1話
どこにでもあるような何の変哲もない町。特筆する点もない。
あるのは昔から伝わる町の伝説のみ。
老人たちは話をまるで本当にあったかのように語る。その姿は自分の目にはおかしく見えた。
そう思っていたが…
「知ってる?この町に伝わる伝説」
放課後、授業が終わって間もない教室で友達である蒼はそう言う。
唐突にその話を持ち出す俺にあきれながらも答える
「どうせあれだろ。桜のことだろ」
「そうそう。なんか面白そうじゃないか?」
まただ。この町の人間はその話を聞くと絶対、
「なあ俺たちで探してみないか?」
と言うのだ。だいたいその話が実話であるとこの町の老人はそう言うので皆、その話に出てくる場所を探そうとする
「すまんがあいにく忙しいんだ」
「嘘つけ。万年暇してるやつが何を言う」
誰が万年暇してるやつだと言いたくなる気持ちを抑え、カバンに荷物を詰めながらこう返す。
「蒼こそ、提出する課題が大量にあるだろ。それに…」
「まあまあそんなことはあとで考えたらいいんだよ」
「ばかだろ」
シンプルな悪口が出てしまった。普段からそういうこと言わないようにしていたのに。
でもまあ実際ばかだしそこまで気にすることでもないな。
「今日は俺の祖父の見舞いに行かなきゃなんだ。だからまた今度にしてくれ」
「そ、そうか。見舞いなら仕方ないか」
さすがに見舞いに行くのを邪魔するのは気が引けたか、いつもはもっと粘る蒼もすぐに手を引いた。
「じゃあまた明日な」
そう言い、教室の扉を開けこの場を去る。
病院に行くには結構な距離があるので正直いってあまり行きたくないが、さすがに人としてどうなのかと思うので必死に歩いている。
あまりにぎやかとは言えない町を歩きながら、今日の晩御飯について考えたり、帰ったら何をするかなどを考えていた。
気づけばいつの間にか病院の前に来ていたので、さっさと会いに行こうと考えて向かった。
祖父が入院している部屋まで来たので、扉を開けた。
部屋に入ると、ベットでゆったりと本を読んでいたであろうじいちゃんがいた。
「じいちゃん、来たよ」
そう声をかけると、
「おお、優斗じゃないか。わざわざ見舞いに来てくれてすまないなあ」
「…僕は隼人だよ」
俺のじいちゃんは俺が中学の時に認知症を患い、俺のことを父である優斗と勘違いをしている。完全に孫のことを忘れている様子おり、このやり取りもずっとしてきている。
「いやあ、階段から落ちて入院するはめになるとは思わんかったよ」
「ほんと気を付けてくれ」
「あ、そうだ。優斗、お前に話すことがある」
また始まった。こういうことを言う時は決まって、
「この町の伝説の話だ」
とさっきも聞いた話をしようとしてくる。じいちゃんは父に定期的にこの話をしていたのか、俺に会うたびにこの話をしてくる。
「その話なら前も聞いたよ」
「だったらなんだ。とにかく聞くんだ」
「はあ」
ため息をつく。こうなってしまえばもう止まらない。語り終えるまではずっと止まることはないだろう。
しぶしぶその話を聞くため近くの椅子に座り、聞く姿勢をする。
そうして語り始めた。