我血肉欲
真っ黒な服はあったが、フード付きじゃなかったのでグレーのパーカーを下に着込んだ。動きやすくするためにコートは着ないようにした。キッチンから包丁を取ってくると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「これ以上は人通りが少なくなる。もう行かなくちゃな。」
決心はしたが、これから肉を採りにいくと考えると不安で仕方なかった。大丈夫だと思うが、最後にもう一押しするために赤ん坊に会いに行った。
「ううーあ?」
「お願い。必ず採ってくるから…彼女の肉を食べないで、お利口にして待ってるんだ。じゃあ行ってくるね。」
「うう」
真冬の夜風は冷たいはずなのに全く冷たく感じなかった。むしろ暑くて汗をかいている。身体の中に流れる熱い血が指先まで巡っているからだろうか。
マンションの周りや公園、路地裏を回って標的を探した。しかし、見つけるのは親子や男女の2人組、大柄な男ばかりだった。すれ違う際は用心して顔を見られないように道の端を沿って歩いた。人間の視線が痛いと感じたのは初めてだ。
「あいつらはダメ、ダメ、あいつもダメだ! 誰かいないか? 誰でもいい。誰か……」
手頃な相手が上手く見つからず、徐々に焦り始めた。
「どうすれば。いないのか? 誰か……あ。」
彷徨い続けた末、辿り着いてしまった。目の前には佐藤の表札があった。家は明かりが点いていて、中に人がいると判断できた。
「頼む。出てくれ。」
祈るようにインターホンを押した。迷いはほとんどなかった。しかし、昨夜のことがあったので男と会ってくれるかどうかは賭けだ。
「……はい」
「」