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日のない朝にバスで向かう  作者: 蒸気ロードローラー
1/1

美しい世界

 ある日の早朝、いつもであれば太陽が徐々に街を明るく照らしつつあろう時間。


 ただその日に限っては太陽が見えず、街は夜のような暗さになっていた。

 ただ夜とは少しニュアンスの違う朝であり、それが普段では感じることのできない不思議な感覚を得ることが出来る。


 そんな日にある少年が早起きをして荷物をまとめていた。


 少年の住む所はアパート、少し古さを感じさせる2階建てで、その2階中央の部屋。


 荷物を、と言ってもそこまで量はないものを鞄に入れて一呼吸する。

 そして玄関に向かい靴を履き、鍵のかかった扉を開錠し外へ出る。


 季節は秋、少し冷んやりした風に当たりながら鍵を閉め階段を下がっていく。

 暗さも相まってしんみりするような、とても心地の良い心が穏やかになるような気候である。


 アパートに面した細い道を渡っていき、少しして広さのある道路に行き着く。

 車道は6車線あり歩道のある道路。


 こちらに向かってくる車が走る車道を左手に置き歩道を歩いて進む。


 車の交通量は多く、歩行者もそこそこ見ることだできる。


 人々はこんな時間になっても周りが暗いことに少々驚いている様子ではあるが、だから何をするでもなく己の向かう場所へ進んでいる。


 しばらく歩いているとバス停が視界に入る。

 屋根と時刻表がある程度のバス停、ただ時刻表には何も書かれていない。

 少年の目的地である。


 そのバス停は隠されているわけでもなく昔からその場所に存在している。

 しかし人々はそのバス停に興味を持たず、歩行者は目もくれない。バスの止まらないバス停に関心があるのも変な話ではあるが。


 少年が着く頃には2人が既に並んでいた。その列に少年も並ぶ。


 しばらく待つ。少年が想定していた予定よりも早く着いていたようだ。

 その間にも少年の後ろに人は並んでいき、最終的には3人並んだ。

 並んでいる人同士の会話はなく、(みな)知り合いなどはいない様子。


 少年は待ち時間で普段はない暗さや心地よい風を楽しんでいた。

 初めて夜中に出歩いた気持ちに似たものを感じる。少し悪いことをしているような。

 遠足前夜な気持ちの高ぶりのようなものも同時に感じる。


 そんなことをしているうちにバスがやってきた。


 そのバスの見た目はその辺によく走っている市バスと似ているが、どのバスとも違う。最もそれに違和感を持つことはない。


 既に数人バスに乗っているようである。バスの扉が開き、列の前の人から順に乗り込んでいく。

 入る扉はバスの中央にあるもので、整理券を取ったり料金を払うようなことはせずに入っていく。

 乗るべき人しか乗らないので当然とも言える。


 少年も前の人たちと同じようにバス内に乗り込み、空いている2人掛けの座席の窓側に座る。

 対向車線の見える右側の座席である。


 車内は明かりが微かに焚かれている程度であった。


 全員乗ってもまだ余裕はあり、どの人も他の人と隣り合わせることなく座っている。


 全員が乗り込みしばらくしてから扉が閉まり、バスは進み出した。

 周りの車よりも多少遅いぐらいのスピードで走っている。


 時刻は朝であるが暗い空を照らすように、光るべき照明は灯っている。

 そんな夜の景色とあまり変わらない窓の向こう側を窓枠に肘を置きながら眺めていた。

 そこまで高くなりきらないビルや小さな商店街など、特別なにがあるわけでもないが、心落ち着くとてもいい景色である。


 バス停には止まらずにどんどん走っていく。信号にもあまり引っかからずスムーズに走行していく。


 いくらか時間が経ったか、気づけば周りの雰囲気は変わっていた。


 大都会とまではいかないがそれなりに建物なんかも多かった景色から、家がポツポツ建っていて畑が一面を覆っているような田舎景色になっていた。

 明かりも少なくなり、より暗くなっていった。信号機も減り、停車することなくバスは走る。

 田舎景色もいいものである。


 さらに走っていくと建物はなくなり、道の外側は木一面といった景色に変わっていった。


 そんな道でもしばらく走っているとトンネルに入っていった。


 トンネルに灯りは灯っていなく、窓の外の景色はほとんど見えなくなってしまった。


 少年は景色が見えず退屈していた。少年は乗り物に乗った時の外の景色を見ることが好きで、それ目的のためにバスや電車に乗ったりすることもある。

 逆に地下鉄は外の景色が見えないため、嫌いな乗り物である。それほどに外の景色が好きなのである。


 そんな面白みのない道をバスは進んでいく。


 しばらく経つと、バスの向かう先に光が見えてきた。


 出口かと少年は思ったようだが違った。


 光の先にあったものは広い空間であった。果てしなく広い空間。

 バスの進む道路を残してくり抜かれたような四角い空間であった。


 ただの四角い空間ではなかった。金色に輝く何かの像が、目で追いきれないぐらい低い底から天井まで積み上げられていた。

 説明しにくいが、禍々しい模様が彫られた金の柱が無数に建っているようなものであり、道は空間の中央あたりで90度左曲がりになっていた。その道を避けるように金の柱がそそり立っていた。


 その景色は異質なもので、人によっては怖さを抱くこともあるかも知れない。

 ただ少年にはとても美しい景色に映っていた。


 バスが曲がるためにスピードを少し落として左折する時も一面の金の柱の数々に圧倒されていました。


 バスは左折しその空間の出口へ向かう。


 出口はこれまで通ってきたトンネルのようになっていた。

 ただすぐにそのトンネルも抜ける。


 そこは森のような場所であった。


 木々を分けるようにして道路が舗装されている。

 ただアスファルトではない地面を平したような道路である。


 そしてその木々、地面には雪が降り積もっていた。今の季節からして考えられないことだ。


 森の木は針葉樹林であったため雪景色に映えるものであった。

 少年もその風景に心を躍らせていく。


 ある時を境に森がなくなった。

 少年は何事かと思ったが、バスの前方を見るに目的地についたようだ。

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