歪愛情注
文書の書き方に拙い点がありますが、最後まで読んでくださると嬉しいです。
目の前で起こった出来事を一言で言い表すなら、そう「悪夢」だ…。
(感情がぐちゃぐちゃだ……)
愛する人の腹を喰い破って生まれたコレに対する憎しみはある。怒りで体は震えている。
しかし、それと同時にコレが我が子だと感じ取った。理屈でも何でもなく、ただそうであると、脳に刷り込まれているようだ。
「三つ葉……」
彼女は……きっと死んでいるだろう。裂かれた腹をこれ以上見たくないため、布団を優しくかけた。艶を失った髪を触り、細くなった手を握ると、昨日まで楽しそうに笑っていたのが嘘かのように体が冷たくなってきていた。ぽろぽろと自然に涙が溢れた。彼女の死を理解はできても、まだ整理はできていない。
「うー、うぁう」
俯いていると赤ん坊がベッドの上を転がるように移動し、腕に触れた。慰めてくれているのだろうか? 小さな手はほんのり温かくて、生命の鼓動を感じた。そして痛感した。
ーーーああ、この子は生きているのだ。と
ピンポーンピンポーン
赤ん坊にタオルをかけていると、不意にインターホンが鳴った。
(誰だ? 父さんと母さんはまだ旅行中だし……… ならば、誰だ? ダレだ? だレダ? この子を…護らなければ!!)
この時頭の中がその意思で埋め尽くされた。視界はうっすら緑色に染まって、手足による四足歩行で玄関へ移動した。自分で言うのもなんだが、まるで化け物のような挙動だった……。
訪問者を覗き穴で確認すると、翔と雲母、友斗の姿が見えた。
「やっぱ、2人でどっか遊びに行ってるんじゃねぇか?」
「いいや、たとえそうだとしても連絡を一通もよこさないのはおかしい。」
「そうだよ。こっちから連絡しても返信どころか、既読すらつかないし。きっと体調が悪くなっちゃったんだよ。」
忘れていたが、今日は12月25日月曜日で通常授業日だった。
(みんな…来てくれたんだ。)
彼らの顔を見たら安心した。扉を開けようとノブを掴んだが、開けられなかった。
この状況を何て説明しようか。昨夜彼女を孕ませて、その時できた赤ん坊が腹を喰い破ったって? そんな事…言えるはずないし、なにより信じてくれるはずがない。
僕は気づかれないようにノブから手を離し、部屋に戻った。中にいることがバレないように息を殺した。それからしばらくの間は居たみたいだが、諦めて帰ってしまった。靴音が遠ざかっていく。
「ま、待って…。あ、ああ……あああ〜〜〜っ!」
今更になって後悔の念に駆られた。
(何故言わなかった? 信じてもらえないから? そんなことはない! 僕たちは親友のはずだ。彼らがそんな人たちじゃないって知っているはずなのに……)
「最低だな…僕は。」
しばらく天井を見つめていた。自分が嫌いになった。何も考えたくなかった。もうこのまま死んでしまおうか。そう考えた時、翔の言葉を思い出した。
「俺たちは親友だ。卒業して離れ離れになってもそれは変わらない。これからもちょくちょく連絡しあったり遊んだりしようぜ。」
「よし、言おう。言うんだ。」
立ち上がってスマートフォンに手をかけた。僕たち5人で作った"Lane"の親友グループ。ここにメッセージを入力している時だった……。
「ううう、うわああああ〜」
赤ん坊が大声で泣き出した。今は大切なメッセージを入力している最中だったが、さすがに放っておけなかった。
「おお〜。よ、よしよし。 どうしたんだ?」
昔見たアルバムの写真で、母が僕のことを抱っこしていた姿を思い出した。きっとそれよりも不恰好だが、なんとか抱き抱えることができた。体を揺らしてなだめようとしているが、一向に泣き止まない。
「トイレなのかな? でも何も出してないし。」
ずっと泣き叫んでいるので体を揺らしていると、か細い声が頭に届いた。
ーーお、なか……ぱ…パ…お…か………空…いたよーー
「そうか! お腹が空いたんだ。そうだろ?」
突然閃いたかのように叫んで、返事ができない赤ん坊の顔を見た。すると次第に泣き止んで、心なしか微笑んだ…ような気がした。
「ちょっと待ってろ。今持ってくるから。」
赤ん坊をベッドに降ろして、冷蔵庫やキッチン周りの食材を確認した。
「何を食べれるんだろう。離乳食なんて家にあるわけないし。牛乳、パン、粉末コーンポタージュ。ここら辺か。」
牛乳をコップに注ぎ、パンを小さくちぎり、お湯でコーンポタージュをもどした。ひとまずこれらを持って部屋に戻った。
「これ、食べれるかなぁ? とりあえず舐めるだけでも………」
ぴちゃぺちゃ くちゃ
「だあ」
顔を上げた赤ん坊の口の周りは真っ赤になっていた。その光景を見て、僕は皿を落としてしまった。分かってしまったからだ。なぜ赤くなったのか…が。
「おまえ…食べたのか?三つ葉の肉を。」
肚の奥底から何かが込み上げてきた。赤ん坊は何にも気づかず、無邪気に笑っている。
「そうだった。おまえは人の腹を喰い破って生まれた化け物なんだよ! おまえが…おまえなんかが生まれなければ! 何だ…何なんだよおまえは! うっぐ、うああああっ!!」
思いっきり拳を振り上げ、振り下ろした。拳は赤ん坊の横に振り下ろされ、ベッドがミシミシと音を立てた。
「ちくしょう。殴れるわけないじゃないか。ちくしょう……。」
「あう?」
「そうか、そうだよな。お腹が空いたんだもんな。でも、その人はおまえの母親なんだ…。僕の大事な人なんだ…。だから食べるのはやめてくれ。」
赤ん坊の顔を見て必死に語りかけた。そして、ある決心もした。
「肉は……、肉なら…僕が採ってくるから……。」
この時、僕はどんな顔をしていただろうか? 父親らしい顔がだっただろうか?
読んでいただきありがとうございます。
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