EP27 悪意の矛先は、常に自分たちとは無関係なところに向けられる
ワルキューレツインズとの激闘はクライマックスを迎え、互いのMAVアタックが炸裂!
見事決勝戦へと駒を進めた稲毛アウルズ。
戦いから一度離れて、幕張豊砂へ。
幕張豊砂駅前広場に到着した。
「ごめんなさい!」
「またせましたか?」
現地スタッフに声を抱える義人と美浦。
「いつでもいけますよ!」
現地スタッフたちが義人たちを暖かく出迎えた。
そう、この日は世界的トップブレイキンダンシングチームと稲毛アウルズの特別エキシビジョンマッチ。
ラブ&ブレイクで対戦するイベントで世界的に注目されている。
「しかし、まさか日本一幸せな夫婦の結婚式の余興とはいえ、俺達が呼ばれるなんてな」
「でも、幸せな瞬間に立ち会えるなんて、一生の思い出になるわ」
というのも、広場にあるホテルで人気俳優と女性声優の結婚式が執り行われている。
二人はゲーム好きのため、義人たちを余興のスペシャルゲストとして招待した。
「挙式は確か夕方からでしたよね?」
「はい。ホテルの部屋も用意しています」
現地スタッフに言われ、美浦と義人は自分たちの部屋へと行く。
使うホテルの部屋は、10階の114号室。
披露宴の会場はホテルの前にある広場を貸し切り。
部屋につくと早速荷解きを始める。
「父さんの話じゃ、幕張スタジアムでバトルトーナメントの決勝戦が行われるみたいだ」
「おじさんの粋なはからいかな?」
そう、バトルトーナメント決勝戦は幕張海浜アリーナから少し離れた幕張スタジアムで行われる。
普段は地元のプロ野球チームの拠点。
それを使って決勝戦を行うことは、Eスポーツの意義と普及に注力していることがうかがえる。
「でも、Eリーグチームに入れば、ね」
「さて、そろそろ時間が来る。美浦、準備しよう」
間もなく余興の時間が来る。
義人は持ってきた衣装が入ったキャリーを開く。
「しかし、小泉先生も粋なはからいをしてくれたな」
「それも、プロレイヤーとしてセレクトした直々のコーディネートだもんね。あ、メイクもしなきゃ!」
二人はそれぞれの衣装に着替える。
そして、着替え終わると会場へと向かう。
「さぁ、みなさん! ついに余興のお時間がやってまいりました!」
結婚式のMCがテンションを高めに叫ぶ。
このMC、実はVチューバーの「笹川ホロン」。
彼女がMCをやっているのは、新郎からのリクエストがあったらしい。
「本日の余興は新郎様と新婦様のリクエストにより、ラブ&ブレイクの特別エキシビジョンマッチです!」
ホロンがARモニターを通して指を指すと、ラブ&ブレイクのメインキャラクター「月島りゅうが」と「神埼ひとみ」のコスプレをした義人と美浦、そして対戦相手である世界トップダンスチーム「Xcellent」代表メンバーが入場した。
「HEY! お互い全力を出し切ろうぜ!」
男勝りな黒人女性が、稲毛アウルズに挨拶をする。
「こちらこそ負けません!」
義人がサムズアップで返す。
「俺達はステージゲストだ。勝ち負けを気にしないで楽しもうぜ!」
「もちろん!」
白人男性が美浦と握手をする。
「それでは、曲目は大ヒットアニメ<マジカルパンツァー・リリカル大戦機>より、日積マナさんの<特攻合体ゲキシンオー>! それでは、両チームお願いします!」
両チームがスタンバイする。
そのさなかで、悪意の矛先が既に磨きを終えていた。
幕張本郷駅前で、対馬は街頭演説を行っていた。
「私たち国民共産党は現体制では今回の参院選で不利に立つことは明確です。しかし、米国の動向は私たちの存在を脅かしているのは紛れもない事実です!」
対馬が懸命に訴える。
「すべての性的興行を根絶するためには、皆さんのお力が必要なのです! どうか、来たるべき時まで辛抱してください!」
対馬が訴える中、幕張豊砂駅前で事件は起きた。
「それでは、演目開始!」
両者が踊り始めた。
次の瞬間、新郎新婦が座っていた席が爆発を起こし、会場は騒然となった。
「何だこれは!?」
「よしくん、また国民共産党の仕業かも!?」
会場がパニックになる中、美浦と義人は冷静になって行動を取る。
数分後、警察から事情を聞き取り、二人は別のホテルへと足を運んだ。
先程起こった結婚式の爆破テロは大々的に報じられ、多くの放送局で話題となった。
「ねぇ、明日の決勝戦、ちゃんとできるかな?」
「そこは父さん達がなんとかしてくれる」
そう言いながら義人はホテル内のコンビニで弁当を購入する。
その一方で、国民共産党本部では報告会が開かれた。
「そうか、あの馬鹿夫婦を始末できたか」
「はい。部下が仕掛けたプラスチック爆弾で夫婦の死亡と会場内の客に多数の死傷者を出しました」
倉田は、かずおにそう言いながら報告書を渡す。
「やはり、若者の結婚式を潰すのは気分がいい。多様性という戯言が耳障りだ」
「先生、やはり伝統と平等こそが真実であると?」
「そのとおりだ。個性が輝く時代は終わらせなくてはならない」
倉田とかずおの会話に、
「先生、秋葉原のコンセプトカフェの件は済ませました」
対馬が割って入った。
「対馬くん、どうだったかね?」
「私の同僚が秋葉原にある修道女カフェを潰しましたよ。性的商業で徹底的に叩き潰しました。結婚式の件も倉田さんが言うように、あの男の媚びを売るような高い声を出す女は消えてもらったほうが良いかと」
対馬が毒づいている。
それを見た倉田は、
「いいんですよ。あなたは悪くない」
優しく気遣った。
「倉田さん、ありがとうね。アニメやゲームなんて、所詮私たちが滅ぼさないと増え続けるばかりで」
対馬の言葉は正しく聞こえる。
「そうだ。多様性こそが悪であり、同調こそが正義」
かずおは高らかに叫ぶ。
「倉田くん、君はTGBMGC解体に向けて準備し給え。対馬くんは立憲社会党に伝えてくれ」
「何を?」
「政府与党にわれわれの動きを悟られないように便宜を図ってほしいと」
かずおは、倉田と対馬にそれぞれ命じる。
それが2年後に起きる大事件へとつながることになる。
一方、稲毛アウルズはホテルの1室で対戦格闘ゲームをしていた。
「あーん! 負けたぁーッ!」
「やっほーい! これで3連勝!!」
大人気アーケード格闘アクション「地面師ファイターズ」。
地面師と呼ばれる犯罪者達が非合法な賭け試合をするというコンセプトの格闘ゲーム。
フルダイブ式に対応しているため、今もなお根強い人気を誇る。
ホテルの部屋に設置されたリクライニングチェア型システムを通じて遊んでいたのだ。
「もう、明日の決勝戦に間に合わなくても知らないよ?」
「そうだな。今日はこの辺にして寝よう」
二人は一緒のベッドで寝ることにした。
「えへへ、よしくんのために童貞殺しのパジャマにしました」
と、美浦は大胆に胸元が空いたパジャマで誘惑した。
「今夜は、眠れないな」
義人は腕に感じる柔らかな乳房の感触に身を委ねるしかなかった。
次回はいよいよ決勝戦!
稲毛アウルズVSキタのおかんの激闘にこうご期待!!