EP24 悪夢は必ず目覚める
ノーブレス・アンノウンの正体を突き止めた米軍の介入によってBSOの安全は守られた。
しかし、国民共産党はこれで黙っているわけではなく……?
「たった今ノーブレス・アンノウンは、不正を行ったとして運営より失格処分となりました!」
運営からの通達を読み上げるレイナ。
「これで、バウンドフィッシャーズは不戦勝。準決勝に駒を進めますね」
「ところがバッチン! リザーブ枠を用意しています!」
レイナとジョージが呑気な会話をしている中、
「「やりますか!」」
稲毛アウルズが準備を済ませた。
ヨシとはスキルと装備の確認、フォーミンはアバターの反応を確かめる。
「よし!」
「何時でもバッチリ!」
稲毛アウルズがコロシアム内に入る。
この上ない大歓声と熱狂が巻き起こる。
「さぁ! いよいよこの時が来ました!」
「稲毛アウルズと新潟米っとの激闘、ですね」
ジョージも期待で胸を高鳴らせる。
その様子を、かずおはモニターしていた。
「アンノウンは失敗だったが、保険をかけておいて正解だった」
かずおの一言に、
「どういう意味ですか?」
倉田が訪ねた。
「こうなることを想定して、新潟のチームを洗脳しておいたのさ。彼らには仮想空間脱却の尖兵として私のために働いてもらうよ」
かずおは不敵に笑う。
そうとは知らない稲毛アウルズは、対戦相手の新潟米っとを睨む。
「さぁ、油断せず楽しもう!」
ヨシとは気合を十二分に入れる。
「楽しむ? 貴殿はこの仮想空間を楽しむと言った。 それは何故だ?」
新潟米っとの重装ロボットアバターが質問する。
「それは楽しいからだよ! 何を言っているんだ?」
ヨシとは首を傾げた。
「楽しい、それは痛みを伴わないこの世界で楽しいと言えるのか?」
重装ロボットの相方の女性エルフが質問する。
「あなたたち、様子が変だよ?」
フォーミンが新潟米っとの言動に不信感を覚えた。
「それでは! 新潟米っとVS稲毛アウルズ、バトル開始です!!」
レイナが元気よく叫ぶ。
「われわれは執行する」
「若者たちに、痛みのある教育を!」
新潟米っとが突撃を敢行する。
手には何も持っていない。
「フォーミン! コイツら、何者かに洗脳されてるみたいだ!」
ヨシとが違和感の正体に気づいてデュアルレイブンで牽制をかける。
「了解! ヨシとくん、気を付けて!!」
フォーミンも乱数戦になることを想定し、デュアルハンドガン「イージス」で弾幕を張る。
しかし、ダメージを与えても新潟米っとは怯まなかった。
「やはり、洗脳プログラムの影響かっ!」
ヨシとは舌打ちをする。
ノーブレス・アンノウンに洗脳され、ステータスがバグレベルまで強化されている。
「平等なる痛みを!」
「仮想空間に終焉を!」
このままではアバターが汚染され、肉体に深刻な影響を出しかねない。
ヨシとはなにか洗脳プログラムを解除できる手段を検討し始める。
目まぐるしく戦況が一刻と変わる中、思考するのは並のプレイヤーにはできない。
「フォーミン! 彼奴等にターゲットマークはでてるか?」
「ちょうどでてきたけど、まさか!?」
新潟米っとに洗脳された状態のターゲットマークがでている。
その色は毒々しい紫。
「でも、あのマークに細工があるかも?」
「こういう時こそ、テストプレイヤーズツール・グリッチスキャナー!」
フォーミンが心配する中、ヨシとはアバターにインストールされているツールを起動する。
ヨシとは南天堂のテストプレイヤーでもあるため、こういう不正行為に対するツールをアバターにインストールしてある。
本来なら使用しないが、万一に備えてインストールしてある。
「どうやら、あのターゲットマークは耐久が弱くなっているだけだが、油断はできない」
そう、あの極限まで強化されたアバターを封じなければ勝ち目はない。
「ヨシとくん、こういうときに備えてあるアイテムを買ったの」
フォーミンはアイテムストレージからあるスキルカードを取り出す。
「スキルカード、深き深淵の子守唄!」
かなりグレードが高いスキルカードを使って新潟米っとの動きを止める。
「平等なる痛みを」
「若者に救済を」
アバター達が必死にデバフを解除するが、
「トドメだ!」
ヨシとがデュアルレイブンにエネルギーをチャージする。
「われわれは!」
「救済のために!!」
デバフを解除した新潟米っと。
それよりも先にチャージを済ませた。
「喰らえ! ダブルマグナム!!」
渾身のチャージショットで、新潟米っと2人のターゲットマークを破壊した。
「試合終了! 稲毛アウルズ準決勝進出! なお、新潟米っとの二人の様子が明らかに不審的だったため、緊急ログアウト措置を行います」
レイナは救護班を要請する。
アバターの洗脳プログラムは解除され、ログアウトして数日安静にすれば復帰できるそうだ。
「とにかく運営にこの事を報告しておくよ。国民共産党がまたなにか仕掛けてくるかもしれないから」
「そうね。私もログアウトするよ」
この日のことをまとめるため、稲毛アウルズはログアウトした。
そして、国民共産党本部・かずおの執務室。
「なんということだ!」
BSO崩壊計画が意外な形で幕を引いたことに、かずおは憤慨していた。
「落ち着いてください。計画はまだ始まったばかり、ブラッディイヴ計画のまだ初期段階です」
倉田が憤るかずおをなんとか落ち着かせた。
「そうだったな。倉田くん、TGBMGC解体部隊のめどはいつ頃立つのかね?」
「興行解体さんを通じてクルド人工作員を派遣させてもらっています。早ければ来月中にも目処がつくでしょう」
「そうか」
かずおは目先の事態よりも、先のことを考えるべきだったと気づく。
「対馬くん!」
「ここに」
対馬がかずおの執務室に入ってきた。
「君にやってほしいことがある」
「それは何でしょう?」
「近年若者の自由が私達の意義をおびやかしている。そうならないよう、秋葉原のコンセプトカフェを適当に1つ閉店に追い込め。二度と営業ができないくらいに」
「それは明暗ですね。秋葉原を潰せば若者の文化は消えるというもの、お任せください」
対馬はそう言いながらカバンからワインを取り出す。
「これは、1995年のボルドーワインですか? 対馬さん、よくそんな年代物を」
「我が家の蔵の秘蔵ですわよ。倉田くんもいかが?」
こうして、かずおの執務室でささやかなテイスティングが開かれた。
何故か俊永も参加していた。
「では、日本の平和を守るため、若者たちを仮想空間から救うため、平等なる痛みと苦しみを伴う改革を」
「「「平等をすべての人々に」」」
グラスに注がれたワインは、まるで血のように赤い。
「さぁ、若者たちを救うための計画を次の段階に移すぞ」
夕日に照らされたグラスは、闇のように静けさをたたえた。
次回はいよいよ準決勝!
ワルキューレツインズとの死闘をお楽しみに!