EP17 青空と地獄のブートキャンプpt2
ある晴れた日、義人たちは全日本フリースクール対抗デジタル体育祭に向けて小泉塾へと参加する。
合宿所は勝浦市にある南天堂デジタルスポーツカレッジ。
荷解きを終えてBSOで練習試合200連勝を叩き出し、訓練プログラムと座学で基礎と知識を叩き込んだ。
そして、供花が主催する肝試し大会が始まる……!
「それでは肝試し大会をやりたいと思います!」
供花がいつになくハイテンションになる。
小泉塾の肝試しは、現在いるカレッジのプライベートビーチからサイト式宿舎エリアの奥にある神社をチェックポイントとして通過。
そして、このビーチまで戻ってくるのがお決まり。
その道中南天堂スタッフが仕掛けたギミックが満載のコースを声を上げずに無事にクリアすると、ボーナスとして豪華景品がもらえるという。
一言でも声を上げたら、スムージーを飲まされるという罰ゲームが待っている。
多くの塾参加者は絶対に飲みたくないということから、必死に声を殺したりと工夫しながら攻略していく。
「それでは、MAV登録した子もいると思うので最初のチームは出発してください!」
供花の合図で肝試し大会が始まった。
夕闇迫る空に星の灯が瞬く。
最初のMAVは、暗闇の中を懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく。
「おい、今年の小泉塾、いつにもまして気合い入りすぎだろ」
「でも、スムージーだけは飲みたくない……!」
そう言いながらも、カレッジスタッフが施したドッキリギミックに声を上げてしまう。
すると、何やら不気味に響く謎の音。
『スムージー』
とドローンが何やら怪しげなボトルを運んできた。
MAVたちがその蓋を開けて中身を飲み干す。
刹那、声にならない悲鳴がこだました。
「あらら、早くも脱落ね」
供花が不気味に笑う。
チームメイトたちは、絶対に飲みたくないと心に誓った。
次のチームが出発する。
そして、スムージーを飲まされる。
かくして、コースに設置された簡易トイレには列ができるほどになり、最後は義人と美浦の稲毛アウルズが出発した。
辺りはすっかり暗闇に染まり、街灯の明かりと懐中電灯が頼りになっている。
「よしくん、怖いよぉ……」
美浦が義人の右腕を抱きしめる。
柔らかな乳房の完食が右腕全体に伝わる。
海岸から宿舎へと続く道は、しっかりと整備されていて意外と歩きやすい。
「大丈夫だって。お前は目をつぶっていれば良い」
義人は美浦に目を瞑ることを勧め、美浦はそれに従った。
「しっかり掴まってろよ」
義人はドッキリギミックは対処すると言わんばかりに堂々と歩き始める。
ここで、第1関門が作動した。
南天堂開発室が趣味感覚で作ったARホログラフィのゾンビたちが出現した。
これを突破しないと先へは進めない。
「まるで、デンジャラスパニックだな」
ふくろうスクールに入ったばかりの頃に遊んだゾンビゲームを思い出しながらも、稲毛アウルズは難なくクリアした。
立て続けに第2関門が作動する。
どこからか聞こえてくる不気味な笑い声。
美浦は声を殺して義人の右腕を強く抱きしめる。
「どのみち、チェックポイントが近いということか」
笑い声を無視して、稲毛アウルズはチェックポイントへと到着した。
チェックポイントの神社でお賽銭をして記念写真を撮る。
それが自動的に供花のタブレットへと送信される。
「おやおやぁ? 藤宮くんたちが奮闘してますねぇ」
供花は少し悔しがった。
「でも、ここからが最終関門だよ」
供花が言うように、帰り道が最終関門となった。
義人が帰ろうとすると、ホログラフィのゾンビたちがすぐそこまで迫ってきた。
「そういうことか!」
義人は気付いた。
ホログラフィ投影ロボットが追跡していたのだ。
しかも、1回でも触れたらスムージーを飲まされる可能性が否定できなかった。
(なにか突破口はあるはずだ!)
冷静に状況を分析する。
ホログラフィたちが迫る。
(焦るな! 必ず切り抜けられる!!)
すると、何かがひらめく。
「美浦、このまま突っ切るぞ!」
「うん!」
意を決して走り出す。
ホログラフィたちの隙間をくぐり抜け、見事に切り抜けた。
「先生はまだ仕掛けてくるな!」
そう、義人の言う通り、供花は波状的に仕掛けてくる。
次に大量のコウモリ型ドローンが襲いかかってくる。
「何も考えずに突っ切るぞ!」
美浦を決して離さないためか、お姫様抱っこで駆け抜ける。
「よしくん、絶対に落とさないでよ!!」
「落とすものか!」
ドローンの群れを切り抜ける。
そして、そのまま海岸へと戻った。
「お疲れ様。でも、お姫様抱っこはこのご時世的にどうかなぁ……!」
供花が怒りと狂気を混ぜた笑顔を見せる。
他のメンバーからはブーイングの嵐が飛び出す始末。
「「あ、あはは……」」
義人と美浦は苦笑するしかない。
その一方で国民共産党本部地下施設。
「バトルトーナメントにネズミを潜り込ませて正解だったな」
かずおがBSOに諜報員を潜り込ませたことをほくそ笑む。
そう、ノーブレス・アンノウンは国民共産党が送り込んだ刺客。
しかもその正体は、自立型AIを搭載した情報収集プログラム。
彼らを通じてかずおたちに情報が流れ出ている。
「先生、これからどうされますか?」
対馬がかずおに訪ねた。
参院選への出馬を見送り、現在は体制を整えることを優先している。
「今はまだ行動を起こすべきではないが、オンラインでの演説くらいにとどめておこう」
かずおは政見放送の収録のため地上の本部建物へと足を運んだ。
いかつい顔立ちに、冷たい眼光。
いかに修羅場をくぐり抜けてきたベテランの風格がある。
国民共産党報道部がカメラを回す。
「みなさんこんにちは、国民共産党代表の村瀬かずおです」
政治家としての仕事をまっとうする姿はいつの時代も変わらなかった。
「私達国民共産党は、前体制での不祥事をうけて現在は参院選への出馬を辞退することを決定いたしました」
収録を一通り終えたかずおは、役員たちと会議を開く。
「やはり、日本の没落貴族を取り込んだのは正解でしたね」
「先生のお考えは流石です」
党員からかずおに対する賞賛が飛び交う。
「ありがとう。個性が輝く時代を一刻も早く終わらせなければならない」
「ですが、出馬しないとなると却ってダメージを受けるのでは?」
「その必要はないよ。国民共産党は、既にあの計画を次のステップに移したのだから」
かずおは党員たちにある計画が次の段階に入ったことを示唆した。
「ブラッディ・イヴ計画、ですね?」
「そのとおりだ。クリスマスチャンピオンシップを日本で開催するという馬鹿げた政府に一泡吹かせるのだよ」
かずおはそう言いながらワインを飲む。
「おい、これは梅酒じゃないか! しかも長野県産の希少な梅を使ったワインテイスト。よく購入できたなそんな希少品を」
かずおは、飲んだワインが長野県産の希少な梅を使った梅ワインであることに気づく。
共産党本部内に愉快な笑いが響き渡った。
そんなわけで、次回は合宿では定番のイベントにちょっとしたアクシデントをプラス!
はたして、そのアクシデントとは一体……?