをさせていただきたい」
そのメールを読んだ供花は、
「香川県のコンセプトカフェギャラリーね……」
ある懸念を感じた。
それは、現在の香川県知事。
ゲーム規制条約に失敗した事をきっかけに県政が大きく傾き、知事の支持率が大幅に低下した。
それでも、規制条約が現在でも存在する。
香川発のプロゲーマーチームですらも「プロゲーマーは必要ない」といわれて解散させられた例もある。
そんな香川県の現知事は、コンセプトカフェについてどんな思いを持っているのか懸念を抱いていた。
「まぁ、取り敢えず派遣してみますか」
供花は義人と美浦を職員室に呼び出す。
「香川県のオープン予定のコンカフェ、ですか?」
義人は供花から聞いた話に首を傾げる。
「そうなのよ。ちょうど職場体験の時期だからあなた達のビジュアルとインパクトを使いたいって」
供花はそう言うとトマトジュースを一口飲む。
「香川県って、ゲーム規制条約がありますよね? 大丈夫でしょうか?」
「そこはお店の責任者がなんとかしてくれるって。寝泊まりの場所も用意してくれるそうよ」
美浦が宿泊先を心配したが、供花はそれはないと安心させてくれた。
「とにかく、来週日曜に現地へ出発して。ハワイのデートは、それとTGBMGCが終わってからよ」
供花は悪戯なウィンクをした。
「はい」
義人たちは早速下校し、帰宅の途に着いた。
「香川県のコンカフェなのか」
幸太郎は、職場体験の話を聞いて興味を引く。
「そうなんだよ。なにか情報があったら教えて欲しい」
義人は3泊4日分の着替えを準備する。
「そうだな。今の香川県は昔ほど厳しくないけど、規制条約がかかっているからね」
幸太郎からの情報に、
「コンカフェでなにか気になったことはある?」
こんな質問をする。
「今の知事は規制条約の完全撤廃を進めているけど、知事補佐が規制条約の維持とコンカフェの不要性訴えている」
幸太郎は、香川県の現情勢を義人に伝える。
「知事補佐がなんで?」
「香川に出張した同僚の話によれば、コンカフェは性的営業として排除命令を出すと訴えている」
幸太郎からもたらされた情報に、
「まぁ、気をつけるよ」
納得する義人。
義人と美浦はまだ知らない。
香川県の知事補佐は国民共産党推薦の議員であることを。
そして、「コンカフェ狩り」と呼ばれる事件に巻き込まれることを。
次回から職場体験!
美浦と義人の新たな戦いの舞台はなんと香川県!?
こうご期待!




